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令和3年9月7日会長コラム更新「アップル(リーダーアプリ)事件(公取委令和3・9・2公表)」

アップル(リーダーアプリ)事件(公取委令和3・9・2公表)
2021/9/6
公正取引委員会(公取委)の審査事件に関する発表が本年(2021年)4月以降皆無で,コロナ禍の審査業務への影響が大きいことを心配していたところ,9月に入り,デジタルプラットフォーム(DPF)による違反事件として,米国アップル(Apple)のアプリストアに係る審査事件の処理結果が公表された(9月2日)。杉本前委員長が最重点課題として取り組んでこられた巨大DPFに対する違反事件審査がようやく成果を上げたものといえ,これまでの実態調査の報告書とは異なる意味合いを有すると思われる。本件にについて簡単に紹介するとともに,いくつか感想を述べてみたい。

Ⅰ 事件の概要

1 経緯
本件は,アップルが運営するアプリストア(App Store)におけるデジタルコンテンツの販売等(音楽,電子書籍,動画等の配信事業)を巡る事案であり,平成28年10月に審査が開始されている。アップルに対するMNO(携帯キャリア3社)とのiPhoneの取引契約に係る事件と同時期であるが,後者の審査が先行して行われ,平成30年7月11日に処理結果が公表されている(アップルから一部の契約の改定の申出があり,これにより拘束条件付取引の疑いは解消されたとして審査終了)。
本件については,令和3年9月2日に処理結果が公表されており,自発的改善による審査終了(今後,改善措置の実施を確認した上で終了)という点でiPhone契約事件と同じである。

2 審査事実

  公表資料によると,本件の審査事実は次のとおりである。
①自らが運営するiPhone向けアプリを掲載するApp Storeにおいてアプリを提供する事業者(デベロッパー)の事業活動を制限している疑いがある(私的独占又は拘束条件付取引等)。
ⓐデベロッパーがApp Storeに掲載するアプリ内でデジタルコンテンツを販売等する場合に,アップルが指定する課金方法(IAP:in-app payment system)の使用を義務付けている。
ⓑデベロッパーに「アウトリンク」(消費者をIAP以外の課金による購入に誘導するボタンや外部リンクをアプリに含める行為)を禁止している。
アウトリンク禁止行為は,IAP以外の課金による販売方法を十分機能しなくさせたり,デベロッパーがIAP以外の課金による販売方法を用意することを断念させたりするおそれがあり,独占禁止法上問題となり得る。

②App Storeに掲載できるアプリの遵守事項を定めたガイドラインの記載や「リジェクト」(ガイドラインを遵守していないと判断されることをいい,リジェクトされるとApp Storeへの掲載ができない)の理由が不明確であると指摘されている。これにより,特定のデベロッパーを排除し,また,デベロッパーの事業活動上の予見可能性を損ない,新規参入や投資を制限する効果を与えるものであり,競争に悪影響を与える可能性がある。

  3 アップルの申出

   ①:音楽配信事業等,雑誌配信事業及びニュース配信事業におけるリーダーアプリ(ユーザーがウェブサイト等で購入したデジタルコンテンツを専ら視聴等するために用いられるアプリ)についてアウトリンクを許容することとし,ガイドラインを改定する)。
   ②ガイドラインの明確化・アプリ審査の透明性向上の取組を進め,その取組状況について,3年間にわたって年1回,公取委に報告する。

  4 公取委の評価と事件処理

アウトリンクの許容により,デベロッパーは,リーダーアプリを活用することで,自らのウェブサイトへのリンクなどを表示できるようになり,IAP以外の課金による販売方法の適用が妨げられる懸念が解消されることから,音楽配信事業等における独占禁止法上の問題を解消するものと認められる。
    今後,アップルが申し出た改善措置を実施したことを確認した上で本件審査を終了することとした。なお,アップルの発表資料では,2022年の早い時期に(in early 2022)ガイドラインの改定が発効するとされている。

Ⅱ 若干の感想
 1 本件の審査及び処理

①5年近い審査期間を要したことになるが,公取委では「調査期間が長いとは考えていない」(9/2日経速報ニュース)と説明している。いわゆる「アップル税」問題への関心が高まったのは2019年3月11日にSpotifyが欧州委員会に申立てを行い,2020年6月16日に音楽配信サービスについて調査が開始され(2021年4月30日に異議告知書が発出されている〔支配的地位濫用〕),また,2020年8月にEpic GamesがAppleを反トラスト法違反で提訴したことによるものであり,iPhone事件の審査を先行させてきた公取委の本件審査もこの頃から本格化したのかもしれない(両事件の担当は同じようである)。2020年9月に杉本委員長(当時)は,アプリ課金問題を検討していることを認めていた(20/09/03日経記事)。

②公取委にとって,アップルは1980年代末から度々審査対象としてきたものの,法的措置には至らないという苦杯をなめてきた相手であるが,今回も法的措置を採ることはできなかった。

  ・公取委は,1989年10月3日,アップルコンピュータジャパンや販売元のキヤノン販売に対して並行輸入妨害や再販売価格拘束の疑いで立入検査を行ったが,1991年2月に両社に注意を行って審査を終了した。当時は,内外価格差が大きな政策課題となっており,また,公取委は流通分野や輸入総代理店による競争制限行為に関するガイドラインの作成を検討していた時期であり,日米構造問題協議において独占禁止法・競争政策の強化を米国から求められていた最中であったが,逆に,米国側からは独占禁止法の運用強化の第1号が米国企業相手なのかという指摘もなされていた。
  ・公取委は,1999年12月7日,アップルコンピュータに対して再販売価格拘束の疑いで立入検査を行ったが,2000年10月3日に同社に警告を行った(担当官解説公正取引603号〔2001年1月号〕82-84頁)。
  ・その後も,アップルの流通取引が独占禁止法上問題となり得るのではないかという報道が度々なされてきたが,公取委が審査事件として処理結果を公表したものはiPhoneの契約を巡る平成30年7月11日の公表事例(自発的改善等による審査終了)までなかったようである。
   ・家電量販店のインターネット販売サイト経由の販売の制限(10/04/28日経)
   ・iPhoneの中古端末の再販売の制限(16/7/28日経)
・ヤフーのゲーム配信に対する妨害(18/8/16日経)
   ・部品供給業者に対する知的財産権侵害(19/08/07朝日)

③アップルが公取委との合意により世界全体に適用されるガイドラインを改定すると発表したこともあって,巨大IT企業に公取委が初めてチャレンジして成功した事例と受け止められがちであるが,実は公取委は2000年代には様々な先端的な事案を各国競争当局に先駆けて審査事件として取り上げてきた実績があることを忘れてはならない(その結果は必ずしも成功したものばかりではないにしても)。こうした取組が2010年代に途絶えていたことが悔やまれるのであり,今回の審査事件を機に更に積極的な審査活動を期待したい。

☞栗田誠「排除行為規制の現状と課題」金井貴嗣・土田和博・東條吉純編『経済法の現代的課題(舟田正之先生古稀祝賀)』(有斐閣・2017年)175-195頁参照。

④今後,欧州委員会が音楽配信サービスについて,アップルに対して違反認定及び制裁金賦課決定を行うことになると,公取委の今回の先駆的取組が埋もれてしまうおそれもあり(インテル事件の二の舞),欧州委員会の動向が注目される。また,公取委が欧州委員会とどのような執行協力を行ってきたのかも気になるところである。

2 実体面

①審査対象が音楽配信等に限定され,改善措置の対象は雑誌・ニュース配信に拡大されているものの,App Storeの売上げの3分の2を占めるとされるゲームは対象外である。公取委は,「音楽配信,動画配信,電子書籍といった市場では著作権の負担が大きい。…30%の手数料を乗せるとほとんど利益が出ない。アプリ開発者の努力で圧縮することが難しいため着目した」(9/2日経速報ニュース)と説明しており,App Storeにおけるゲームの問題については,「コメントを控える」と応答している。リーダーアプリへの限定には根拠がないとする指摘もあるところ(9/3日経記事における池田毅弁護士コメント),今後の公取委の動向が注目されるが,ゲーム等に審査対象を拡大することにはならないのではないかと思われる。なお,グーグル等の同様の問題を指摘されている事業者についても,公取委では「その他の企業のことは差し控える」と応答している。

②アウトリンクの禁止が私的独占又は不公正な取引方法(拘束条件付取引等)に該当する疑いがあるとされ,公表資料では,アウトリンクの禁止が「IAP以外の課金による販売方法を十分に機能しなくさせたり,デベロッパーがIAP以外の課金による販売方法を用意することを断念させたりするおそれ」があるとのみ説明されている。しかし,もう少し明確に,いわゆるセオリーオブハーム(theories of harm)を説明することが必要ではないか。アウトリンクの禁止がどこの市場における競争をどのようなメカニズムで損なうおそれがあると公取委が考えているのかを具体的に示すことが望まれる。欧州委員会の異議告知書のプレス・リリース(21/4/30)の方が詳しいという状況には問題があると思われる。また,App Storeの実態等に関する関連事実をより詳細に説明することが望ましい。自らの実態調査報告書を引用するのではなく,本件審査の結果を示すべきである。

 ③公取委は,アウトリンクの許容により独占禁止法上の問題は解消されると評価している。「アプリストアの使用の対価を手数料として徴収すること自体は,独禁法上問題にはただちにはならない」と説明しており(9/2日経速報ニュース),手数料率が30%(一定範囲では15%)という水準であること自体は問題にしないという立場であると思われる。他方,デベロッパーの不満は30%という手数料の高さにもあるように思われ,前記引用の杉本委員長のインタビュー記事でも,優越的地位濫用規定による対応の有効性が指摘されていた。公取委の公表資料では,「拘束条件付取引等」と記載しており,「等」に優越的地位濫用が含まれ,その観点からも審査した可能性はあるが,価格設定自体には介入しないという伝統的立場を維持したものといえる。

3 手続面

  ①本件審査に関する立入検査の報道はなく,アップルの協力を得つつ,報告命令(依頼)や供述聴取といった手法を用いた審査であったと推測される。「対面やオンラインで聴取を重ね」,「利用者アンケートを行い,ルールが消費者行動に与える影響なども分析」したとされ(9/2朝日),また,公取委も「外国企業は言語の問題もある。国内の通常事件を処理するのとは色合いが違う」(9/2日経速報ニュース)と審査の難しさを吐露している。どの程度内部資料の分析(デジタル・フォレンジック)が実施されたのか分からないが,今後の事件審査への示唆は大きいと思われる。

  ②アップルは,公取委との「合意」によることを強調しているが,公取委の手続上は,アップルが申し出た改善措置が「(独占禁止法違反の)疑いを解消するものと認められたこと」から,「今後,…改善措置を実施したことを確認した上で本件審査を終了することとした」とされている。公取委は,アップルが今後実施する改善措置により問題は解消すると評価している点で,大阪ガス事件(平成2・6・2公表:自発的改善による審査終了)とは異なっている。大阪ガス事件の公表資料には「公取委が当該措置により違反の疑いが解消されると判断した……旨の記載がなく,将来的には改善後の同社の行為が審査対象となる可能性があると思われる」(大阪ガス事件担当官解説公正取引838号〔2020年8月〕82頁)と解説されている。いずれにせよ,アップルが定めているガイドラインがどのように改定されるかにかかっている面もあると思われ,公取委の十分な確認が求められる。

  ③アップルのプレス・リリースだけを読むと,公取委が確約計画認定を行ったような印象を受けるが,上記のとおり,そうではない。なぜ公取委は確約手続によらなかったのかという疑問が当然出てくる。公取委は,「確約手続きを使うと,詳細な事実について審査を行う必要があり,さらに時間がかかる。アプリ開発者への影響を一日でも早く取り除くということに重きを置いて,確約手続きをとらず,審査を終了する判断をした」(9/2日経速報ニュース)と説明している。
「確約手続は,排除措置命令又は課徴金納付命令…と比べ,競争上の問題をより早期に是正し,公正取引委員会と事業者が協調的に問題解決を行う領域を拡大し,独占禁止法の効率的かつ効果的な執行に資するものである」(確約手続対応方針1)が,同時に,措置内容の十分性及び措置実施の確実性が認定要件となっており,また,確約計画の不履行に対する制裁等の仕組みがなく,公取委にできることはあらためて審査を行い,排除措置命令等を行うことにとどまるから,公取委としては相当の密度の審査を行っておくことが必要と考えられているのかもしれない。今回の措置により,公取委が,確約手続以外に,従来からの「自発的措置による審査終了」という処理方法を引き続き用いていく方針であることがはっきりしたといえる。
公取委は排除措置命令を目指していたとされており(9/2朝日),少なくとも「法的措置」として位置付けている確約計画認定を行うことが目指されていたものと推測される。しかし,確約手続の利用については,アップル側が応じなかった可能性もある。アップルとしては,公取委との間の問題だけではなく,欧州委員会をはじめとする各国競争当局の手続や民事訴訟を抱えているだけに,なるべく非公式な方法による決着を望むことは自然なことであるし,公取委としても,確約通知を一方的に行っても申請を強制できない以上,排除措置命令を行えるだけの理屈や証拠が得られる見込みがないとすれば,自発的改善による審査終了という処理を選択せざるを得なかったということかもしれない。

④アップルのプレス・リリースには,「この合意は日本の公正取引委員会との間の合意によりされたもの」,「Appleは日本の公正取引委員会に深い敬意を表し,これまでの共同の努力に感謝いたします」といった表現が含まれている。こうした賛辞をどのように受け止めればよいか。さすがに,Microsoftが1998年のブラウザ事件(平成10・11・20警告:OSとブラウザの一体化)について,「反トラスト法(米独禁法)より厳しい日本の独禁法で違反性が認められなかったのは,大きなニュース。勇気づけられた」(08/11/24日経産業)とコメントし,IntelがCPU排他的リベート事件(勧告審決平成17・4・13審決集52巻341頁)について,公取委の勧告を応諾しつつ,「独禁法違反にあたる事実はない」が,「措置に従っても取引に問題は生じない。審判手続きに入れば取引先に迷惑がかかる可能性もあるため」(平成17・4・1日経夕刊)と説明していた頃とは少し違うようである。しかし,この賛辞には,違反認定をされなかったこと,特に私的独占と認定されなかったこと,対象がリーダーアプリに限定されることへの安堵が含まれているのではないかと感じられる。

令和3年7月20日会長コラム更新「直近の米国反トラスト法の動きーFTCを中心に」

 直近の米国反トラスト法の動きーFTCを中心に
ここ1か月くらいの間に,米国では反トラスト法・競争政策を巡って様々な動きがありましたので,いくつかご紹介したいと思います。バイデン政権下の連邦競争当局が始動し始め,暫くは目が離せない展開になりそうです。

 第1には,何といっても,連邦取引委員会(FTC)の委員長にリナ・カーン(Lina Khan)氏が就任したことです。コロンビア大学ロースクールの准教授であった同氏がFTCの委員に指名されたことは4月の月例研究会の冒頭挨拶で紹介しましたが,委員長の指名権限を有するバイデン大統領は上院の承認を得た同氏を委員長に指名しました。因みに,もう一つの競争当局である司法省反トラスト局担当の司法次官補(Assistant Attorney General)の指名は未だなされていません。
 カーン委員長率いるFTCは,早速,果敢な動きを見せています。7月1日の初めての公開の委員会会合において,①FTCの規則制定手続の迅速化,②FTC法5条の「不公正な競争方法(unfair methods of competition)」に関する2015年公表の執行方針(FTC, Statement of Enforcement Principles Regarding “Unfair Methods of Competition” Under Section 5 of the FTC Act, Aug. 13, 2015)の廃棄,③法執行の優先分野における強制調査権限の包括的授権という重要な決定を3対2のパーティ・ライン(党派に沿った票決)で行いました。FTCが連邦議会から与えられている権限を最大限活用しようということであると思いますが,共和党の委員からは,内容面はもとより,進め方が拙速にすぎるという批判が出ています。
 特に,不公正な競争方法に関する2015年の執行方針については,長年にわたる議論の蓄積や判例の展開がある中で,民主党オバマ政権下のラミレス委員長時代に妥協の産物として漸く出来上がったものであっただけに,それを廃棄し,シャーマン法及びクレイトン法の規制範囲を大きく超える形での積極的な不公正な競争方法規制については今後,議論を呼びそうです。
 また,これまでも様々な事案でFTCの審査対象となってきているAmazonは,6月30日にFTCに対し, Amazonに対するFTCの意思決定手続においてカーン委員長は回避すべきであるとする申立てを行いました。カーン委員長がこれまでAmazonの反トラスト法違反を論文等で主張してきており(Lina M. Khan, Amazon’s Antitrust Paradox, 126 Yale L.J. 710-805 (2017)が代表的),明らかな予断・偏見を有しており,公正な判断が期待できないことを理由とするものです。この点は,上院公聴会においても質問が出ており,カーン氏は個々の事案ごとにFTCの倫理担当者と相談すると応答していたようです。FTC規則には,委員の資格喪失(disqualification)に関する手続規定があり,実際にも,前職における関与,個人的・金銭的利害関係,予断・偏見等を理由とする当事者からの申立てや委員の回避がしばしば行われてきています*。FTCではAmazonによる企業買収事案が審査されることになっており,今後どのように展開するのか注目されます。

 *少し古いのですが,栗田誠「米国連邦取引委員会における委員の資格喪失」同『実務研究 競争法』(商事法務・2004年)183-198頁参照。
*AAI(American Antitrust Institute)は,6月24日にバイデン大統領宛てに,速やかな司法省反トラスト局長の指名を求める書簡を発出していますが,人選に際しては事件処理手続からの回避が少ないことを考慮要因の一つとすべきことを指摘しています。FTCのカーン委員長のことを念頭に,特に独任制である司法省反トラスト局のトップの人選に関して注意を促したものといえます。

 第2に,7月9日にバイデン大統領は,「米国経済における競争促進に関する大統領令(Executive Order on Promoting Competition in the American Economy)」に署名しました。過去数十年間に米国経済の寡占化が進行し,経済成長やイノベーションを阻害しているとして,連邦行政機関に対して全部で72項目に及ぶ競争促進策を採るよう促すものです。特に,①司法省反トラスト局及びFTCに反トラスト法を厳正に執行することを求めるとともに,提訴されなかった企業結合に対して事後に提訴することが現行法上できることを確認し,②労働,農業,ヘルスケア,ハイテクの各分野に法執行の重点があることを表明し,③国家経済会議(National Economic Council)の委員長の下に「大統領府競争評議会(White House Competition Council)」を設けることを内容としています。大統領令を受けて,司法省反トラスト局のパワーズ局長代行とFTCのカーン委員長は,同日に連名で,現行企業結合ガイドラインが過度に許容的でないか精査する必要があり,改定に向けた共同の見直し作業を速やかに開始する旨表明しています。

 第3に,連邦議会でも,反トラスト法やその執行を強化することを内容とする法案が多数提出されています。その内容は様々ですが,6月に下院に提出された法案にはデジタル・プラットフォーム(DPF)に対するEUスタイルの事前規制アプローチを採り(法案名が「プラットフォーム独占禁止法案」,「プラットフォーム独占終了法案」等とされています),DPFに対するデータ・ポータビリティの義務付け,利用事業者と競合する事業の禁止,自己優遇(self-preferencing)の禁止,企業買収の実効的な規制等が含まれています。もっとも,こうしたDPF規制については議論が大きく分かれており,法案成立に向けての調整は容易ではないと思われます。最も確実に実現しそうなものは合併事前届出の手数料を引き上げる法案に含まれている反トラスト当局に対する予算配分の増額です。この点は,我が国のように増分主義(incrementalism)ではありませんので,競争当局のリソースは減るのも早いが,増えるのも早い,連邦議会の考え方次第であるとあらためて感じます。我が国でも,公正取引委員会の体制強化が課題となっていますが,この夏の予算編成でどのようになるでしょうか。

 こうした現下の動きをみていると,1970年代後半以降の消費者厚生を重視し,ハードコア・カルテル以外の規制,特に独占行為規制に慎重であった米国反トラスト法の執行が大きく変わっていくという印象を受けるかもしれませんが,事はそう簡単ではありません。反トラスト当局が積極的に法執行を進めようとしても,1970年代後半以降に確立されてきている反トラスト判例法がその行く手を阻むことが予想されます。いわゆる「レーガン大統領の遺産」と呼ばれてきたものであり,特に連邦最高裁の現在の構成は,トランプ政権下末期の最高裁判事の駆け込み指名もあって,保守的な判断に傾きやすくなっています。そうした判例法の制約を別にしても,(非法的な手法を多用する公正取引委員会と異なり)法執行として行われる反トラスト当局の活動が裁判所による厳格な審査を受けることは当然です。

 日本でも大きく報道されましたが,FTCが昨年12月に提訴したFacebook事件において,DC地区連邦地方裁判所は,FTCの訴状を棄却する決定を6月28日に下しました。FTCの訴状では,Facebookが60%超の支配的なシェアを有すると主張されていますが,シェアを算定する的確な方法を提示できていないこと,7年前に行われた競合アプリの排除行為について差止を請求する権限を欠いていることを理由としているようです。FTCには,訴状を出し直したり,自らの審判手続で審理したりする選択肢があるようですが,FTCの次の動きが注目されます。

 また,法執行の手段についても,連邦最高裁は,本年4月22日,FTCの金銭的回復措置の権限を否定する判決を全員一致で下しています(AMG Capital Management LLC v. FTC)。FTC法13(b)条は,FTC法違反行為についてFTCが裁判所に差止請求をする権限を与えており,FTCは同条を根拠に,恒久的差止請求に付随して金銭返還(restitution)や利益剥奪(disgorgement)といった衡平上の金銭的措置を請求することができると解釈し,消費者保護分野を中心に活用してきていました。反トラスト法(競争法)分野での活用に対しては反対論も強く,FTCも実際にはほとんど用いていませんでしたが,消費者法分野では確立されたものと考えられてきました。今回の最高裁判決は,消費者法に関わる事案でしたが,同条が将来に向けた差止請求の規定であって,遡及的な金銭的救済のための規定ではないと明確に判示しています。判決を受けて,FTCは,この問題の立法的解決を連邦議会に要請しています。今後,FTCが積極的に進めようとする規則制定による法執行についても,裁判所が重要な鍵を握ると思われます。

令和3年5月10日会長コラム更新「競争法・競争政策に関する新刊:『競争政策の経済学』と『競争法ガイド』」

競争法研究協会会長 栗田 誠

1 今回は,競争法・競争政策に関する新刊を2冊紹介します。タイプが異なる2冊ですが,是非ご一読ください。

2 昨年12月の月例研究会では,東京大学の大橋弘先生に「転換点を迎える競争政策―人口減少とデジタル化のもたらす課題と政策の方向性」と題してご講演いただきましたが,大橋先生は最近,『競争政策の経済学 人口減少・デジタル化・産業政策』(日本経済新聞出版・2021年4月)を出版されました。本書は,次のように構成されています。

序 章 転換点を迎える競争政策
第Ⅰ部 市場支配力と産業組織論
第1章 競争政策と産業組織論
第2章 経済の「寡占」化と競争政策のアプローチ

第Ⅱ部 競争政策が注目する産業分野
第3章 公共調達における競争政策
第4章 携帯電話市場における競争政策――アンバンドリングの効果
第5章 電力市場における競争政策――システム改革の評価
補 論 地球温暖化対策における競争政策の視点――再生エネ政策からの学び

第Ⅲ部 人口減少時代における競争政策
第6章 人口減少局面に求められる企業合併の視点
第7章 競争政策と産業政策の新たな関係

第Ⅳ部 デジタル市場における競争政策
第8章 デジタルカルテルと競争政策
第9章 デジタル・プラットフォームと共同規制
終 章 ポストコロナ時代に求められる競争政策の視点

  大橋先生にはこれまでにも,市場画定やデータ,デジタル経済といった,本書が扱っているテーマについてご講演をいただいてきております。このことは,本書で取り上げられている様々な政策課題に私どもではいち早く触れることができていたことを意味しますし,また,大橋先生におかれても思索を深める機会として当協会の月例研究会をご活用いただけたのではないかと拝察いたします。

大橋先生の新著の内容を詳細に紹介するだけの能力はありませんが,体裁こそ啓蒙書的なスタイルであり,読みやすく著述されているものの,内容的には正に研究書であると感じました。ここ10年程の間に発表されてきた研究論文を基に,実証分析や政策分析の成果を盛り込みつつ,競争政策が直面する課題を取り上げ,「競争政策を問い直す」本書は,独占禁止法や競争政策に関心を持つ者にとって必読の文献になることは間違いないと思います。同時に,独占禁止法の運用や競争政策の展開によって大きな影響を受ける企業やその関係者にとっても,本書を紐解くことで,今後の動向を予測し,適切に対応するための重要な手掛かりを得ることができると考えます。

3 産業組織論からの競争政策論の新刊書を紹介しましたので,次は,比較法的な観点からの競争法の入門書を紹介します。それは,比較競争法の泰斗David J. Gerber教授(米国Chicago-Kent College of Law名誉教授)の Competition Law and Antitrust, Oxford University Press, 2020の邦訳です(デビッド・ガーバー著/白石忠志訳『競争法ガイド』(東京大学出版会・2021年6月予定)。
特定の法域に囚われることなく競争法制度の目的や枠組,法域間の共通性と差異性,競争法の世界的潮流と変化の動向を概説する同書は,条文の細かな解釈論に陥りがちな独占禁止法のテキストとは異なり,競争法についての視野を拡げ,比較し,変化を予測する能力を高めてくれます。
本書にとって東京大学の白石忠志教授が最適の訳者であることも,『独禁法講義』の読者であれば直ぐに理解できることと思います。出版社のHPによれば,白石教授による解題も付されているようですので,私自身,原書を既に読みましたが,『競争法ガイド』の出版を心待ちにしております。

  ガーバー教授の著書の邦訳をご紹介したもう一つの理由は,当協会が2002年9月に,日本貿易振興会(JETRO)の支援を得て,北京で開催しました「『競争政策と経済発展』に関する北京会議」にガーバー教授も参加されており,私自身,教授の広い視野と深い学識に直接触れる機会を得ていたことにあります(会議の模様については,国際商事法務30巻11号(2002年11月)1535-1537頁で簡単に紹介しています)。それ以来,ガーバー教授の著作には必ず目を通すようにしてきました。その代表的著作がGlobal Competition: Law, Markets and Globalization, Oxford University Press, 2010であり,滝川敏明教授が公正取引718号(2010年8月)83頁で紹介されています。

4 本日ご紹介した『競争政策の経済学』と『競争法ガイド』は,今後の競争法・競争政策を考える際の必読書になるものと思います。当協会がこうした優れた著作に間接的ながらも多少の関わりを持ち得たことは大変光栄なことであり,あらためて両先生に感謝申し上げる次第です。

令和3年4月17日会長コラム更新「2020年度の審査事件の概況ー第286回月例研究会冒頭挨拶から(2021/4/16)」

競争法研究協会 会長 栗 田 誠
1 前回3月の月例研究会以降の独占禁止法・競争政策関連の出来事について,いくつか簡単に紹介します。
 3月の月例研究会では確約手続の運用状況を取り上げましたが,3月中に新たに2件の確約計画認定事例が出ています。1件はBMWの輸入車の押し込み販売による優越的地位濫用が疑われた事件であり,もう1件はコンタクトレンズの価格広告やインターネット販売の制限の疑いであり,3社同時の立入検査事案で,最後の3社目の確約認定に至ったものです。
  従来,年度末や人事異動を控えた6月には比較的多くの審査事件の結果が公表され,排除措置命令が相次いで出ていましたが,近年では,審査期間が長期化していることもあってか,審査事件に関する発表は随分少なくなった印象があります。2021年(令和3年)に入ってからの3か月半で,審査事件関係の公表は,マイナミ空港サービスの課徴金納付命令(排除措置命令は昨年7月)と前述の確約認定2件にとどまっています。コロナ禍の審査業務への影響ということも気になる点です。
  また,3月末に「デジタル市場における競争政策に関する研究会」の「アルゴリズム/AIと競争政策」に関する報告書が公表されました。この報告書については,事務総長の定例会見(3/31)において興味深いやり取りがありました。記者から,この報告書が理論的な整理にとどまっており,公取委の実態調査や事件審査を期待する観点からの質問が出ています。それに対する事務総長の応答は,何とも歯切れの悪いものにとどまっているという印象を受けました。私も,月例研究会で公取委の動きを紹介する中で,「公取委には,実態調査ばかりやっていないで,審査事件をやってほしい」という思いを度々申し上げているわけですが,今回の報告書は,実態調査報告でもなく,その前の理論武装の段階ということです。新たな問題に対しては,走りながら考えるという姿勢も必要なように感じます。
今週の事務総長定例会見(4/14)では,クラウドサービスに関する新たな実態調査を始めるという発表があったと報道されていますが,是非審査事件にも力を入れてほしいと思います。今週火曜日(4/13)には,公取委が電力会社同士の大口顧客の争奪制限の疑いで立入検査を行ったというニュースが飛び込んできました。大変インパクトのある事件であると感じますが,審査の行方を注視したいと思います。

2 年度初めですので,2020年度(令和2年度)の審査事件の動向を簡単に振り返ってみます。2020年度中に公表された審査事件の処理状況を行為類型と措置区分により分類すると,次表のようになります。(※表;別途)

  2020年度の審査事件の状況について,次のような感想を持ちました。
①ハードコア・カルテルでは,独立行政法人地域医療機能推進機構医薬品談合事件の刑事告発と,これも刑事告発されたJR東海リニア中央新幹線品川駅・名古屋駅新設工事談合事件の排除措置命令・課徴金納付命令を除くと,小型の価格カルテル(制服)が2件にとどまりました。2019年度には大型の価格カルテル事件が相次いだことに比べると,少し寂しい状況です。

 ②排除型私的独占について,排除措置命令がJASRAC事件(平成21・2・27排除措置命令)以来,11年振りに出て,初めての課徴金納付命令も行われたこと(マイナミ空港サービス事件)は特筆 されますが,大阪ガス事件の処理(自発的措置による審査終了)には疑問もあります。

 ③優越的地位濫用事件が確約手続で処理される流れが明確になってきているように思われます。なお,ラルズ事件審決が東京高裁で全面的に支持されましたが(東京高判令和3・3・3〔請求棄却〕),他の係属事件を含め,今後どのように展開するのか注視する必要があると考えています。

④電通や日本プロ野球組織のような,社会的に注目された事件の処理が公表されましたが,その他の事件はどのように処理されているか気になります。

⑤法的措置(排除措置命令及び確約計画認定)は年間10件程度という状況にあります。また,全体に審査件数が減少してきているのではないかと感じられます。

3 世界に目を転じますと,Big Techに対する競争法審査の動きが目立ちます。米国やEUにおける動きについては,これまでも簡単に紹介してきましたが,ここへきて中国が自国のハイテク企業に対して強硬姿勢を見せています。中国国家市場監督管理総局(SAMR)が今月10日,ネット通販最大手のアリババに対して,出店企業に競争者との取引を禁止していることが市場支配的地位の濫用に当たるとして,約3000億円の制裁金を課したと発表しました。アリババ集団については,昨年から金融当局との関係も取り沙汰されており,今回のSAMRの処分も純粋に競争法の観点からのものなのか,様々な報道や論評もなされています。もっとも,アリババがSAMRの処分に異を唱えることはあり得ないわけで,この点は米国やEUにおいて厳しく,長い法廷闘争が展開されている状況とは様相が異なります。
  また,米国では,バイデン大統領が3月5日,競争政策担当の大統領特別補佐官にTim Wuコロンビア大学教授を任命し,連邦取引委員会委員にLina Khanコロンビア大学准教授を指名しました。両氏とも,企業分割も辞さないという強硬論者であり(米国では一般には使われない“anti-monopoly”という文言を常用する),Tim Wuの“The Curse of Bigness”(今月,邦訳『巨大企業の呪い』(朝日新聞出版)が刊行されました)やLina Khanの“Amazon’s Antitrust Paradox”はこの分野のバイブルのようになっています。40年前のレーガン政権下ではBaxter司法省反トラスト局長をはじめ,スタンフォード大学関係者が多数登用され,「スタンフォード旋風」と呼ばれましたが,バイデン政権下ではコロンビア大学が人材供給源でしょうか。

  日本でも,昨年制定された特定デジタルプラットフォーム取引透明化法が本年2月に施行され,4月1日には,アマゾン,楽天,ヤフー,アップル,グーグルの5社が同法の規制対象となる事業者として指定されました。今後,こうしたBig Techに対する独占禁止法をはじめとする各種の法令による取組がどのように展開していくのか,引き続き注目したいと思います。

令和3年3月11日会長コラム更新「最近の動きから」

競争法研究協会 会長 栗田 誠
1 今月は,志田至朗先生に「確約制度」の運用状況と今後の展望について解説していただきます。確約制度の施行から2年余り経過しましたが,既に6件の確約計画認定事例があり,先週も,優越的地位濫用に係る審査事件について,確約計画の認定申請がなされたという報道がありました(BMWジャパン事件)。確約手続による違反事件処理は審査実務にとって極めて重要な意味を持つに至っており,認定事例がある程度蓄積された現時点で,これまでの運用状況を分析し,制度の評価や実務上の対応を考えておくことは極めて有意義であると思います。

2 振り返りますと,2005年(平成17年)の独占禁止法改正により事前審判から事後審判に移行しましたが,事後審判に対しては厳しい批判があり,また,審査手続上の問題点も指摘されるなど,独占禁止法の違反事件処理手続に関する様々な議論が行われていました。そうした中で,競争法研究協会では,伊従寛会長(当時)のイニシアティブにより,2008年夏に「独禁法手続研究会」を組織して集中的な検討を行い,同年10月に「独占禁止法違反事件処理手続意見書」を公表しています(意見書の全文は協会HPに掲載。その概要について,松下満雄「公正取引委員会審判制度改革の方向」NBL898号14頁(2009年)参照)。
私も,この手続研究会において「競争法違反事件処理における和解(略式)手続の現状と課題」と題して報告する機会をいただき,2005年改正後の独占禁止法違反事件処理手続が硬直的であり,米国反トラスト法の「同意(consent)」手続やEU競争法の「確約(commitment)」手続をモデルにした柔軟な和解的手法を導入する必要があることを指摘しました。そして,意見書の提言項目の一つに「略式の同意命令手続」の導入が含まれており,この意見書が先駆的かつ実践的なものであったことを示していると思います。
 実際に導入された確約手続の仕組みや運用は,意見書で提言していたものとは異なる面があり,重大な欠陥を抱えていると考えておりますし,また,個々の確約認定事例についても,月例研究会で配布している「競争法関連の動き」の中で批判的に紹介してきています。本日の志田先生の分析を伺い,私自身,あらためて考えてみたいと思っています。

3 前回の月例研究会以降の独占禁止法・競争政策関連の出来事について,いくつか簡単に紹介しておきます。
 まず,政府の「成長戦略会議」における競争政策の在り方に関する議論(2月17日)を紹介します。成長戦略会議の有識者委員である竹中平蔵氏のイニシアティブで始まった議論では,公正取引委員会による競争唱導(アドボカシー)の重要性が指摘され,公正取引委員会のアドボカシー機能の強化が必要であると強調されており,それ自体は適切なものであると考えています。市場における競争のルールである独占禁止法の執行だけでなく,その前提となる市場の構築や参入,イノベーション等に関わる競争政策の展開が重要であることは言うまでもありません。しかし,アドボカシーが法執行に代替できるわけではありません。伊従先生は,違反事件の個別的な処理の積み重ねを通したルール形成という判例法的な性格を独占禁止法が有していることを常に強調されていました。地道な違反事件審査ではなく,設計主義的・介入主義的な政策対応は副作用やリスクも大きいことに留意する必要があります。また,公正取引委員会がアドボカシーに力を入れる反面,法執行が二の次になってしまう事態も懸念されます。
 なお,成長戦略会議では,経済界の有識者委員から企業結合規制に対する注文が出ています。実効性を欠く企業結合規制が集中度の高まりをもたらし,参入障壁の形成につながっているのではないかという問題意識が世界的に強まっている中で,どこまで正当性を持つ議論であるのか疑問ですし,政策や制度を論ずる場において法執行問題を取り上げるセンスも理解し難いところです。

4 次に,法執行の関係で2点申し上げます。一つは,排除型私的独占に係る初めての課徴金納付命令が2月19日に出たことです。平成21年改正で導入されましたので,何と10年以上かかったことになります。空港における航空燃料の販売への新規参入者を排除しているという事案であり,排除措置命令自体は昨年7月7日に行われています(マイナミ空港サービス事件)。違反行為が続いていることから,排除措置命令に従って違反行為の取りやめ等の措置が採られたことで違反行為はなくなったと認められたことから,違反行為期間が認定され,所定の方法で計算された612万円の課徴金の納付が命じられました(なお,本件命令については,取消訴訟が提起されています。)。昭和52年改正で不当な取引制限の課徴金制度が創設され,その第1号の課徴金事件の審査を担当しましたが,小規模な価格カルテル事件で,課徴金の総額は500万円余りであったと記憶しています。小さな額でスタートした排除型私的独占に係る課徴金制度が,今後,EU競争法のように発展していくのか,それとも,確約手続その他の処理手法の多用により「抜かずの宝刀」になるのか,今後の運用に注目したいと思います。
  もう一つは,最後の審判事件となっていた段ボール価格カルテル事件の審決が2月8日に出て,係属する審判事件がなくなったことです。東京高裁に係属する審決取消請求事件で公正取引委員会に差し戻す判決が出る可能性もありますので,審判制度が完全な終焉を迎えたわけではありませんが,かつて審判官を務めた者としてはある種の感慨を覚えます。事前審判の時代を含め,公正取引委員会において何らかの総括が行われること,特に,なぜ審判制度が廃止されるに至ったのかを記録にとどめることを是非期待したいと思います。

令和3年2月10日会長コラム更新「2021年の競争政策~2021年最初の月例研究会冒頭挨拶」

競争法研究協会会長 栗田 誠

1 本日(2/9)が2021年の最初の月例研究会となります。今回は上杉秋則先生をお迎えし,「山陽マルナカ事件東京高判の評価と今後の実務への影響」,「デジタル・プラットフォームを巡る最近の動き」の二つのテーマについてご講演を賜ります。上杉先生には,毎回,タイムリーな問題について理論的な検討と実務への影響の両面からお話しいただいていますが,今回も刺激的なご議論を伺うことができるものと期待しております。

2 公正取引委員会の古谷委員長の「年頭所感」が公正取引委員会のHPや「公正取引」1月号に掲載されております。ご覧になった方も多いと思いますが,「厳正・適正な法執行」「競争政策の推進」「国際的な連携の推進」の3つの柱からなっています。昨年9月の就任挨拶において述べられた内容とそれほど変わっているわけではないと思いますが,「競争政策の推進」の部分が長く,多くの施策が盛り込まれていますので,「古谷公取委」の活動が従来に増して,「法執行」よりはガイドラインの作成や実態調査を含む「政策的対応」に重点を置いたものになるような印象も受けました。  なお,年頭所感の最後に,昨年12月の政府の成長戦略会議実行計画(中間とりまとめ)に言及され,「競争政策の在り方を独禁当局や関係省庁の協力の下,重要課題として取り組む」とされていることを受けて,「競争政策の強化に向けた検討に参加・貢献していきたい」と述べておられます。先週の事務総長定例会見記録(2月3日)によると,「今月10日,成長戦略会議の関連会議で,公正取引委員会の組織の在り方についても議論されると聞いてい(る)」として,記者から質問が出ています。成長戦略会議の有識者メンバーである竹中平蔵氏(慶應義塾大学名誉教授)がこの議論を主導されており,今後どのように展開していくのか,注目されるところです。

3 米国では,バイデン政権がスタートしましたが,連邦競争当局のトップの人選は進んでいません。昨年10月から12月にかけて,司法省が提起したGoogleに対するシャーマン法2条(独占行為)事件,連邦取引委員会(FTC)が提起したFacebookに対するシャーマン法2条違反を理由とするFTC法5条(不公正な競争方法)事件の行方も,誰がトップに任命されるかによって影響を受けることも考えられます。両事件の理論的分析については,上杉先生の本日の後半のテーマです。また,連邦議会では,上院司法委員会のKlobuchar議員らが2月4日,クレイトン法の改正等を内容とする法案(Competition and Antitrust Law Enforcement Reform Act)を提出しています。法案には,連邦競争当局の予算の増加,合併規制の強化(違法基準の緩和及び立証責任の転換),支配的事業者による排除行為を禁止する規定のクレイトン法への追加等が盛り込まれており,連邦議会の両院を民主党が支配する状況下で,何らかの改正が実現する可能性もあると思われます。
  また,EUにおいては,12月15日に欧州委員会が「デジタル・サービス法(Digital Services Act)」及び「デジタル市場法(Digital Markets Act)」の立法提案を公表しました。前者は,デジタル・サービスの利用者の権利保護を内容とするものであり,後者は「ゲートキーパー(gatekeeper)」機能を果たす大規模な中核的プラットフォーム事業者を対象とする行為規制を内容としています。デジタル市場法が定める行為規制に違反すると,全世界売上高の10%を上限とする制裁金が課され,繰返しの違反に対しては構造的な措置を採ることもできるようです。
  専ら反トラスト法の活用や強化を目指そうとする米国,競争法の執行に加えて強力な新規立法を目指すEUとの間にあって,我が国が採ることとした措置,すなわち,特定デジタルプラットフォーム取引透明化法の制定や独占禁止法の消費者取引優越的地位濫用ガイドラインの策定,消費者庁において検討中の消費者保護の観点からの新法の立案等を内容とする政策パッケージはどのように評価されるのでしょうか。いずれにせよ,各法域における動きから目が離せません。

4 前回12月の月例研究会以降の独占禁止法を巡る動向については「競争法関連の動き」をご参照いただきたいと思いますが,前回から2か月近く経過しており,様々な動きがありましたので,重要なものをいくつか紹介します。
  第1に,入札談合に関する刑事的執行及び行政的執行です。前回,地域医療機能推進機構発注の医薬品納入を巡る入札談合事件の告発・公訴提起について詳しく紹介しましたが,年末にJR東海発注リニア中央新幹線品川駅及び名古屋駅新設工事を巡る受注調整事件について公正取引委員会が排除措置命令及び課徴金納付命令を行いました。刑事事件としては,既に2社に対する有罪判決が確定しておりますが,違反自体を争っている2社及び2名に対する判決が3月1日に言い渡される予定です。違反を争う2社は,排除措置命令に対しても取消訴訟を提起するものと予想されます(なお,2社は関係工事を受注しておらず,課徴金納付命令は受けていません)。入札談合・受注調整事件は,かつてに比べると件数が大きく減少していますが,これが重大な違反行為が根絶されてきていることの表れであることを期待しています。
  第2に,デジタル市場における競争問題への対応です。この点については,本日のテーマの一つでもあり省略しますが,実効的な取組を期待したいと思います。なお,公正取引委員会のHPに「デジタル市場における公正取引委員会の取組」をまとめたサイトが設けられており,一覧性があって大変便利です。
  第3に,各種のガイドラインの作成や改定が進められており,意見募集が行われています。特に,スタートアップとの事業連携やフリーランスに関するガイドラインの作成は政府一体としての取組の一環として,関係省庁との連携によるものであり,また,フランチャイズのガイドラインの改定は昨年9月のコンビニ本部・加盟店間取引実態調査報告書を受けたものです。気になるのは,これらのガイドラインが主に優越的地位濫用規制に依拠したものであることです。ガイドラインに依存した独占禁止法の運用が「安上り」で,一面で「効果的」であり得ることは事実ですが,過度の依存に問題はないのか,注意していく必要があります。また,本日の上杉先生の前半のテーマである,山陽マルナカ事件東京高裁判決とそれを受けた公正取引委員会の対応が今後の優越的地位濫用規制,更には独占禁止法規制全般の展開にどのような意味を持つのかを考えることが必要であると思います。
  第4に,国際的な企業結合事案2件の審査結果が公表されました。いずれも実効的な問題解消措置が採られた事案であり,一見,公正取引委員会が国際合併に実効的に取り組んでいるようにみえます。ただし,欧州委員会も審査を行っており,条件付きで承認しており,問題解消措置も実質的には同じようです。見方によっては,欧州委員会の審査にいわば「ただ乗り」した成果ではないかという疑問も出てきます。そうした疑問を払拭するような,海外競争当局の審査にも貢献するような国際的執行に期待したいと思います。
  なお,国際的企業結合審査については,昨年3月に第2次審査が開始された韓国の造船会社の統合事案の行方が気になります。本件については,欧州委員会も審査しており,また,韓国政府の造船支援措置がWTO補助金相殺関税協定に違反するとして,日本政府がWTO紛争解決手続を要請し,政府間の協議が続いています。造船業においては,日本でも事業統合が行われてきており,本件は外交的にも大変難しい案件になっているのではないかと危惧しています。

5 上杉先生の本日の講演資料には,「令和3年の競争政策の注目点―多難の時代の幕開け」というタイトルが付されています。どういう意味で「多難の時代」であるのか,身を引き締めてご講演を伺いたいと思います。よろしくお願いいたします。

令和2年12月18日会長コラム更新「日米の競争法違反事件ー医薬品談合とFacebook」

競争法研究協会会長 栗田 誠
1 12月9日に,日米で競争法違反事件に関する重要な動きがありました。日本では,公正取引委員会が地域医療機能推進機構発注の医薬品納入を巡る入札談合事件について3社及び7名を検事総長に告発し,同日に公訴が提起されました。米国では,連邦取引委員会(FTC)と48州・地域の司法長官がそれぞれ,Facebookをシャーマン法2条違反でDC地区連邦地裁に提訴しました。日米それぞれの事件について簡単に紹介しつつ,感想を述べたいと思います。

2 まず,地域医療機能推進機構(以下単に「機構」といいます)が発注する医薬品の納入を巡る入札談合事件ですが,前回の告発事件は,平成30年(2018年)3月のJR東海発注リニア中央新幹線駅舎工事の受注調整事件であり,2年半振りの告発となりました。しかも,リニア中央新幹線の事件は検察当局主導で捜査が行われており,公正取引委員会は実質的には調査を行っていないとも言われています。そうすると,今回の告発は,東日本高速道路東北支社発注舗装災害復旧工事の談合事件(平成28年2月告発)以来ということになり,実に5年近い空白があったということになります。平成17年改正により犯則調査手続が導入され,裁判官の令状を得て捜索・差押を行う権限を有する犯則審査部が設けられました。改正直後の数年間は毎年のように告発が行われていたものの,その後は2年に1回という従来のペースが続いてきており,平成17年改正時の期待通りではないという印象も持っています。ハードコア・カルテル事件全体の件数が減少しているように見受けられますが,それが累次の課徴金制度の強化を含め,カルテル規制の実効性の現れであるといえるのかどうか,慎重な分析が必要であろうと思います。
 今回の談合事件をみますと,告発対象とするには条件的にぴったりの事案であったように思われます。公正取引委員会が公表しています「告発方針」には,「国民生活に広範な影響を及ぼすと考えられる悪質かつ重大な事案」,「(違反を反復しているなど)行政処分によっては独占禁止法の目的が達成できないと考えられる事案」という二つの類型が明記されています。本件は,この両方の類型に当たると考えられているようです。公正取引委員会の公表資料には記載がありませんが,新聞各紙をみれば,様々な追加的な情報(本件がいかに「悪質かつ重大」であるかを示す情報)が掲載されています。「医薬品で入札談合をすれば,保険医療を負担する全国民,将来世代にも影響が及ぶ可能性がある。過去の違反歴があるにもかかわらず,大変悪質だ」という公正取引委員会の本件犯則調査担当者の会見での発言(12/10朝日朝刊27頁による)が全てを物語っています。
 もちろん,告発方針が定める類型に合致するだけで実際に告発ができるわけではありません。刑事責任を問うレベルでの証拠が必要になることは言うまでもありません。入札談合事件の中には,大変古くから慣行的に行われていて,談合のルールや実施方法自体が明確ではないものもあります。また,建設談合のように,一般に関係する事業者数が大変多く,これらの共謀を刑事レベルで立証することが実際上不可能に近いような事案もあります。その点で本件では,発注者である地域医療機能推進機構自体が2014年に設立されたものであり,また,その傘下の全国57の病院に納入できる体制を有する医薬品卸売業者は事実上関係人4社しかおらず,実際にもこれら4社しか入札には参加していなかったとされています。そして,1回の調達で総額700億円を超えるというのですから,公正取引委員会や検察当局にとっては,刑事事件として取り上げるための条件が揃っていたといえます。
 報道によれば,4社のうちの1社が告発・起訴の対象から外れており,公正取引委員会に課徴金減免申請をしていたとされています。東京地検特捜部は「認否は明らかにしていない」(12/10朝日)とされており,残る3社の中にも減免申請をした者がいるかどうかが注目されます。告発・起訴された3社の12/9のプレス・リリースを読む限りでは,違反事実を認めているようにも感じられます。リニア中央新幹線の受注調整刑事事件では,4社のうち減免申請をしなかった2社が全面的に争うという展開になっており(他の2社については判決確定),来年3月の判決が注目されています。
今回の独占禁止法違反事件の背景として,地域医療機能推進機構の医薬品の調達方法に問題はなかったのかという点も問われます。4社で「受注予定比率」を設定し,その比率に見合うように医薬品群ごとに受注予定事業者を決定していたとされており,2018年の入札における4社の受注額が報道されています(12/10日経朝刊)。1回の入札で1事業者のみが受注できるという入札ですと,事業者間の調整は容易にまとまらないでしょうが,4社の事業規模に応じて「山分け」するということであれば,たやすく合意できたのではないかと思われます。また,全国57病院向けの納入を同機構の本部で一括して決定するという方法が適切なのかという点も重要なポイントです。この点は,この事件の調査開始後に地域ごとに調達する方法に変更されているようですが,調達方法の全面的な見直しがなされることを期待したいと思います。
 また,医薬品調達は全国の大規模病院においても同様の方法で行われていると考えられ,今回の事件を契機に,適切な場で抜本的な検討が加えられることが望ましいのではないかと考えています。公正取引委員会としても,違反事件の処理で一件落着とするのではなく,競争的で公正な調達に向けて政策的な観点からの取組も進めていただくことを期待したいと考えています。

3 次に,同じ12月9日に,米国連邦取引委員会(FTC)と48州・地域の司法当局のそれぞれがFacebookをDC地区連邦地裁に提訴した事件です。かねてから調査の進展が報道されていた事案ですが,我が国でも大きく報道されています。FTCは,シャーマン法2条違反(独占行為)によるFTC法5条違反(不公正な競争方法)として提訴しており,FTCの票決は3対2(共和党の委員2名が反対であるものの,意見の公表はないようです)となっています。また,州当局では,シャーマン法2条及びクレイトン法7条(合併等)を根拠としています。Instagram及びWhatsAppの買収自体をクレイトン法7条違反として独立の訴因としている点がFTCと異なります。いずれの訴訟も,personal social networking servicesの市場における独占維持行為を問題としているわけですが,具体的な違反被疑行為は次の2つです。訴状では,Mark Zuckerberg氏の攻撃的な言動が競争制限的意図を示すものとして度々引用されていますが,この点はMicrosoft事件のBill Gate氏を思い出させるものがあります。

①Instagramの買収(2012年)及びWhatsAppの買収(2014年)による競争の抑止:“buy-or- bury strategy”(州当局の訴状の表現)
 ②アプリ開発者のFacebookのプラットフォーム利用に際しての制限的な条件の強要
  また,Facebookの違反被疑行為による競争上の弊害として,次のような点が挙げられています。
ⓐユーザーに対するプライバシー保護の低下,選択肢の喪失,イノベーションの低下等の非価格面の悪影響
ⓑ広告主に対する広告料金,広告の質・選択肢への悪影響
ⓒアプリ開発者に対する競争機会の否定
裁判所に求める救済措置は今後具体化されていくことになりますが,次のような広範な内容が想定されています(FTCと州当局で少し異なるようです)。
 ❶継続している競争制限行為の停止
 ❷違法に買収した事業の分離
 ❸将来の買収計画の事前通知
 ❹モニタリング

「FTCは2件の買収を容認していたのに,後から提訴するのはおかしい」とFacebookは主張しており,同様の指摘が多数見られますが,FTCが公表しているQ&Aでは次のように説明しています。
・単に2件の買収を問題にしているのではなく,長年に亘るpersonal social networking servicesの市場における独占維持行為を提訴している。
 ・2件の買収が合併事前届出の手続を完了していることは提訴権限に影響しない。
 ・完了済みの買収であっても,違法になればFTCは提訴できるし,これまでも提訴してきている。
また,Facebookの分割をかねてから主張しているTim Wuコロンビア大学教授は,次のようにコメントしています。
・「FTCは2件の買収を『承認』していた」と報道されることがあるが,誤りである。単にその当時は提訴しなかったというにすぎず,その後の法執行活動が法的に制約されるものではない。
・買収当時はFacebookの独占が持続するか不確かであったが,現時点では持続的なものであると分かってきたにすぎない。
・仮にFTCは過去の判断に制約されるべきであるとしても,州当局は別個の権限を有しており,何ら制約を受けない。
Facebookに対して,米国ではこれまでプライバシー保護の観点からの調査・処分が行われてきましたが,シャーマン法2条違反という反トラスト法の本丸の事件として真っ向から争われることになります。10月20日に司法省及び8州当局が提訴したGoogle事件とともに,長期戦になることは必至であり,これら訴訟の行方とともに,他の法令による提訴や他の政策手段の可能性を含め,巨大デジタル・プラットフォーム問題に対する米国の取組を引き続きフォローしたいと考えています。EUにおける動きについても同様であることは言うまでもありません。

4 日米でたまたま同日に競争法違反事件が提訴されたというだけのことではありますが,日本では相も変らぬ談合事件であるのに対し,米国では巨大デジタル・プラットフォーム事業者による独占行為事件です。もっとも,その米国も,独占行為規制の面では事実上の野放しともいえる状況が永く続いてきたのであり,今後長期間続くと見込まれる裁判所における審理は予断を許しません。独占行為規制に関する判例法が行く手を遮ることも考えられ,また,審理が長期化するほど訴追側の考え方が変化すること(FTCの委員構成の変化や州当局の交代)もあり得るところです。その意味で,米国連邦競争当局によるGoogle及びFacebookに対する提訴は始まったばかりであり,どのような紆余曲折が待っているのか注目したいと思います。また,同様の問題に対する公正取引委員会による独占禁止法の執行がどのような理論と手法によって展開されていくのか(あるいは,法執行以外の手法に依存するのか)刮目すべきであろうと考えています。菅政権の下で新たに設けられた「成長戦略会議」が12月1日に取りまとめた「実行計画」の「デジタル市場における競争政策の推進」の項には,「デジタルプラットフォーム事業者による反競争的行為があった場合に積極的に法執行できるようにするため,……公正取引委員会の体制を強化する」と明記されていますので,是非期待したいと思います。

令和2年12月3日会長コラム更新「ダンピング提訴と独占禁止法」

ダンピング提訴と独占禁止法

1 11月25日の夕刊各紙に,石油プラント等に使われる配管をつなぐ「継手」の価格カルテルの疑いで公正取引委員会がメーカー4社に立入検査を始めたという記事が掲載されました。これだけですと,普通の価格カルテル事案の調査開始というだけのことですが,記事によっては,価格カルテル対象商品である「炭素鋼製突合せ溶接式継手」については,不当廉売関税が2023年3月までの期間で課されていると報道されています。朝日新聞の記事によれば,価格カルテルは「遅くとも2017年以降」行われている疑いがあり,また,メーカー4社のうちの3社が2017年に韓国産品及び中国産品に対する不当廉売関税の賦課を求める申請をしていたというのです。

2 私は,「経済法」(独占禁止法)を専門としておりますが,現在の本務校では「国際経済法」の授業も担当しており,この記事を大変興味深く読みました。経済産業省のホームページには,韓国産及び中国産の「炭素鋼製突合せ溶接式継手」に対する不当廉売関税に関する情報が掲載されています。それによれば,2017年3月6日に3社から課税を求める申請書が提出され,同年12月28日に暫定措置が,2018年3月31日に確定措置が発動されており,2023年3月までの5年間続きます。また,関係事業者のホームページにもアクセスしてみましたところ,少なくとも2社について,不当廉売関税の申請を行った2017年3月に,同年4月出荷分からの販売価格の引上げを公表していることが確認できました。

3 今後の公正取引委員会の調査を待つ必要がありますが,仮に報道されているような価格カルテルが行われていたとするならば,廉価な輸入品を不当廉売関税によって排除しつつ,国内メーカー同士で価格カルテルを行うという,成熟した産業ではありがちな企業行動が日本でも現実化してきたものといえます。不当廉売関税を申請した3社は共同して,申請に必要な情報収集・調査を行い,申請に及んだものと推測されますが,そうした共同作業・共同申請の機会を通じて価格カルテルの合意形成も行われたということかもしれません。通商法と競争法の両方が関わるこの種の問題は,例えば米国などでは古くからのものであり,事例も多いと思いますが,日本でも今後,こうした問題が増えてくるものと予想されます。

4 我が国では,不当廉売関税,相殺関税,緊急輸入制限措置(セーフガード)といった貿易救済措置を発動することについては,従来,大変慎重であったと思います。海外諸国による貿易救済措置の濫用(WTO協定違反)を指摘して改善を求めることを通商政策の大きな柱としてきた我が国は,自らが発動することについても極めて慎重に対応してきたといえます。しかし,こうした慎重な方針は,ここ10年くらいの間に少しずつ変化してきています。貿易救済措置の発動を抑制してきた実体要件や手続について緩和する制度改正や運用の変更が行われてきており,また,経済産業省も貿易救済措置の発動を産業政策の一つのツールとして位置付け,活用していく方向に舵を切りつつあるように見受けられます。経済産業省のウェブサイトの「貿易救済措置」のページには,「安値輸入品という経営課題にADという選択」という見出しが掲げられており,申請の方法等に関する詳細な解説やQ&Aが掲載されており,また,毎年,「貿易救済セミナー」が開催されているなど,特に不当廉売関税の発動については積極的に相談を受け付け,申請を奨励するような姿勢です。こうした変化もあってか,現在,5件の不当廉売関税の賦課が行われているようです。

5 もちろん,不当廉売関税を含む貿易救済措置の発動は,WTO協定上認められている正当な手段であり,関税定率法に定められている要件及び手続に基づいて行われるものであり,それ自体に問題があるわけではありません。しかし,その発動が国内市場における競争に極めて大きな影響を及ぼすことも明らかであり,発動に前のめりになっているようにもみえる現在の経済産業省の姿勢にはやや疑問を持っております。また,前述したように,申請が多くの場合に複数の事業者が共同して,あるいは事業者団体が行うことから,独占禁止法上のリスクが伴うことも言うまでもありません。

6 こうしたことを経済産業省のホームページで調べているうちに,更に重要な事実に辿り付きました。経済産業省の特殊関税等調査室を事務局とする「アンチダンピング措置の共同申請及び団体申請の活用促進に関する研究会」が本年8月から10月にかけて開催され,アンチダンピングの共同申請等に当たって生じ得る独占禁止法上のリスクを分析し,その解決策を探る取組が行われています。研究会の第2回の会合には,公正取引委員会から独占禁止法上の考え方についての説明も行われており,10月26日に公表された「アンチダンピング措置の共同申請に向けた検討のモデルケース」の内容については公正取引委員会も了解しているものと思われます。(注)

  こうした取組は,今後増えてくると思われるアンチダンピング等の貿易救済措置の共同申請やその準備に当たって留意すべき点を示し,独占禁止法上のリスクに十分注意しつつ,制度の活用を図っていく上で有用なものであり,その成果である「モデルケース」は関係事業者等において是非とも参照すべきものであると考えています。

  今回の炭素鋼製突合せ溶接式継手に係る価格カルテルの疑いによる公正取引委員会による立入検査と経済産業省の研究会における検討との間に何らかの関連はないのか,という点が気になりますが,経済産業省の研究会では公正取引委員会の経済取引局調整課長が説明されており,立入検査は言うまでもなく審査局が行うものであり,違反事件審査は厳格な情報管理の下になされますので,たまたま時期が近接したにすぎないと考えることが常識的であろうとは思います。また,公正取引委員会として,アンチダンピング措置の活用が本格化してくる中で,実際に発動されている商品や申請の候補に挙がってくるような商品の価格や輸入の動向等を注視する方針を採っているということであれば,それは必要かつ適切なことであろうと思います。

7 1980年代から1990年代にかけての貿易摩擦が華やかであった時期に,日本市場へのアクセス改善を求める海外諸国に対して,外国産品の日本市場へのアクセスが容易ではないのは日本の製造業の国際競争力が強いからであり,日本市場における活発な競争に対応できない外国企業に問題があるといった反論をしていましたが,今となってはそうした時期が懐かしく感じられます。貿易救済措置を活用して国内産業を守ることが重要な政策課題になってきている現実を直視しなければならないと思います。

(注)経済産業省の研究会で検討された独占禁止法上の課題は,ダンピング提訴をする国内企業同士の情報交換・共同行為に関わるものですが,ダンピング規制に関連する独占禁止法問題は多様です。公正取引委員会が開催した「独占禁止法渉外問題研究会」の報告書「ダンピング規制と競争政策」が1990年2月に公表されていることに注意を喚起しておきたいと思います。公正取引委員会事務局編『ダンピング規制と競争政策 独占禁止法の域外適用』(大蔵省印刷局・1990年)参照。

令和2年11月16日会長コラム更新「委員長交代・政権交代の意味合い、米国やEUにおけるGAFA規制、実務家による独占禁止法の解説書」

(2020.11.13月例研究会 開会の挨拶時)
1 今回は,公正取引委員会の岩下企業結合課長に「企業結合規制と審査」と題してご講演をいただきます。ご講演の後に感想・コメントをさせていただく時間がありますので,冒頭のご挨拶では別のことを3点お話しします。第1に,日本では公正取引委員会の委員長の交代があり,米国では政権交代が予定されていますが,競争当局のトップの交代が持つ意味合いについての日米比較です。第2には,米国やEUにおけるGAFA規制について考えてみたいと思います。そして,第3に,最近,実務家が独占禁止法の解説書を相次いで出版されていますので,その意義について考えてみます。

(委員長交代・政権交代の意味合い)

2 まず,委員長の交代,あるいは政権交代の意味合いです。公正取引委員会の古谷委員長が就任されて2か月近く経過しましたが,9月17日に行われた就任記者会見の模様は10月14日になってようやく公正取引委員会のウェブサイトに掲載されました。具体的な施策として,①厳正かつ実効的な独占禁止法の執行,②中小事業者に不当に不利益を与える行為に対する取締り,③デジタル分野等における競争環境の整備,④令和元年改正独占禁止法の施行・定着,⑤海外競争当局との連携・協力と国際的貢献の5点を挙げておられますが,ご自身も述べられているように,杉本前委員長が取り組まれた路線を引き継ぐものといえます。古谷委員長がご自身で準備されたというよりは,事務総局が用意したものを受け入れて(多少の修正はあるにせよ)表明されたものと受け止めるのが自然であろうと思います。我が国では,継続性や一貫性を重視する行政機関として,委員長が交代するからといって法執行方針に変化はなく,むしろ変化があってはならないと考えられており(これが合議制の一つのメリットであるともいえます),委員長交代を機に,それまでの成果を評価し,新たな方針を提言するような動きは基本的にはないといってよいと思います。

  他方,米国では,この度の大統領選挙を受けて政権交代が事実上決定し,競争当局,特に司法省反トラスト局では局長をはじめとする幹部が交代するものと考えられます。任期制の連邦取引委員会委員にあっても,委員長は大統領によって指名されますので,委員長は交代すると考えられ(ただし,現在の共和党の委員が3名,民主党の委員が2名の構成は,共和党の委員が辞任又は任期満了により退任しない限り,変わりません),競争局長をはじめとする幹部も交代すると思われます。1990年代以降の連邦反トラスト法に関する限り,超党派のコンセンサスが形成されてきており,政権交代による大転換は起きないようになってきているとはいうものの,トップの交代により何がしかの変化が出てくることは避けられないと思います。ここ2年程の間に急速に高まってきているGAFAに代表されるデジタル市場における支配的企業に対する反トラスト規制の動きが強まることは必至です。もちろん,いくら反トラスト当局が積極的であっても,最終的に判断するのは裁判所であり,特に連邦最高裁判所の判断が決定的に重要です。だからこそ,最高裁判所判事の指名・承認に際しては,反トラスト法に関心を持つ公益団体・シンクタンクなどから,候補者の反トラスト法に関する判断の傾向を分析・予測するレポートが公表されます。先月のバレット判事の任命は,独占行為規制に慎重な判例法を維持する方向に働くと考えられています。また,先般の下院司法委員会反トラスト小委員会の民主党スタッフレポートにもあるように,反トラスト法自体を改正する提案もされていますが,「経済憲章」としての反トラスト法の根幹となす規定が容易に改正できるとは思えませんし,上院では共和党が引き続き多数を占めるとみられている状況では尚更です。

  当面,司法省反トラスト局長に誰が就任するのか,また,連邦取引委員会の委員長に誰が指名されるのかが注目されますが,従来の例では早くて来年3月ごろではないかと思われます。より注目すべきは,政権移行チームがどのような反トラスト政策を採用するかにあると思います。オバマ大統領により指名され,2014年から2018年にかけて連邦取引委員会委員を努めたマックスウィーニー(Terrell McSweeny)弁護士が政権移行チームで反トラスト法分野を担当していると報道されています。そして,その前提として,各種の公益団体・シンクタンク等がトランプ政権下の反トラスト政策をどのように評価し,次期政権にどのような提言を行うかが待たれます。AAI(American Antitrust Institute)などは今春からそうしたレポートを公表していますが,全米法曹協会(ABA)反トラスト法部会の政権移行レポートが間もなく公表されると思います。

(米国やEUにおけるGAFAの競争法問題の動き)

3 米国やEUにおいて,GAFAの競争法問題についての大きな動きが出ています。「競争法関連の動き」にも補足として紹介しておきましたが,米国では,米国下院司法委員会反トラスト小委員会の民主党スタッフレポートが10月6日に公表され,民主党バイデン大統領誕生の予想と相まって,日本でも大きく報道されました。10月20日には連邦司法省及び11州(共和党系)の司法長官によるグーグルに対するシャーマン法2条に基づく提訴が行われました。マイクロソフト事件以降,本格的なシャーマン法2条事件を取り上げてこなかった司法省がグーグルを取り上げたことについては予想外という評価もあります。グーグルに対しては,連邦取引委員会が,グーグルの「サーチバイアス(search bias)」と呼ばれる行為を含む様々な問題について連邦取引委員会法5条違反の疑いで調査を続けてきましたが,2013年1月に審査を打ち切るとともに,グーグルが一部の問題に関して一定の措置を採ることを約束した旨公表しています。今回司法省が取り上げている問題は異なるものですが,訴訟の行方が注目されます。マイクロソフト事件では,訴訟係属中に民主党から共和党への政権交代があり,同意判決で終了しましたが,今回は共和党から民主党への政権交代であり,グーグルにとっては厳しい訴訟になるのかもしれません(別の民主党系の7州が引き続き審査中であり,他の問題も含めて提訴する予定であり,その場合には併合審理されると報道されています)。

また,欧州委員会は11月10日にアマゾンに対して異議告知書を発出し,また,第2弾の審査開始を公表しました。アマゾンがオンラインショップを運営する事業者であると同時に,自らも小売事業を行っていることから,オンラインショップを利用する無数の小売業者と競争関係にあり,居ながらして得られる利用事業者の非公開情報を自己に有利に活用していることが支配的地位の濫用に当たると欧州委員会では考えており,今後,グーグルからの反論の手続が行われます。
GAFAに限らず,近年の大型の独占行為あるいは支配的地位濫用の事件では,支配的事業者が自己の地位を維持・強化するために取引相手に巨額の支払をして排他的取引を実現するというタイプの行為が問題となっています。少し前のインテル事件では,パソコンメーカーに対するMSS(全体に占めるインテル製CPUの使用割合)の目標達成に対するリベート供与の約束が問題となり,まだ係属中ですが米国連邦取引委員会によるクアルコム事件(控訴審で連邦取引委員会が逆転敗訴〔8/11〕,全員法廷による再審理の申立て)では,アップルに対する巨額の支払による排他的取引が対象となっています(なお,本件について,司法省は提訴に否定的な意見を出していました)。今回の司法省によるグーグル事件でも,アップルをはじめ,様々な取引先・ライセンス先に対してグーグルは独占利潤を配分しています(revenue sharing agreements)。支配的地位にある事業者同士で,お互いに利益になるように合意することで現状維持,参入排除を図っているともいえます。

翻って我が国の状況をみますと,デジタル市場競争会議ワーキンググループにおける検討など,実態調査・分析や特定デジタルプラットフォーム透明化法による一種の業規制に向けた動きは目につきますが,独占禁止法を適用しようとする動きは乏しいと感じます。取引先に対する優越的地位濫用やMFN条項の事件はあるにしても,これらも自発的措置による審査終了であったり,確約計画の認定であったりします(もっとも,公正取引委員会の取扱いとしては,確約認定は「法的措置」の一種です)。以前,ある論文(注)に書いたことですが,公正取引委員会は,インテルを世界で最初に取り上げ(正確にはインテルの日本法人ですが),また,不十分とはいえ,早い段階でグーグルの排他的契約を審査したことがあることを思い出す必要があります。公正取引委員会では精力的にデジタル市場の実態把握のための調査を行ってきており,それ自体有益なものであり,政府全体としての取組にも大きく貢献しているわけですが,違反事件審査という手法による取組も是非期待したいものです。

(注)栗田誠「排除行為規制の現状と課題」金井貴嗣・土田和博・東條吉純編『経済法の現代的課題(舟田正之先生古稀祝賀)』(有斐閣・2017年)175-195頁。(実務家による独占禁止法の解説書)

4 最後に,実務家による独占禁止法の解説書をまず紹介します。ごく最近,越知保見弁護士(明治大学法科大学院教授)が『日米欧競争法大全』(中央経済社・2020年11月)という1000頁を超える大著を刊行されました。「大全」の名にふさわしい,質・量ともに圧倒される著作です。また,先月の本研究会にご登壇いただきました長澤哲也弁護士が所属事務所の同僚らと共に『最新・改正独禁法と実務―令和元年改正・平成28年改正』(商事法務・2020年10月)を刊行されています。長澤弁護士が『独禁法務の実践知』(有斐閣・2020年6月)という斬新な実務書を公刊されたことは先月の研究会でご紹介したとおりです。他にも,永口学・工藤良平両弁護士の編著による『Q&A 独占禁止法と知的財産権の交錯と実務』(日本加除出版・2020年9月)といった,特定テーマの実務書も公刊されています。加えて,菅久修一事務総長をはじめとする公正取引委員会職員を執筆陣とし,独占禁止法の定番テキストになりつつある『独占禁止法〔第4版〕』(商事法務)も間もなく刊行されるようです。

  雑誌論文をみますと,ジュリストの本年7月号の特集「これからの企業結合規制」,10月号の特集「令和元年独占禁止法改正の論点」の執筆陣のほとんどは実務家です(いずれの号でも,白石忠志教授が総論的な短い論稿を書いておられるが)。「NBL」,「ビジネス法務」や「Business Law Journal」といった,より実務的な雑誌にあっては尚更です。

  こうした著作をされている実務家の方々の中には,法科大学院で教鞭を取っておられる方も少なくありません。いずれ,法科大学院の経済法・独占禁止法の授業担当は実務家に席巻されるのかもしれません。

  他方,研究者による著作は,漠然とした印象にすぎませんが,質・量ともに低下しているのではないかと感じます。その背景には,大学研究者が研究に費やすことができる時間が減少しているという,分野を問わずに生じている問題があると思われます。しかしそれだけではなく,経済法研究者が現在の独占禁止法の実務を理解し,実務に影響を及ぼし得るような研究・著作を行うことが難しくなってきているのではないかと個人的に感じています(もちろん,実務に接続するような研究だけが研究者の役割ではないことは当然ですし,むしろそうした研究は研究者の任務ではないということかもしれません)。それは,例えば,近年の独占禁止法の改正が課徴金制度・課徴金減免制度に関わる専門技術的なものであって,研究者は関心を持ちにくいこと,企業結合規制が高度化・精緻化し,また,医薬品,デジタル分野等の容易に実態を理解することができない事案が多いこと,審判手続の廃止,確約手続の導入等もあり,詳細な事実認定や法解釈を示すことなく違反事件が処理されることなどによるのではないかと考えています。単に私の能力不足を自認しているにすぎないのかもしれませんが,独占禁止法の理論と実務の発展にとって望ましいことではないと思います。

令和2年10月13日会長コラム更新「10月月例研究会冒頭挨拶」

競争法研究協会会長 栗田 誠より第281回月例研究会冒頭挨拶

1 9月12日をもって杉本和行委員長が退任され,同月16日に古谷一之氏が委員長に就任されました。菅内閣の発足と同日であり,政府全体としての取組の一環として公正取引委員会が活動していく局面が従来以上に増すのではないかと思います。公正取引委員会の活動については,その内容面だけでなく,活動の手法や様式という観点からも様々な考え方があり得ます。この点に関しては,以前,会長コラムに「公正取引委員会の職権行使の独立性」(令和2・4・11)と題して少し論じたことがあります。また,杉本委員長の下での公正取引委員会の活動の評価についても,既に会長コラムにおいて所見(令和2・9・18)を述べていますので,ご一読いただければ幸いです。
☞http://www.jcl.gr.jp/column/index.php

ところで,古谷委員長は9月17日に記者会見をされたようですが,就任に当たってのメッセージは公正取引委員会のウェブサイトには掲載されていないようです(10月9日午前9時の時点)。菅久事務総長は,9月30日の定例会見の質疑において,「就任の会見の時にも委員長自身の言葉で,今後の課題を5点ほど挙げておりました。私は完全に共感しております。」と述べているが,今後の課題5点とは何か,報道を見ても分かりません。そもそも,事務総長定例会見の記録は公表しつつ,委員長の会見記録は公表しないということも理解に苦しむところです。公正取引委員会への関心や期待が高まっている時期だけに,迅速に新委員長のメッセージが発信されることが望ましいと思います。おそらく「公正取引」の10月号の巻頭に「就任挨拶」が掲載され,それと同時期に同文の挨拶が公正取引委員会のウェブサイトにも搭載されるものと予想しています。また,この点は,就任時に限ったことではありませんし,委員長に限ったことでもありません。積極的な情報発信を期待したいと思います。

2 ここ1か月ほどの公正取引委員会の活動については,メモにまとめたとおりですが,委員長交代という時期でもあり,大きな動きとしては,アマゾンジャパンの協力金に係る優越的地位濫用事件の確約認定が9月10日に公表されたことくらいでしょうか。春から夏にかけて,委員長の交代を前にして排除措置命令・課徴金納付命令が続々と出るという状況を期待したのですが,そうはなりませんでした。尤も,公正取引委員会としては,確約認定も「法的措置」の一種であり,全体として違反事件に厳正に対処していく方針に変わりはなく,実績も挙がっているという認識ではないかと思います。

3 さて,本日は講師として大江橋法律事務所の長澤哲也先生をお迎えしています。先生のご経歴は紹介するまでもありませんが,この6月に『独禁法務の実践知』(有斐閣)を上梓されたばかりです。既にご覧になった方も多いと思いますが,「はしがき」にも書いておられるように,独禁法務の暗黙知を可視化するという明確な意識の下に,企業の事業戦略上の行為がどのような目的で行われ,どのようなメカニズムで競争阻害効果をもたらし得るのかという観点から類型化し,どうしたら問題とならないようにできるかを解説するという,これまでにない斬新な構成・内容の実務書です。いろいろと書評や紹介も出ているところですが,是非,本書の発想やエッセンスを理解するともに,具体的な問題に直面した際の辞書として活用されることをお薦めします。

4 本日のご講演のテーマである優越的地位濫用規制については,近年益々その重要性を増していることは皆様ご承知のとおりです。アマゾンや楽天といった事業者の違反事件もあれば,コンビニや知的財産取引,デジタルプラットフォームを巡る取引等の実態調査,さらには関係するガイドラインの作成と,公正取引委員会の活動様式も多彩であり,また,極端にいえば,どの企業でも違反になり得る問題ということでもあります。反面,司法判断の蓄積は乏しく,公正取引委員会の運用に大きく委ねられています(注1)。また,同様の問題が民事訴訟として提起される可能性もあり,企業法務としては厄介な問題でもあります。いかにして問題に「ならない」ようにするか,貴重なご講演をいただけるものと思います。
  優越的地位濫用規制は国際的にも注目を集めており,今週火曜日(6日)に米国下院司法委員会反トラスト小委員会が公表した449頁の「デジタル市場における競争」に関する調査報告書では,支配的なプラットフォームによる優越的交渉力(superior bargaining power)の濫用を禁止することを提言しています。こうした提案の妥当性や実現可能性については更なる検討が必要ですが(注2),濫用規制を否定してきた米国反トラスト法における変化は注目に値します。米国にとっては専ら輸出品であった競争法を今度は米国がEUや日本から輸入することになるのでしょうか。

(注1)優越的地位濫用規制に関しては,6月8日の第276回月例研究会における矢吹弁護士のご講演の際に,かなり詳しく私見を述べていますので,ご参照ください。(注2)本レポートは,米国下院司法委員会反トラスト小委員会の民主党スタッフによるものであり,司法委員会やそのメンバーの見解を示すものではない。スタッフの一人にLina Khanがいる。言うまでもなく,Amazon’s Antitrust Paradox, 126 Yale L. J. 710 (2017) の筆者であり,この分野に関する多数の論文を公表している。なお,「この報告書の表紙をちょっと見ますと,マジョリティースタッフレポート・アンド・レコメンデーションと書いておりまして,こういう記載があるというのはなかなか珍しいことと思っておりまして,そういうこの報告書の位置付けなども含めて,今,担当課のほうで情報収集と確認をしているところということでございます。」(菅久公正取引委員会事務総長10/7定例会見)の発言は奇妙である。報告書作成までの公聴会等の模様は日本でも広く報道されてきている。

令和2年9月18日会長コラム更新「杉本委員長の下の公正取引委員会の活動」

杉本委員長の下の公正取引委員会の活動
競争法研究協会
会長 栗 田 誠

1 公正取引委員会の杉本和行委員長が9月12日をもって定年により退任された。2013年3月5日に就任されて以来,約7年半の長きにわたり公正取引委員会を引っ張ってこられた。前任の竹島一彦委員長が10年以上務められたことに比べると短いが,それでも7年半という期間は個人的にはやや長いようにも感じる。公正取引委員会という組織は委員長の個性やリーダーシップが反映されやすいという印象を持っており,特別の事情がない限り,1期5年で交代というのが適切なのではないかと思う(定年や任期の関係もあることは承知している)。

2 杉本委員長の下での公正取引委員会の活動を振り返ると,次のような様々な成果を挙げることができる。
特に政策面・制度面では,第1に,令和元年独占禁止法改正が実現したことである。主に課徴金減免制度に調査協力減算の仕組みを導入するものであるが,売上額の算定方法や算定率に関しても重要な改正を含んでいる。12月25日の施行を待つばかりとなっており,任期を見据えた見事な仕事振りである。弁護士・依頼者間秘匿特権問題による1年遅れがなければ,改正法の効果を見届けることもできたと思われるだけに,ご本人にとっては心残りかもしれない。
第2に,デジタル経済に対する積極的な取組が挙げられる。いち早く杉本委員長が自ら推進されてきた課題であり,政府一体としての取組の中で,実態調査やガイドラインの策定が重点的に進められてきている。
第3に,優越的地位濫用規制を最大限活用し,様々な分野や取引の実態が解明され,また,新たな問題にも適用する姿勢が示されたことである。特に,消費者取引に対する適用への道を拓いたことが今後どのような意味を持つのか注目される。
第4に,平成28年改正により確約手続が導入され,協調的な法執行のための新たな手法を獲得したことである。私的独占や不公正な取引方法に係る硬直的な課徴金制度の発動が容易ではない中で,法的措置として位置付け得る確約手続は極めて有用である。TPP協定(環太平洋パートナーシップ協定)の合意に含まれていることを契機とした,公正取引委員会にとっては幸運な改正であった。
第5に,人材分野への取組やデータへの着目,業種横断的データ連携型業務提携など,新規の分野や課題に独占禁止法・競争政策の光を当てたことである。CPRC(競争政策研究センター)における検討会の開催という活動様式も定着している。

  また,こうした多面的な取組が,同時に,独占禁止法に対する関心を高め,公正取引委員会への注目を集める効果をもたらしていることも指摘できる。なお,杉本委員長は在任中に『デジタル時代の競争政策』(日本経済新聞出版社・2019年)を上梓された。委員長・委員が在任中に独占禁止法に関する著作を公表することについては様々な意見があり得ると予想されるが,個人的には大変結構なことであると思う。委員長・委員が積極的に講演録や論文の公表を含め,積極的に発信されることを期待したい。

3 他方,法執行面では,実体的にも手続的にも物足りないものに終わったと感じる。
第1に,排除措置命令は事実上ハードコア・カルテルと再販にほぼ限定されており,他の行為類型,特に排除型行為の事例は少ない。また,大型の価格カルテル事件はあったが,ハードコア・カルテルの件数や規模としても限定されている。
第2に,確約認定の事例が次々と出ているが,本来の趣旨に沿うものばかりとはいえず,また,優越的地位濫用に関わる確約事案は課徴金制度に起因する面も大きいとみられる。
第3に,政策的に取り組んでいる分野や課題に関わる違反事件は少なく,特に排除措置命令に至る事案はほとんどない。また,規制産業における問題は,違反事件ではなく,実態調査等で対応し,違反事件として取り上げる場合にも,法的措置ではなく,非公式措置で処理する姿勢が顕著である。
第4に,政府全体の取組の一環としての活動が顕著であり,内閣官房や他省庁との連携・協力を重視し,違反事件として取り上げるのではなく,実態調査と問題指摘,ガイドラインの作成といったソフトな手法が多用されている。
第5に,以上を総括して,取消訴訟が提起されないような手続・手法によって実際的な問題解決を図ろうとする姿勢が顕著で,法執行活動を通してルールを形成するという発想は乏しい。要するに,「普通の行政機関」として活動しようとしている。

4 杉本委員長の下での公正取引委員会の活動を総体としてどのように評価するか。一言で述べることは難しいが,個人的には,多面的な取組は高く評価するものの,問題提起や啓発に終始したものも多く,やや不完全燃焼ではなかったかと感じる。前任の竹島委員長の下での積極的な法執行活動が多数の審判・訴訟事件につながり,その対応に苦慮し,決着がつくのを待たざるを得なかったという事情もあり,また,NTT東日本事件,JASRAC事件のように関係省庁との間での軋轢も生じていたともみられる中で,特に法執行面では慎重に姿勢にならざるを得なかったのではないかと思われる。

5 9月16日に就任された古谷一之委員長は,これまでの発言からは杉本委員長の路線を踏襲されるようであり,また,同日発足した菅新内閣の下で政府一体としての取組を意識した活動がより強まるものと思われる。独占禁止法・競争政策の実現手法については様々な考え方があるにしても,杉本委員長が道筋を付けられた諸問題について具体的な成果を上げていくことが課題となろう。古谷委員長の下の公正取引委員会がどのような活動を展開するか,期待を持って注視していきたい。

令和2年9月7日会長コラム更新「公正取引委員会 令和元年度年次報告に記載されていないこと」

 公正取引委員会年次報告(独占禁止白書)
~令和元年度年次報告に記載されていないこと
競争法研究協会会長 栗 田 誠

 公正取引委員会は,2020年9月4日に「令和元年度年次報告」を国会に提出するとともに,公表した(注1)。近年では9月下旬に公表されることが多かったが,委員長の交代が予定されていることもあってか,少し早い時期になった。

 言うまでもなく,公正取引委員会の年次報告(「独占禁止白書」と通称される)は,独占禁止法44条1項において,「公正取引委員会は,内閣総理大臣を経由して,国会に対し,毎年この法律の施行の状況を報告しなければならない。」と定められていることを受けたものであり,いわゆる法定白書である。かつては,年次報告において初めて公表される情報が含まれていたが(注2),現在の年次報告は,既に公表済みの情報を一定の章立てに沿って編集した資料集のようなものである(注3)。研究者にとっては,公正取引委員会の活動や独占禁止法の施行状況に関する細かな情報(例えば,日付や件数)を確認したい場合などには大変便利である。

 したがって,年次報告が公表されたからといって,これを読む意味は基本的にはないのであるが,今回,私は,「独占禁止法と他の経済法令等の調整」についてどのように記述されているかに関心があったので,早速確認してみた。近年の年次報告には,「法令協議」(平成18年度までは「法令調整」と表記されていた)及び「行政調整」という見出しと数行の簡潔な説明だけで,具体的な調整案件については全く説明がないことに気が付いていたからである(注4)(注5)。

令和元年度においては,「地域における一般乗合旅客自動車運送事業及び銀行業に係る基盤的なサービスの提供の維持を図るための私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の特例に関する法律案」が本年3月3日に閣議決定の上,国会に提出されており,内閣官房日本経済再生総合事務局私的独占禁止法特例法案準備室や金融庁・国土交通省との調整が行われたはずである。なお,この法律案は,同年5月20日に成立しており,同年11月27日に施行される(以下ではこの法律を「地域基盤企業合併等特例法」という)。しかし,令和元年度年次報告には,本法律案に関する記述はなかった。

 地域基盤企業合併等特例法は,いわゆる「官邸主導」で成立したものとみられるが,官邸主導を演出した金融庁及び国土交通省の作戦勝ちということかもしれない。ふくおかフィナンシャル・グループによる十八銀行の株式取得事案の独占禁止法による企業結合審査が長期化し,債権譲渡等の問題解消措置を条件に最終的に容認されたものの(平成30・8・24公表),企業結合審査が地域経済を支える地域銀行の経営統合を推進する上での支障になりかねないとの金融庁等からの問題提起を受けて,内閣総理大臣主催の「未来投資会議」における地方施策に関わるテーマとして検討された結果,「成長戦略実行計画」(令和元・6・21閣議決定)に独占禁止法の特例法を設ける旨が盛り込まれた。未来投資会議における検討においては,杉本和行公正取引委員会委員長が,第21回(平成30・11・6)及び第26回(平成31・4・3)の2回にわたり,公正取引委員会の考え方を説明されているが,流れを変えることはできなかった(注6)。また,表面的には地域銀行問題が大きく取り上げられていたが,実際には地方乗合バスの路線再編や運賃調整等の問題の方がより深刻であり(カルテルの問題であるから当然ともいえる),国土交通省等の関係者の水面下の動きも激しかったのかもしれない。

 地域基盤企業合併等特例法は,主務大臣の認可を得て行う地域銀行の経営統合と地方乗合バス会社の共同経営協定・経営統合について独占禁止法の適用除外とするものであり,認可に当たっては公正取引委員会への協議が求められており,また,10年以内に廃止するものとされている(注7)。独占禁止法の適用除外に関わる法令協議について,なぜ令和元年度年次報告は沈黙しているのであろうか。

年次報告に記載されていないことに意味があると考えるべきであろうが,思い付いた理由は次のようなものである。年次報告に記載される「法令協議」とは,公正取引委員会が「(関係)行政機関からの協議を受け,独占禁止法及び競争政策との調整を図」ることである。しかし,本法律案は,内閣官房において企画・立案されており,それは「行政各部の施策の統一を図るために必要となる企画及び立案並びに総合調整に関する事務」(内閣法12条2項4号)として行われていると考えられる。内閣官房は,行政各部より一段も二段も高い立場から,公正取引委員会を含む関係行政機関その他の利害関係者からの意見等を聴取した上で,本法律案を取りまとめたものであり,公正取引委員会は本法律案について内閣官房から協議を受ける立場にも調整を図る立場にもない。年次報告に本法律案に関する記述がない理由は本当に以上のようなことなのか,公正取引委員会の担当者に聞いてみたいところであるが,何か釈然としない。

 平成13年1月に施行された中央省庁改革により内閣総理大臣の権限が強化され,省庁に跨る施策の調整・統一を関係省庁間の調整のみに委ねるのではなく,内閣官房が企画・立案や総合調整を自ら担うことができる体制になっており,「政治主導」の名の下にそうした傾向が強まっているように見受けられる(注8)。そうした体制や運用の是非は本コラムの範囲を超えるが,公正取引委員会の職権行使の独立性にも何らか影響が及ぶことは避けられないと思われる。

 成立した地域基盤企業合併等特例法は内閣官房の手を離れ,主務省庁において施行されることになる。同法に基づく具体的事案が早晩出てくるであろうが(注9),そこでは金融庁又は国土交通省と公正取引委員会との調整になる。この調整においては,公正取引委員会の真価が問われることになるが,公正取引委員会との協議等の行方によっては,主務省庁が同法の協議手続の修正ないしは廃止を希望し,内閣官房の総合調整に委ねようとする行動に出る可能性もある。公正取引委員会としては,同法の協議手続を維持する観点から主務省庁との折り合いをつけることも必要になってくるかもしれない。また,公正取引委員会の実務では,企業結合や業務提携は独占禁止法違反事件としては処理されておらず,必要に応じ関係省庁と「調整」することも実際上行われているのではないかと思われる。違反事件審査として企業結合審査を行う場合に関係省庁との調整を行おうとするに当たっては,公正取引委員会の職権行使の独立性の問題と正面から向き合う必要が出てくるように思われる(注10)。

 年次報告における法令協議に関する記述の問題から公正取引委員会の独立性の問題へと議論が大きく拡散してしまったが,令和元年度年次報告については,もう一つ,ICN(International Competition Network)におけるCAP(Framework for Competition Agency Procedures)がどのように記述されているかが気になっていた。以前,会長のコラム「ICNのCAPテンプレート」にも書いたように,公正取引委員会は,ICNに積極的にコミットしているにもかかわらず,なぜかCAPには冷淡であり,競争法の手続問題には及び腰であるようにみえる。令和元年度年次報告では,ICNについて3頁以上のスペースを使って,作業部会の活動を含めて詳しく紹介しているが(277-280頁),2019年6月に発足したCAPには言及するところがない。これも奇妙なことである。

 冒頭に述べたように,公正取引委員会の年次報告は高い記録性・資料性を有しており,是非ともそれが維持されることを期待したい。

(注1)全文は次のURL参照。
https://www.jftc.go.jp/soshiki/nenpou/index_files/r1nenpou.pdf

(注2)なお,価格の同調的引上げの報告徴収制度が設けられていた時期には,独占禁止法44条1項第2文として,「この場合においては,第18条の2第1項の規定により求めた報告の概要を示すものとする。」と規定されていた。

(注3)例えば,かつては主要な企業結合事例が年次報告において初めて紹介されていたが(個別公表されるものを除く),平成5年度以降は「〇〇年度における主要な企業結合事例」として,例年6月に公表されている。

(注4)法令協議において,「公正取引委員会は,関係行政機関が特定の政策的必要性から経済法令の制定又は改正を行おうとする際に,これら法令に独占禁止法の適用除外や競争制限的効果をもたらすおそれのある行政庁の処分に係る規定を設けるなどの場合には,その企画・立案の段階で,当該行政機関からの協議を受け,独占禁止法及び競争政策との調整を図っている」(令和元年度年次報告28頁。下線追加)。

(注5)平成20年度以降をみると,「法令協議」について,平成20年度には「特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化に関する特別措置法案」(以下ではこの法律を「タクシー適正化・活性化法」という),平成22年度には「産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法の一部を改正する法律案」,平成23年度には「災害時における石油の供給不足への対処等のための石油の備蓄の確保等に関する法律等の一部を改正する法律案」について,それぞれ調整を行った旨記載があるが,それ以降の年次報告には全く記載がない。制定されたタクシー適正化・活性化法には,独占禁止法の適用除外を定める規定は設けられていなかったが,平成25年改正により,認可特定地域計画に基づくタクシー事業の供給輸送力の削減等に関する適用除外の規定が設けられている。しかし,平成25年度年次報告の「法令協議」の項には,この点の記載がない。ただし,同法の改正により適用除外規定が設けられた旨の簡潔な記述が「適用除外の見直し等」の項にある(137頁)。また,「行政調整」に関しては,平成15年度以降,具体的案件の記載はない。

(注6)未来投資会議第19回(平成30・10・5)において「地方施策協議会」が設けられ,専門的な検討を行うこととされ,「地方施策協議会」第1回会合(平成30・12・18)において,公正取引委員会(経済取引局長),金融庁及び国土交通省がそれぞれの立場を説明している。なお,地方施策協議会は,この1回しか開催されていないようである。

(注7)地域基盤企業合併等特例法の概要について,佐々木豪他「乗合バスおよび地域銀行に関する独占禁止法の特例法の概要」商事法務2233号(2020・6・15)42頁参照。

(注8)私は,1996年6月から1998年6月まで,公正取引委員会事務総局経済取引局調整課長の職にあり,関係省庁との「法令調整」「行政調整」に当たったが,現在の政府部内の政策調整の手順や手法は当時のそれとは大きく変わっているように見受けられる。

(注9)青森県を地盤とする青森銀行とみちのく銀行が経営統合に向けた協議に入っており,特例法適用の第1号になる可能性がある旨報道されている(2020・9・5各紙)。

(注10)もっとも,実際上,関係省庁との「調整」ではなく,関係省庁からの「意見」の聴取(独占禁止法67条)として位置付けることで,この問題を回避することになろう。

令和2年8月21日会長コラム更新「公正取引委員会の実像」

 公正取引委員会の実像

競争法研究協会
会長 栗 田 誠

 NBL誌(商事法務)において,公正取引委員会委員を務めておられた幕田英雄弁護士が「公取委 ありのまま」というエッセイ風の読み物を隔号で連載されていた1。委員長及び委員で構成される委員会における意思決定のプロセス等を可能な限り具体的に解説することにより,企業担当者や弁護士における公取委への無用な警戒感を軽減し,協調的な問題解決を目指す制度が円滑に運用されることを期待して執筆されたものである。確約手続が導入され(平成30・12・30施行),令和元年独占禁止法改正による調査協力減算制度の施行も近く予定される中で,大変時機を得た連載であったと思われる。特に,公取委という組織の活動は広く知られるようになってきているが,委員会内部の動きや意思決定プロセスは明らかになることがほとんどない中で2,公取委の実像を知る手がかりを与えてくれる。また,筆者(栗田)のように公取委事務総局の中間管理職に過ぎなかった者の見方・感じ方とは違う面もあり,大変興味深く拝読してきた3。

 少し前になるが1163号(2020.2.1)においては,「第6回 委員会・ 新しい時代における委員会の使命」と題して,公取委がデジタルプラットフォーマー(DP)等の「旬のテーマ」に果敢に取り組んでいることを例に,委員会が「心理的余裕」を持って時代にふさわしい課題に取り組めるようになったと指摘されている。そして,心理的余裕をもたらした要因として,審判制度が廃止されたことにより「裁判類似の機能を果たすために莫大なエネルギーを注いでいたこと」から解放され,「長期的な課題や新規の問題についてじっくり考えをめぐらせる」ことができるようになったことを挙げておられる。筆者が公取委事務総局を離れて20年近く経過していることもあり,なるほどと思う面がある半面,違和感を覚える点も少なからずあった。以下では,幕田弁護士のこの論稿について,いくつか感想を記してみたい4。

 第1に,2016年夏以来,公取委がDP等の「旬のテーマ」に切り込んでいるという幕田弁護士の認識(「旬のテーマ」に切り込む委員会)は正しいと思う5。付言するならば,近年の新規分野への取組は評価すべきことではあるが,2000年代終盤から2010年代央までの停滞からの脱却とでもいうべきものではないか。公取委が1990年代から2000年代にかけて,政府規制,知的財産,国際取引等に関わる新規の事件にチャレンジしていたことについては,旧稿において詳述したとおりである6。

 第2に,審査事件として取り上げ処理するためには,最終権限を有する委員会メンバー間で判断枠組が共有される必要があり,そのために時間をかけてコンセンサス形成が行われると指摘されているが(「ローマは一日にしてならず」,同じように…),筆者には必ずしも(あるいは,常に)適切であるとは思われない。ハードコア・カルテル及び再販売価格の拘束以外の行為類型については,違法判断の基準や分析手法も十分確立していないことが少なくなく,委員会メンバー間のコンセンサスを待って取り上げるのでは時機を逸することとなりかねないのではないか。独占禁止法違反行為には,将来に向けて行動の是正を命ずるだけで足りる(制裁を課す必要がないばかりか,むしろ有害である)ものも多い。公取委が取り上げることの影響を考慮しつつも,違反を疑う合理的理由がある限り,審査を開始することが適切である(もちろん,審査の手法はいろいろあり得る)。そもそも,公取委は合議制の機関として,熟議の上での多数決による意思決定が制度化されている。

 第3に,審判制度廃止後も「所管する業務の専門性,業務の要中立性・公平性という実質」から判断して公取委の独立性の維持が依然として必要であると指摘されており(審判制度廃止後も変わらない公取委の役割),それ自体は当然といえる。問題は,審判制度廃止により行政委員会という組織形態を採る必要性・必然性が低下したのではないかという点にあると思われる。市場実態の把握や調査分析は言うまでもなく,独占禁止法違反行為の探知・審査・処分だけであれば,独任制の方が迅速な意思決定が可能になり,適切ではないかという考え方もあり得る。しかし,独任制機関にあっては,合議制機関に比べて外部からの影響を受けやすくなり,独占禁止法執行の独立性の維持が難しくなることも考えられる7。

 第4に,委員会が審判関連業務に莫大なエネルギーを投入していたことを指摘され,それを否定的に捉えておられるようにも見受けられるが(審判制度の下,審決関連業務に注入された,委員会の莫大なエネルギー),いくつか疑問もある。委員会が違反事件に関する最終判断をして委員会名で処分を行う以上,相応のエネルギーを投入すべきことは当然であるし,米国連邦取引委員会のように,必要に応じて委員長・各委員に専属のスタッフを付けることも検討されるべきである。また,独占禁止法は審判官制度を採用し,審判開始から審決案の作成までの一切を委任する運用が行われてきたから,委員会の負担は審判事件の最終段階にすぎない。さらに,委員会が審判関連業務に時間を取られていたのは2000年代中頃から2010年代にかけての限られた期間であったと思われるし,多くの審判事件は実質的には課徴金の額を争うタイプのものであり,それは課徴金制度の不備によるところが大きく,その改善を図ることこそが求められたのではないか(この点は現時点でも大きな課題として残されている)。

 第5に,審判制度の廃止により,命令の当否を判断する機能が裁判所に移されたことから,委員会には新規の問題・長期的課題を考える「心理的余裕」が創出されたと指摘されていることについてであるが(新規・長期的課題を考える「心理的余裕」の創出),それ自体は望ましく,また,必要なことであると思う。しかし,公取委の最大の任務が独占禁止法の執行であることに変わりはない。残念ながら,排除措置命令書からは公取委の独占禁止法解釈や関係人の意見に対する考え方を伺うことができないし,ハードコア・カルテル及び再販売価格の拘束以外の類型の違反事件について排除措置命令が行われること自体,極めて稀であり(近時の確約手続の運用についても疑問なしとしない),審判廃止による余裕がこうした面では活かされていないようである。

 以上は幕田弁護士の論述に沿った感想であるが,論述されてないこと,すなわち,公取委が審判制度廃止によって失ったものについても指摘しておきたい8。審判制度を失った(むしろ「手放した」というべきかもしれないが)ことにより,公取委は独占禁止法の多様な違反行為類型について具体的な違法性基準を形成する機能を喪失したということである。この点については,早い段階から的確に指摘されてきたし9,旧稿でも言及したことがあるので,これ以上は論じない。

 幕田弁護士の論稿について,やや批判的に感想を記してきたが,やや揚げ足取り的になった点があるかもしれない。幕田弁護士のご趣旨を誤読・誤解していないことを願うのみである。

1 NBL1153号(2019.9.1)から1175号(2020.8.1)までの隔号に12回連載。

2 公正取引委員会議事録の開示に関する情報公開・個人情報保護審査会平成18年度(行情)答申第 454号・第455号(平成19・3・22)参照。

3 連載第1回を読んで,日米構造問題協議を契機とした独占禁止法の強化が始まった時期に刊行された川井克倭(元公取委首席審判官)『いやでもわかる公取委』(日本経済新聞社・1992年)を思い出したが,同書は違反事件の審査・審判の実情には詳しいが,委員会の意思決定プロセスには言及していない。

4 筆者は,公取委事務総局での最後の3年間を審判官として勤務し,また,その後も審判制度存続(廃止反対)の立場から論述してきたことを申し添える。栗田誠「公正取引委員会の審判制度の意義とその廃止の帰結」日本経済法学会編『独禁法執行のための行政手続と司法審査』日本経済法学会年報31号33-48頁(有斐閣・2010年)参照。

5 栗田誠「独禁法の行政的エンフォースメントの課題―公取委による「安上がりな」法実現の現状とその評価」上杉秋則・山田香織編著『独禁法のフロンティア―我が国が抱える実務上の課題』(商事法務・2019年)第1章(2-41頁),31頁以下参照。

6 栗田・前掲注4のほか,栗田誠「排除行為規制の現状と課題」金井貴嗣・土田和博・東條吉純編『経済法の現代的課題(舟田正之先生古稀祝賀)』(有斐閣・2017年)175-195頁参照。

7 独立・中立の法執行者として評価されてきている米国司法省反トラスト局が2019年8月に自動車メーカー4社に対して開始した反トラスト審査について,トランプ政権による政治的介入ではないかとの批判が提起されたことも想起される。See Grant Petrosyan, DOJ’s Probe into Four Automakers: Impartial Investigation or Politicization of Antitrust?, CPI’s North American Column, October 2019.

8 幕田弁護士は審判制度廃止の意義自体を論じておられるわけではないので,フェアでないようにも思うが,ご宥恕願いたい。

9 例えば,平林英勝「公正取引委員会の審判廃止がもたらすもの」筑波ロー・ジャーナル4号35-53頁(2008年)参照。

令和2年7月20日【追記】栗田会長コラム 「ICNのCAPテンプレート」

ICNのCAPテンプレート

競争法研究協会会長
栗田 誠

  競争法分野における国際協力の重要性が指摘されて久しい。筆者が公正取引委員会(公取委)の国際担当をしていた1990年代初頭とは隔世の感がある。国際執行協力のための協定やMOU(覚書)が多数締結され,実際にも企業結合事案をはじめとして執行協力が実践されていること,新たに競争法を導入しようとする法域や設立間もない競争当局に対する競争法整備支援が活発に行われていることに加えて,2001年に創設されたICN(International Competition Network)が活発な活動を展開していることもその現れである。

 ICNは,WTOにおいて競争法を取り上げることに消極的であった米国が提唱して,競争法の実体面・手続面の収斂を目指して発足した競争当局間のネットワークであり,常設の事務局を持たず,参加競争当局の貢献を基にして自発的に活動するヴァーチャルな組織である。公取委も,当初からのメンバーとしてICNの活動に積極的に参画してきており(公取委委員長はICNの運営委員会メンバーである),このことは公取委当局も常々強調されていることである(注1) 。例えば「公正取引」誌(公正取引協会発行)には,しばしばICNに関する記事が掲載されている(注2) 。
近時のICNにおける最大の成果は,「競争当局の手続に関するICNフレームワーク(ICN Framework on Competition Agency Procedures)」の発足であろう(2019年6月5日にパリで発足会合が開催された)。CAPと略称されているが,競争当局の手続における公正性に関する基本原則を付属文書とするとともに,競争当局の参加手続,参加当局間の「協力手続」及び「レビュー手続」を定めている。協力手続として,手続問題について関係競争当局間で対話をするメカニズムを設けており(参加や対話は任意である)また,レビュー手続の一環として,参加競争当局はその手続について,定められた様式・項目の「テンプレート」に記述して公表する義務がある。
CAPの発足に際しては,多くの競争当局がプレス・リリースを出しているが,なぜか公取委はCAPに対して冷淡な印象を受ける(注3) 。そして,最大の問題は,公取委がCAPのテンプレートを公表していないとみられることである(注4) 。CAP参加の競争当局は,参加から半年以内にテンプレートを作成してCAPの共同議長(オーストラリア競争消費者委員会,ドイル連邦カルテル庁及び米国司法省反トラスト局)に提出する義務を負っており(CAP 3. a)),2019年8月現在,72の競当局が参加しているが,2020年5月7日現在,50の競争当局のテンプレートがICNのウェブサイト上で公開されている。主要国・地域の競争当局が含まれることは言うまでもない。

 (注1)  吉成量平「ICNの概要及び公正取引委員会の取組について」公正取引820号(2019年2月)3頁。

  (注2)公正取引協会ウェブ上の「公正取引Web」において「ICN」で検索すると,339件ヒットした(2020年5月7日アクセス)。最近のものとして,「特集 国際競争ネットワーク(ICN)」公正取引820号(2019年2月)所収の諸論稿,吉成量平「国際競争ネットワーク(ICN)第18回年次総会について(2019年5月15日~17日/於コロンビア・カルタヘナ)」公正取引827号(2019年9月)57頁。

  (注3)山田昭典事務総長は2019年5月15日の定例会見でICNの概要を説明しているが,CAPには全く言及していない。わずかに,2019年12月18日の定例会見において国際関係を説明する中で,「本年の主な取組として,5月に設立された『競争当局の手続に関するICNフレームワーク』の創設に積極的に携わるとともに,我が国も創設メンバーとして加盟いたしました。」と述べている。また,吉成・前掲注2では,ICNの2019年総会の特別プロジェクト「競争当局の手続に関するフレームワーク(CAP)への参加促進」を紹介する中で,CAPの概要を注書きするにとどまる(58頁)。

  (注4)2020年5月7日にICNのCAPの関するウェブサイト(https://www.internationalcompetitionnetwork.org/frameworks/competition-agency-procedures/cap-templates/)で確認した。また,公取委の英語ウェブサイト(https://www.jftc.go.jp/en/int_relations/icn.html)では,”forthcoming”とされている。
 
 公取委がCAPテンプレートの公表を遅らせているとすれば,思い当たる理由は,2019年独占禁止法改正に際して部分的な導入が合意され,現在,パブコメ中の弁護士・依頼者間秘匿特権の公取委規則による制度化を待とうとしているのではないか,ということである 。CAPの基本原則のi)のⅲでは,各参加競争当局は,関連法令に従い,弁護士・依頼者間秘匿特権を含む法的特権を認識し,保護される情報の取扱いに関する規則・ガイドラインを定めるよう勧奨される旨明記されているからである。
しかし,参加競争当局は,関連法令の範囲内でCAPのへの適合を求められるが,CAPは拘束的なものではなく,参加競争当局に義務を負わせるものではない(CAP 1のi))。また,参加に当たっては,基本原則の一部に適合できない旨の申出をすることもできる(CAP 1のj))。したがって,手続規定や運用実務が改正された段階でテンプレートを改訂すればよく,CAPメンバーのテンプレート公表義務を履行しない理由にはならないはずである。
2019年改正独占禁止法が施行されるのは本年秋であろう。5月にロサンジェルスでの開催が予定されていたICNの2020年総会は,現時点では9月開催の可能性が模索されているようである。次回ICN総会までに公取委のCAPテンプレートは公開されるのであろうか。

(令和2年7月19日追記) ICNのウェブサイトにおいて,公取委のCAPテンプレートが掲載されていることを確認した(正確な日付は不明であるが,公取委が本文で述べたパブコメを経て,委員会規則等の成案を公表した本年6月25日よりは後である)。公取委がCPAメンバーとしての義務を履行したことは歓迎すべきことである。その内容をみると,i) Representation by Counsel and Privilegeの項目において,「2019年5月1日現在」として,課徴金減免制度の改正(調査協力減算制度の導入)のための独占禁止法改正法案を国会に提出しており,併せて,弁護士・依頼者間の文書等への審査官のアクセスを制限する制度を規則等により設ける予定である旨記載されている。この内容である限り,昨年の段階で記載できることであり,本文で述べたような制度化を待つ必要はなかったことになる。公取委は,弁護士・依頼者間秘匿特権が保護されていないという批判を恐れてCAPテンプレートの公表を遅らせていたのではなく,単にCAP事務局への通報ミスにすぎないのかもしれない。しかし,それはそれで重大なことであり,本文で述べた公取委のCAPテンプレートへの冷淡な姿勢の表れといえるのかもしれない。

令和2年7月13日当協会名誉会長 伊従 寛 儀 永眠しました

 当協会の名誉会長 伊従寛先生が6月29日にご逝去されました。伊従先生は,平成12年から会長を務めてこられましたが,その卓抜なアイディアと持ち前の行動力で協会の活動を引っ張ってこられました。私自身,個人的にも協会の様々な活動に参加する機会をいただきました。北京での国際カンファレンス,米国セントルイスのワシントン大学での研究会,独占禁止法の手続に関する研究会,電力事業に関する勉強会等々,その一つ一つが鮮明に思い出されます。 協会の活動を進めていく上で,先生を失ったことは大きな痛手でありますが,先生のご遺志を受け継いでまいります。先生の長年に亘るご指導に感謝いたしますとともに,謹んでご冥福をお祈り申し上げます。    競争法研究協会会長 栗田 誠

令和2年6月18日競争法関連の動き(2020年5月中旬~6月上旬)

2020年6月8日
競争法研究協会
第276回月例研究会


Ⅰ 法制・ガイドライン等(6月5日までの動き)
 ○独占禁止法改正法の施行に伴い整備する公正取引委員会規則案等に対する意見募集(4/2開始,5/15意見提出期限):本年秋に見込まれる改正法の施行に向けて最終化作業が行われている

                           
  ①課徴金算定における調査協力減算制度関係
   ・課徴金減免規則の全部改正案
   ・「調査協力減算制度の運用方針」(案) 
 
公取委の裁量の透明性を求める意見,最小限の減算率にされてしまう懸念等が出ている。
 
②弁護士・依頼者間秘密通信記録物件に係る判別手続関係
   ・審査規則の一部改正案
   ・「事業者と弁護士との間で秘密に行われた通信の
    内容が記録されている物件の取扱指針」(案) 
 
そもそも考え方が大きく対立してきただけに,極力限定したい公取委と極力拡大したい経済界・法曹界との溝は大きい。グローバル企業の実務への考慮等を主張する意見がどこまで反映されるか。
 
  ③供述聴取後のメモ取り関係
   ・審査手続指針の一部改正案 
 
供述聴取終了時に限定せず,途中段階でのメモ取りを認めるよう求める意見が出ている。
 

〇「地域における一般乗合旅客自動車運送事業及び銀行業に係る基盤的なサービスの提供の維持を図るための私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の特例に関する法律」の成立(5/20)
  ①地域乗合バス事業者及び地域銀行が主務大臣の認可を受けて行う合併等に係る独占禁止法適用除外の創設
  ②地域乗合バス事業者が国土交通大臣の認可を受けて行う共同経営の協定に係る独占禁止法適用除外の創設
  ③公正取引委員会との協議;10年以内の廃止
〇衆議院可決(4/16):日本共産党を除く賛成多数
〇参議院可決(日本共産党を除く賛成多数)・成立(5/20)⇒5/27公布(施行は6月後)
 ・参議院内閣委員会附帯決議5「公正取引委員会の企業結合審査については,本法の対象と ならない分野を含め,一般消費者の利益が確保されることを前提として,地域の実情等も踏まえつつ,できるだけ速やかに透明性の高い審査を実施すること」

 ○「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」の成立(5/27)
①「特定デジタルプラットフォーム」の定義を政令で定める
②情報開示と手続・体制整備:事前通知義務⇒勧告・公表→措置命令
③不当行為の禁止規定は設けない
④公正取引委員会に独占禁止法(不公正な取引方法)による対処を要請する仕組みを設ける
〇衆議院可決(4/23):全会一致 
  *4/17経済産業委員会に提出された修正案(笠井亮議員〔共〕提出:課徴金重課,禁止行為規定の追加)は否決
〇参議院可決(全会一致)・成立(5/27) ⇒6/3公布(施行は1年以内の政令で定める日)
★公取委事務総長定例会見(5/27):「競争環境の整備を図るという意味で,独占禁止法違反行為の未然防止の上でも非常に意義があると考えております。」「この法律でそういう環境の整備は図るとしても,さらに,独占禁止法に違反する行為が行われれば,(中略)独占禁止法に基づいてしっかりと調査をし,厳正的確に対応して,適切な措置を採っていくということを引き続きやっていきたいと考えております。」
〇「公益通報者保護法の一部を改正する法律案」の国会提出(3/6):大幅な改正
  ①「公益通報者」及び「通報対象事実」の範囲の拡大
  ②公益通報者の保護の強化,事業者のとるべき措置等の拡充
  〇衆議院可決(5/22):附則の一部を修正,全会一致
  〇参議院可決(6/8):全会一致

 〇新型コロナウイルス関係
  ・「新型コロナウイルス感染症に関連する事業者等の取組に対する公正取引委員会の対応について」(4/28)
   1 事業者の取組への対応
    (1) 物資の円滑な供給等に関して同業者が共同して行う取組への対応
    (2) 不当な高価格を設定する事業者に対するメーカー等による取組への対応
   2 中小・下請事業者へのしわ寄せに対する対応
   3 消費者の利益を損なう行為に対する対応(抱き合わせ販売等)
  ・「新型コロナウイルス感染症拡大に関連する下請取引Q&A」(5/13):中小企業庁と連名
  ・「令和元年度における下請法の運用状況及び企業間取引の公正化への取組」(5/27):「新型コロナウイルス感染症に関連した取組」についても紹介(同日の事務総長定例会見でも発言)
  ★公正取引委員会の新型コロナウイルス関連の対応については「会長コラム Too Little Too Late? ―公正取引委員会の新型コロナ対応を巡って」(6/1付け)も参照
    http://www.jcl.gr.jp/column/042_column.php

〇全世代型社会保障検討会議(第7回〔5/22〕):フリーランスの政策の方向性に関する論点として,「政府として一体的に,以下のような政策を検討してはどうか」とされている。
  ・契約書面の不交付等→独占禁止法(優越的地位濫用)上不適切であることの明確化
  ・資本金1000万円以下の企業からの発注書面の不交付→下請法の改正
  ・取引条件の一方的変更・支払遅延等→独占禁止法(優越的地位濫用)・下請法上の問題の明確化
  ・仲介事業者とフリーランスの取引→独占禁止法適用の明確化
  ・関係省庁連名による実効性・一覧性のあるガイドラインの作成
  ・職員増による独占禁止法・下請法の執行強化
  ・下請振興基準を通した業所管省庁による執行強化

Ⅱ 独占禁止法違反事件
 〇大阪ガス事件(自発的改善・審査打切り:6/2公表):違約金条項等による大口顧客囲い込み
  ・違反被疑行為:大口供給地点向けの導管を通じたガス供給分野において,次の方法により競争事業者を不当に排除している疑い(2018年8月2日立入検査)
   ①不当廉売・差別対価
   ②包括契約
   ③中途解約金
  ・排除型私的独占又は不公正な取引方法(不当廉売,差別対価,拘束条件付取引若しくは競争者に対する取引妨害)
  ・審査事実

審査事実 考え方 大阪ガスの申出 評価
「同社の変動費に託送料金相当額を加えた水準を下回る額でガスを販売していた事実はほとんどなかったこと等から」,違反行為があるとは認められなかった。
包括契約の対象個別契約に係る取引を他のガス小売事業者に切り替えた場合,通常,金銭的負担が生じる。 不当に,他のガス小売事業者に取引を切り替えると金銭的負担が生じることにより,競争者の取引機会が減少するおそれがあるなどの場合には違反になる。 対象個別契約の一部について取引を継続しない場合,他の対象個別契約について包括契約を締結する等の措置を採る。 需要家が包括契約の対象契約を他の事業者に切り替えることに伴う金銭的負担がなくなり又は軽減されるため,競争者が取引を獲得することが現状に比して容易になる。
個別契約を中途解約する場合,中途解約金の支払いを需要家に義務付けている。 (同上)「不当に」に該当するかどうかは,中途解約により発生することが合理的に予測される損害の額等を勘案して判断される。 中途解約金の額をおおむね現在の約7割に引き下げる。 他の事業者に切り替えることに伴う金銭的負担が軽減され,競争者が取引を獲得することが現状に比して容易になる。

 (注)特に②について,大幅に簡略化していることに留意されたい。
  ・「4 本件の処理
 公正取引委員会は,前記3を踏まえ,今後,大阪ガスが自ら申し出た改善措置を実施したことを確認した上で本件審査を終了することとした。」
*大阪ガスが改善措置を既に実施したことを確認したので審査を終了したのか,あるいは,それを今後確認した上で審査を終了する予定であるのか,曖昧な記述である。
⇒大阪ガスのプレス・リリース(立入検査時のものに6/2追記)
 「……独占禁止法違反の認定はなされず,審査が終了しました。(改行)なお,審査の過程で,従来運用していた内容を契約書に明記するなどの対応を行うことを,公正取引委員会に申し出ました。」
  ★参考事例:北海道電力事件(平成14・6・28警告〔排除型私的独占〕):長期契約における途中解約の際の高い精算金・違約金による大口顧客の囲い込み
    ・その後の調査で他の電力各社でも同様の契約がみられたことから,一斉に是正措置が採られた(平成14・10・16公表)。
★実体面でも手続面でも問題が大きい事件処理である。
【実体面】
   ①:排除型私的独占ガイドラインにいう「商品を供給しなければ発生しない費用を下回る対価設定」が「ほとんどなかったこと」を主な理由として違反行為なしと判断したものと考えられるが,少しはあったことを認めるものであり,また,総費用ベースでのコスト割れの可能性には言及がない。他方,違反被疑行為の「競争者との競合が生じた場合のみ低くする」行為には全く言及がない。
   ②:不当性の判断が難しいことは理解できるが,「申出の措置により少しは改善されるから」というだけの判断のようにみえる。
   ③:②に比べれば,「不当に」の考え方がガス適正取引ガイドラインにも明記されており(第二部Ⅰ2(1)イ⑤の(注2)),参考事例もあることから,一層の分析が可能ではなかったかと思われる。なお,今回の報道資料では,「不当に」の判断の考慮要因として「中途解約により発生する…損害の額等」を挙げているが,上記ガイドラインの(注2)では「需要家が解約までに得た割引総額,当該解約によるガス小売事業者の収支への影響の程度,割引額の設定根拠等」とされており,齟齬があるようにみえる。
   ①②③:本件は,「複数の行為を組み合わせた参入阻止行為」(ガス適正取引ガイドライン第二部Ⅰ2(1)イ⑩)であるから,個別に検討するだけでなく,包括的な評価が必要なはずである。
  【手続面】
   ・排除措置命令(及び要件を満たす場合には更に課徴金納付命令)を目指さない理由が不明である。
・2年近い審査を行っていることが確約手続に付さない理由にはならないと思われる(後記の日本メジフィジックス事件〔令和2・3・12確約計画の認定〕参照)。確約手続の施行の時点(平成30・12・30)で既に改善措置が採られていた可能性はある。
・「警告」と「自発的改善措置による審査打切り」を区別する基準は不明であるが,少なくとも「警告」(違反のおそれがあると結論付けること)とする(審査規則26条に基づく事前手続を採ることになる)必要があったのではないか。
・報道資料には,電力・ガス分野における違反情報に接した場合には,「公益事業タスクフォース」(平成28年7月設置)において「効率的に調査を行う」とある。しかし,公益事業における旧独占事業者による新規参入排除行為を「効率的に」調査することなどできるのであろうか。末端の営業担当者レベルでの局所的な(特定の需要家を巡る)低価格設定による「取った,取られた」の紛争事案であれば簡易な調査が可能かもしれないが,本件のような,全社的な契約条項に関わる事案を「効率的に」審査して結論を出せるとは思われない。
★本件処理についての感想
・「小売全面自由化後の都市ガス事業分野における実態調査報告書」(令和元・6・28公表)には,「公正取引委員会は,ガス小売事業者による都市ガスの調達や需要家の獲得を不当に妨げる行為に対しては,独占禁止法を厳正に執行していく」(35頁)旨表明されているところ(前述したガス適正取引ガイドラインにも言及している。33頁),今回の審査結果はこの方針に沿ったものとは言い難い。予防・啓蒙的観点から積極姿勢のガイドラインや報告書の提言と慎重な審査実務との違いとして片付けるには重大すぎると思われる。
・公正取引委員会が電気通信,電力・ガス,航空等の公益事業における支配的事業者による排除行為に対して法的措置を採ったのはNTT東日本事件(排除勧告は平成15・12・4,最判平成22・12・17)に限られている(旧独占事業者という意味ではJASRAC事件も挙げるべきかもしれない)。最高裁でも支持された排除型私的独占事件として,共に歴史に残る事案である。しかし,残念ながら,その後に続く事件が現れてこない。大阪ガス事件は明らかにその可能性があると思われただけに,今回の結論は残念である。
・電力・ガスの小売全面自由化の中で,特に関西地区は大阪ガスと関西電力の間で激しい顧客争奪が行われており,今回の大阪ガスの違反被疑行為もそうした競争激化の中で生じたものと考えられる。そうだとすると,公正取引委員会としては,活発な(場合によっては行き過ぎた)競争を繰り広げる当事者の一方のみを独占禁止法違反(ないしはそのおそれあり)と結論付けることに躊躇があったのかもしれないし,その競争相手が関西電力であれば尚更ともいえる。

 〇クーパービジョン・ジャパン事件(確約計画の認定:6/4公表):価格広告の禁止等
  ・違反被疑行為:コンタクトレンズの販売について,小売業者に対して,次を要請
   ①広告への販売価格の表示を行わない
   ②医師の処方を受けた者にインターネットによる販売を行わない
  ・不公正な取引方法12項(拘束条件付取引)
  ・確約計画の概要
   ⓐ取締役会の決議(当該行為を既に行っていないこと等)
   ⓑ小売業者・販売代理店への通知,一般消費者への周知,自社従業員への周知徹底
   ⓒ3年間の同様の行為の禁止
   ⓓコンプライアンス
   ⓔ公正取引委員会への報告
  *立入検査は昨年6月11日(同社のほか,日本アルコン及びシードの3社同時)
  ★報道資料には,違反被疑行為として,上記①及び②を「行わないように要請していた」とのみ記載されている。なお,新聞報道によれば,「従わない業者には出荷停止などをほのめかしていた」という(19/06/11朝日夕刊)。
   ⇒「要請」だけで拘束条件付取引の行為要件(「拘束する条件をつけて」)を満たすかには疑問もあり,排除措置命令が行われなかったことと関係するのかもしれない。
   *同じコンタクトレンズ販売について排除措置命令が行われたJ&J事件(平成22・12・1)では,様々な実効確保措置が認定されている。
★本件は,確約認定の事例としては3件目となる。①楽天事件でも,同時に2社(ブッキングドットコム,ウィキペディア)も立入検査を受けており,引き続き審査中と思われる。

事件名 立入→認定日 違反被疑行為 確約計画
①楽天 2019・4・10→2019・10・25 (約6か月) 「楽天トラベル」における宿泊施設業者との間の同等性条項(他のルートよりも不利でない条件の要求)等【不公正な取引方法(拘束条件付取引)】 3年間の同様の行為の禁止 再発防止策
②日本メジフィジックス 2018・6・13→2020・3・11 (約21か月) がん診断用医薬品の新規参入者に対する妨害【排除型私的独占又は不公正な取引方法(競争者に対する取引妨害)】 3年間の同様の行為の禁止 再発防止策
③クーパービジョン・ジャパン 2019・6・11→2020・6・4 (約12か月) コンタクトレンズの価格広告の禁止等【不公正な取引方法(拘束条件付取引)】 3年間の同様の行為の禁止 再発防止策


①楽天確約認定事件の担当官解説(832号〔2020年2月〕では,「審査開始後,半年程度で確約手続による事件処理を行ったことによって,楽天に対し排除措置命令を行うよりも早く競争上の問題が早期に是正されたものと考えられる案件」として紹介している(81頁)。しかし,②日本メジフィジックスでは審査開始から約1年9か月,③本件では約1年かかっており,早期是正とは言い難いように思われる。両事件とも,それほど事実認定や法適用上の問題を含むとは考えにくく(前述のとおり,③本件には行為要件レベルの問題があった可能性はある),排除措置命令を行わない理由の合理的な説明が求められる。
★3件の報道資料は極めて簡潔であり,当該違反被疑行為が有し得る競争上の弊害や確約手続に付すことを適当と判断した理由を何ら説明するものではない。
  ・公正取引委員会「確約手続に関する対応方針」11 確約計画の認定に関する公表
   「確約計画の認定をした後,公正取引委員会は,具体的にどのような行為が公正かつ自由な競争に悪影響を与える可能性があるのかを明らかにし,確約手続に係る法運用の透明性及び事業者の予見可能性を確保する観点から,認定確約計画の概要,当該認定に係る違反被疑行為の概要その他必要な事項を公表する。」
    前述した大阪ガス事件(審査打切り)を含めて考えると,公正取引委員会の違反事件審査の公表内容は,排除措置命令や確約認定といった法的措置事件よりも,自発的改善により審査を打ち切った事件の方が詳しくなっているという倒錯した状況にある。

Ⅲ 企業結合事案
〇DIC株式会社によるBASFカラー&エフェクトジャパン株式会社の株式取得(第2次審査の開始:5/20公表)
 ★新型コロナ対応,あるいはポスト・コロナの問題として,企業結合が急増することへの懸念,十分な審査ができないことへの懸念等が世界的に議論されている。公正取引委員会においても,十分な備えができていることを期待したい。

Ⅳ 下請法等
 〇「令和元年度における下請法の運用状況及び企業間取引の公正化への取組」(5/27公表)
・荷主と物流事業者との取引に関する書面調査:荷主30,000名及び物流事業者40,000名を対象とする書面調査の結果,物流特殊指定に照らして問題となるおそれがあると認められた864名の荷主に対して,物流事業者との取引内容の検証・改善を求める文書を発送(令和2年3月)
・コンビニエンスストア本部と加盟店との取引等に関する実態調査:全国の約57,000の加盟店に対して,令和2年1月17日に調査票を発送

令和2年6月1日会長コラム更新【公正取引委員会の新型コロナ対応を巡って】

 Too Little Too Late? ―公正取引委員会の新型コロナ対応を巡って
 競争法研究協会
 会長 栗 田 誠

 新型コロナ感染症関連の公正取引委員会の対応について,4月ごろから感じていることを2点申し上げたいと思います。一つは,公正取引委員会の違反事件審査への影響です。違反事件の審査では,関係人と対面して,供述を聴取して調書を作成するという方法が最重要の証拠収集の手段とされてきました。これが,対面による供述聴取ができないとなると,デジタル情報を含む各種資料の分析に重点を移さざるを得ないように思われます。かねてから供述依存,供述偏重の審査からの脱却が必要ではないかと指摘されてきましたが,審査実務が自ずと変わらざるを得ない状況になってきているように思います。ここにも「新しい日常(new normal)」があるということでしょうか。

 もう一つは,新型コロナ関連の独占禁止法の実体面・手続面における対応に関して,公正取引委員会からの発信が弱いのではないかという問題です。2月下旬から断片的に,報道発表や情報提供という形で,いくつかの問題に関する発信はありましたが,まとまった報道発表としては,4月28日の「新型コロナウイルス感染症に関連する事業者等の取組に対する公正取引委員会の対応について」が唯一のものです(なお,4月1日の定例会見においても,事務総長がそれまでの報道発表や情報提供を基に説明されています)。それまでの関連情報を整理して公表したことは適切であったと思いますが,私には“too little, too late”に見えました。米国やEUは言うまでもなく,世界中の多くの競争当局がこの問題に関する実体面・手続面の考え方や対応方針を積極的に発信しています(なぜか4月28日の報道資料には,米国やEUの対応やICNの声明が紹介されています)。また,競争当局幹部が自ら,執筆やウェブセミナーへの出演等,様々なメディアに登場して意欲的に発言されています。
 競争当局が発信すべき内容として,大別すると次の3つに区分できると思います。第1は,この緊急事態の下で,ハードコア・カルテル等の競争法違反に対しては厳正に取り組む姿勢を強調することです。公正取引委員会が2月末に行ったマスク等の抱き合わせに関する発表はこのタイプのものといえますが,より悪質な行為に対する姿勢を明確に示すことが必要だったのではないかと思います(4月28日の報道資料では,末尾で価格カルテル等への厳正な対処についても簡単に触れています)。

 第2は,緊急事態の下で必要になる事業者間協力や事業者団体の取組その他の活動について,独占禁止法違反のリスクの有無やリスクを回避する方策を具体的に示して,そうした活動を間接的に支援することです。この点に関しては,公正取引委員会は,東日本大震災の際の「想定事例集」や「Q&A」を参照するように情報提供しましたが,より積極的なメッセージを発信すべきであったと思います。蓄積があるわけですから,迅速に考え方や対応方針を示すことは難しいことではないと思われます。また,マスクや消毒製品等のメーカーが小売店に上限価格を指示する行為については,新聞報道(4月23日付け日経朝刊)に触発されるような形で4月23日に情報提供がなされました。しかし,そこで示された考え方は,緊急時に期間を限定してという条件付きの,かなり抑制的なものになっています。むしろ,最高再販売価格の拘束一般について,あらためて検討すべき課題のように思われます(流通・取引慣行ガイドラインはこの点について沈黙していますし,担当者による解説書でも触れられていません)。

 第3は,手続的な問題であり,関連する事前相談に対しては迅速に回答する旨,あるいは,企業結合の事前届出において特別の対応を取る旨,表明すべきであったと思います。事務総長の5月13日の定例会見において,質問に答える形で,企業結合の届出は電子メール添付の方法でよい(押印した原本の提出は後日でよい)とする取扱いを既に行っている旨説明されていますが,何らかの方法で公表されてしかるべきであったと思われます。
特に第2の点に関連して,緊急事態の下での企業間協力や事業者団体活動に関する明確なメッセージを発信する必要性や有用性は,特に日本の独占禁止法の実体規定や公正取引委員会の実務からみて,諸外国以上に高いと考えられます。日本の独占禁止法は,事業者団体活動に対して事業者の共同行為よりも厳しい規定を持っています。また,公正取引委員会のいわゆる「ガイドライン行政」の下で,違反行為の未然防止を重視したガイドラインが作成されるとともに,事前相談が奨励され,その回答においては「問題となるおそれがある」というフレーズが多用されてきました。近年,変化はみられるものの,独占禁止法コンプライアンスを心掛ける事業者・事業者団体ほど,独占禁止法リスクを考慮せざるを得ないという状況が依然としてみられます。
公正取引委員会は,業務提携に関するガイドラインを未だに作成することができていません。20年近く前に実態調査が行われ,業務提携ガイドラインを作成する旨表明されていたにもかかわらず,長い時間が過ぎてしまいました。競争政策研究センターの検討会の報告書という形でありますが,昨年7月に検討成果が公表されたことは歓迎すべきであり,それを更に進めて,事業者間協力行為に関するガイドラインとして成文化されることを強く願っています。

令和2年5月19日会長コラム更新【2019年度における独占禁止法・競争政策の動向についての雑感】

【2019年度における独占禁止法・競争政策の動向についての雑感】
 競争法研究協会会長 栗田 誠
〇独占禁止法の法執行においては,法的措置を採るのはハードコア・カルテルと再販売価格維持行為に限定し,その他の行為類型については確約手続の活用を含め,迅速な問題解消を優先する傾向が益々顕著になってきている。また,独占禁止法違反行為は多様であるのに,違反事件として審査対象になる類型は限定されている。確約手続の意義を否定するものではないが,違法性判断基準の具体化・明確化のためには多様な違反行為類型について積極的に法的措置を採ることが不可欠である。しかし,命令取消訴訟のリスクやコストを考えると,代替的な手法を用いることが合理的という判断なのかもしれない。

〇排除措置命令・課徴金納付命令の件数は依然低い水準であるが,課徴金額が大きな価格カルテル事件(アスファルト合材,飲料缶)が相次ぎ,単年度として最高額になったとみられる。近年,課徴金賦課の総額が低水準にあっただけに,2019年度のような高水準が今後も継続するのか,注視したい。

〇企業結合に関しては,企業結合ガイドラインの重要な改正がなされ,また,手続対応方針においても,届出基準を満たさない事案に対する対応が示され,実際にもそれを先取りするような審査事例(エムスリー/日本アルトマーク)が出るなど,新たな動きがみられた。また,新型コロナウイルス問題に対応した企業結合の動きが今後表面化してくると思われ,公正取引委員会の真価が問われる。

〇新たなガイドラインとして,デジタル・プラットフォーマー(DP)を巡る消費者優越ガイドラインが作成され,政府全体のDP問題への取組の中で大きな関心を集めたが,その実際的意義には疑問もある。また,スポーツ事業分野における移籍制限ルールに関する考え方や芸能分野において問題となり得る行為の想定例が明らかにされるなど,人材分野への取組も社会的関心を集めており,競技団体によるルールの見直し等の動きも出てきている。近時,公正取引委員会の活動が活発であり,メディアへの露出も増えているという好意的な評価が目立つが,こうした取組が背景にあると思われる。

〇違反事件の審査ではなく,実態調査を踏まえた問題点の指摘により,事実上改善させるという手法は古くからのものではあるが,それが顕著になってきている。この手法に関する法的根拠を整備することが望ましい。

〇公正取引委員会の公表資料において,実質的な記述が乏しいものになってきているのではないか,いわゆるセオリー・オブ・ハーム(theories of harm)がよく分からない,という印象を受ける。今に始まったことではないが,排除措置命令書を読んでも,弊害要件(効果要件)に関する記述は事実上ないに等しい。確約計画の承認の公表資料において,審査対象とされている行為の競争上の弊害の可能性に関する記述はない。唯一,企業結合の公表事例だけは,頁数も多く,要件に沿った記述がなされており,問題解消措置が採られることを前提にクリアされた事案について,どうして排除措置命令を出さないのかと思うくらいである。

〇地域銀行や地方バス会社の経営統合等を巡る議論が独占禁止法適用除外の創設という形で決着したことにはやや驚いた(法案の題名では「適用除外」ではなく,「特例」とされているが)。1990年代に適用除外制度の見直し(原則廃止)を大きな方針として関係省庁と調整を重ねてきただけに,こんなに簡単に適用除外を認めていいのか,という思いはあるが,同時に,限られた分野における,限られた行為類型についての,限られた期間の特例にすぎず,むしろ厄介な案件を抱え込まなくて済む,ということなのかもしれない。

〇公正取引委員会と関係省庁との連携による取組が強化されている(例えば,電気通信サービスに係る総務省及び消費者庁との連携〔令和元・10・1公表〕)。こうした連携は,縦割りを排し,それぞれのリソースや権限を有効活用し,大きな成果を上げることにつながる面もあるが,同時に,公正取引委員会の独占禁止法執行を制約する面がないとはいえないであろう。9月にも就任される古屋一之新委員長の下で,公正取引委員会は益々連携・調整型のスタイルを採用していくのかもしれない。

(注)栗田会長の個人的な見解をまとめたものです。

令和2年4月11日公正取引委員会の職権行使の独立性

公正取引委員会の職権行使の独立性
  競争法研究協会
  会長 栗 田 誠

 公正取引委員会の次期委員長候補者として古谷一之内閣官房副長官補(元国税庁長官)が国会に提示され,2020年3月25日に衆議院議院運営委員会において所信の聴取と質疑が行われた。会議録を一読したが,中小企業問題(新型コロナウィルス関連を含む)やデジタルプラットフォーム問題に焦点が当てられ,特段目新しいことはないようにも感じたが,デジタル分野の競争環境の整備に関連した公正取引委員会の職権行使の独立性を巡る議論に注目したい。

 古谷参考人は,公正取引委員会が取り組むべき具体的な施策として,次の7点を挙げている。杉本和行現委員長が就任時(2013年3月)に挙げておられた公正取引委員会の課題と大きく違うところはない。④は,杉本委員長の就任時には含まれていなかったが,その在任中に最も重点を置いて取り組まれてきた課題である(杉本和行『デジタル時代の競争政策』(日本経済新聞出版社・2019年)参照)。また,⑥が追加されていることは言うまでもない。

①厳正かつ実効性のある独占禁止法の執行
②中小企業に不当に不利益を与える行為の取締り
③消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保
④情報を競争資源とする分野における競争環境の整備
⑤様々な分野における競争環境の整備
⑥令和元年改正独占禁止法の円滑な施行
⑦競争当局間の国際的連携の推進

 古谷参考人は,④に関して,デジタル分野の実態把握と考え方の整理や独占禁止法の執行に加えて,「デジタル分野の競争環境の整備に向けましては,公正取引委員会以外にも多くの省庁が関係をすることから,昨年九月,内閣官房にデジタル市場競争本部が設置をされまして,政府全体での取組が行われております。こうした検討に積極的に参加していくことが必要と考えております。」と述べておられるが,この点も杉本委員長の下の公正取引委員会の路線と異なるものではない。

 古谷参考人の所信に対する質疑において,塩川鉄也委員(日本共産党)から公正取引委員会の職権行使の独立性に関する認識を問われて,古谷参考人は次のように応答されている。

独禁法28条で,公取は独立してその職権を行使するというふうになっております。独立行政委員会という位置づけでございまして,ほかから指揮監督を受けることなく,独立で,まさに自由で公正な競争環境を確保する仕事という崇高な使命が公取にはあるんだというふうに思っております。
 私自身は,内閣官房で,先ほど申し上げましたように,各省のあまた調整事をやっておりますけれども,公取委員長に仮に選任されましたならば,この独立して職権を行使するということを心に定めて仕事をさせていただきたいというふうに思っております。

 この後,若干の質疑があり,公正取引委員会の職権行使の独立性と次期委員長候補者の現在の職務(内閣官房副長官補)との関係で重要なやり取りが行われている。正確を期すために,会議録から引用する(下線は筆者)。

○塩川委員 公正取引委員会の知見が不十分だという認識を踏まえて,成長戦略実行計画においては,内閣官房にデジタル市場の競争状況の評価等を行う専門組織としてデジタル市場競争本部を創設するとしました。古谷さんのお話にもあったとおりであります。その事務局組織の,デジタル市場競争本部事務局の事務局長が古谷副長官補ということであります。
 やはり,いろいろ公取に注文をつけるような内閣のもとで新たにつくられたデジタル市場競争本部,その事務局の責任者をやっておられる古谷参考人が,いわば官邸の中枢で企画立案や総合調整を担う立場だった人が独禁当局の責任者となるのは,公正取引委員会の職権行使の独立性に疑問符がつかないかと思うわけですが,その点,いかがでしょうか。
○古谷参考人 私は,きょう,内閣総理大臣から候補者として選考されてここに参っておりますので,私がふさわしいかどうか,私の方から申し上げるのは難しいですけれども,先ほども申し上げましたように,デジタル市場の競争環境を整備していくという問題については,公取,競争当局を含めていろいろなところがかかわってくる話になると思いますので,これは,個人情報保護委員会とか消費者庁,経産省,総務省,いろいろなところと一緒になって議論しております。そういう中で,公取が果たすべき役割というのはあると思います。
 今,内閣官房でそうした調整業務を主として私はやっておりますけれども,一番最初の御質問に戻りますが,公取は独立して仕事をするということでございますので,公取の委員長になりました場合には,きちっとそこは切り分けて職務に当たらなければいけないと思っております。
 私は,これまでいろいろな行政官として仕事をしてまいりましたけれども,それぞれ与えられた職責を一所懸命と思ってやってきたつもりでございます。今後もそうしていきたいというふうに考えております。

 塩川委員の懸念を敷衍すれば,官邸主導で政策形成・実施が行われている中で,職権行使の独立性が保障されているはずの公正取引委員会に対しても官邸から要請,更には指示がなされ,あるいは公正取引委員会が官邸の意向を忖度して活動することとなるおそれがあり,現在,官邸で政策の企画・調整の中枢にある候補者が公正取引委員会委員長に就任することになれば,公正取引委員会が官邸と一体化し,あるいは公正取引委員会が官邸の政策実現のツールと化すことになりかねない,といったことであろう。

 確かに,「官邸官僚」としては,時の政権の政策実現に向けて努力することは当然であろうし,官邸を離れてからもそうしたマインドを持ち続けるかもしれない。また,政府部内の調整を担ってきた者であれば,その大変さが分かるだけに,政府の一員として調整に応じることになりがちであるかもしれない。したがって,実質的に公正取引委員会委員長としての職権行使の独立性が損なわれかねないという塩川委員の指摘には一面の真理がある。しかし,同時に,政府部内の調整の経験を活かし,競争政策の理念や公正取引委員会の考え方を政府部内に普及させつつ,独占禁止法の執行を独立して行うこともできるはずである。

 塩川委員の懸念に対しては,上記の引用のとおり,候補者が官僚としての模範解答のような応答をされている。候補者が委員長に就任された後の公正取引委員会の活動の事後的な評価を通して判断するほかなく,現時点でこれ以上の議論をする材料を筆者は持ち合わせていない。以下では,EUにおける議論を参照しつつ検討してみたい。

 内閣官房副長官補の職にある候補者が次期公正取引委員会委員長に就任したとしても,内閣官房における政策調整業務と公正取引委員会委員長の職務を同時に行うわけではないから,直ちに利害対立や利益相反が生じるわけではない。実際上も,候補者は,デジタル市場における競争環境の整備についての専門的見識を持って現在の職務に当たるというよりは,多数の関係省庁や多彩な有識者の様々な主張や見解を適切にさばき,実施可能な政策として取りまとめることを任務とされているものと推測される。仮に候補者が内閣官房における企画・調整業務を通して,特定の具体的な問題についての確固たる見解を形成しており,特にそれが明らかになっている場合には,将来的に当該問題に係る公正取引委員会における意思決定に参画するに際して議論を招く可能性が皆無とは言えないが,およそ想定しにくいと思われる(※注1)
(※注1)例えば,特定の事業者の具体的な取引方法が独占禁止法に違反するという強固な見解を持ち,それを公言していた候補者が公正取引委員会委員長・委員に就任した後に,当該事業者の当該取引方法に係る独占禁止法違反事件に関する意思決定に参画することは,予断・偏見による資格喪失の議論を喚起する可能性がある。少し古いが,栗田誠「米国連邦取引委員会における委員の資格喪失」同『実務研究 競争法』(商事法務・2004年)183頁参照。

 ところで,EUにおいて政策調整と法執行の利益相反を巡って興味深い議論が行われているので,それを紹介する。2019年12月1日に欧州委員会の新体制が発足したが,従前,競争政策を担当していたマルグレーテ・ヴェスタエアー委員(デンマーク)が再任されて執行副委員長(Executive Vice-President: EVP)に就任し,「デジタル時代にふさわしい欧州(A Europe fit for the digital age)」を担当するとともに,競争政策も担うという,2つの任務(dual function)を果たすことになった(※注2)。このため,デジタル分野の政策調整という任務と競争法の執行という任務を同一人が同時に的確に遂行できるのかという利益相反(conflict of interests)問題が指摘された。日本で例えれば,デジタル問題担当の内閣官房副長官補が公正取引委員会委員長を兼任するような事態と言えようか。

(※注2)Ursula von der Leyen, President-elect of the European Commission, Mission Letter to Margrethe Vestager, Executive Vice-President-designate for a Europe fit for the Digital Age, 10 September, 2019.

 指摘された問題点とは,具体的には次のようなものである(※注3)。デジタル担当EVPの役割はデジタル分野におけるEUの主導権を維持することであり,立法を含む産業政策を担うのに対し,競争政策担当委員の任務は競争法を中立的に執行することである。両者のアプローチは概念的に異なっており,利益相反は不可避である。また,競争法の執行がデジタル政策上の考慮(例えば,欧州チャンピオン企業の育成)によって影響されるという受け止め方を払拭することは困難であり,国際競争に影響を及ぼし得る競争法の執行に当たって,地政学的な考慮が紛れ込むことにもなり得る。さらに,競争法の執行は手間がかかるものであり,片手間でできるようなものではない。兼任の競争政策担当委員では,競争総局の決定案を自動承認するだけになってしまうし,そうならないようにするためには手続的・制度的な改革が必要になる。
(※注3)Mathew Heim, Questions to the Competition Commissioner-Designate, September 27, 2019, available at https://www.bruegel.org/2019/09/questions-to-the-competition-commissioner-designate/.

 こうした問題点が指摘されていたが,2019年10月8日に欧州議会で行われた承認公聴会では,ヴェスタエアー副委員長がデジタル政策全般と競争政策を兼任することについては大きな論点とはならず,他の一部の委員の承認が得られず発足が遅れたものの,同年12月1日から新体制がスタートした。第1期におけるヴェスタエアー委員の活動に対する高い評価が上記のような問題指摘を消し止めた形である。しかし,逆に言うと,デジタル分野における今後の産業政策の展開や競争法の執行によっては,ある問題では産業政策重視の立場から,別の問題では競争法執行重視の立場から,厳しい批判を受けることになりかねない。両方の要請を同時に満たすことが容易ではない課題に直面した場合に,ヴェスタエアー副委員長の2つの任務の真価が問われることになる。

 また,欧州委員会における競争法執行に係る決定は,合議体としての委員会における多数決によることになるが,実質的には競争政策担当委員が決定している。他の委員の大部分は競争政策と関係しない所掌を担っており,具体的事件の関係人と直接対面することもなく,競争総局の説明を受けて,競争政策担当委員の決定案を例外なく支持することとなる(※注4)。形式的には合議体としての欧州委員会の決定であるとしても,実質的にみれば競争政策担当委員の判断に委ねられており,実質的な決定者の独立性・中立性が問われることになる。
(※注4)この点が直接主義に反するものとして,EU競争法手続における最大の欠陥とされる。See, e.g., Ian Forrester, Due Process in EC Competition Cases: A Distinguished Institution with Flawed Procedures, 34 ELR 817 (2009).

 このように考えると,欧州委員会におけるヴェスタエアー副委員長の2つの任務には重大な問題を孕んでいるようにみえる。利益相反の発生を防止するためには,利益相反の状況が生じないように制度を設計することが基本であり,利益相反による弊害が生じないように運用の妙に委ねるということであってはならないはずである。また,決定過程や決定内容を事後検証することにより,利益相反の弊害が生じていないかを確認できるような仕組みを構築しておく必要がある。

 欧州委員会に関する議論を踏まえて,公正取引委員会における意思決定の仕組みをあらためて考えると,様々な形で制度的な担保が実装されていることが分かる。第1に,委員長及び委員は原則として兼職ができず(独占禁止法37条2号),身分保障がある(独占禁止法31条及び36条)。第2に,委員長及び委員は職権行使の独立性が保障されており(独占禁止法28条),これには委員会の構成員相互間での独立性を含んでいる。第3に,委員会の構成員は5名であり,「法律又は経済に関する学識経験のある者」(独占禁止法29条2項)のうちから多様なバックグラウンドの人材が任命されることが期待されている。第4に,委員会の構成員は対等であり,委員会の意思決定は合議に出席した構成員の多数決で行われるのであり(独占禁止法34条2項),可否同数のときには委員長が決することとなる。

 冒頭に引用した衆議院議院運営委員会における議論との関係でいえば,制度的には,特定の委員会構成員が何らかの理由から特異な意見を有していたとしても,他の構成員の賛同を得ない限り,委員会としての意思決定にはつながらない仕組みになっている。委員会構成員が与えられた職権行使の独立性に思いを致して行動する限り,特定の構成員の影響に起因する偏頗な決定や判断につながることはないはずである。

 しかし,こうした制度的担保だけで全て解決できるとは限らない。決定内容や決定過程が事後的に評価・検証されることが不可欠である。この観点からは様々な問題がある。第1に,委員会構成員による意思決定過程を事後的に検証する方法がないことである。情報公開・個人情報審査会答申(答申18-454,455)によれば,公正取引委員会の「議事録のうち,委員長・委員の率直かつ忌たんのない意見や考えが示されている部分」は,情報公開法5条5号(審議,検討等に関する情報)に該当し,不開示とされている。また,かつての審判審決においては,少数意見を付記することが可能であったが(2013年改正前の独占禁止法70条の2第2項),審判制度の廃止とともに規定が削除されている。

 第2に,公正取引委員会の排除措置命令については,実質的な根拠が示されないという問題がある。独占禁止法違反とされた行為の概要は示されているものの,当該行為の競争上の弊害が具体的に明記されることはない。これは,2005年改正前の「勧告」制度の下における実務,すなわち,関係人が採るべき措置を特定するために必要な限度で事実を記載するという実務が,排除措置命令制度の下でも無批判に踏襲されていることの結果である。

 第3に,公正取引委員会による独占禁止法違反事件審査において非公式な処理が多用されていることである。非公式事案については,公表内容が限定され,また,司法審査を通した検証ができない。公正取引委員会が排除措置命令を行う違反行為類型は,事実上,ハードコア・カルテルと再販売価格の拘束に限定されている。一時期,活発に法的措置が採られていた優越的地位濫用については,2014年のダイレックス事件以降,途絶えている。排除型私的独占に至っては,2009年のJASRAC事件が最後である。公正取引委員会が排除行為や垂直的非価格制限行為について審査していないわけではないにしても,多くは関係人の自発的改善による審査打切り,あるいは2016年改正により導入された確約手続による処理となっている。デジタル分野で問題になっている行為はハードコア・カルテル以外の行為類型であり,現状では法的処理がなされることは期待しにくい。

 結論として,先般の公正取引委員会の次期委員長候補者の所信を巡る質疑で提起された懸念について,制度的には予防措置が構築されているが,事後的に検証する仕組みが十分ではなく,そうした懸念が根拠のあるものであるかどうかはよく分からないということになろう。逆に,EUのヴェスタエアー副委員長の2つの任務においては,利益相反が生じることは不可避のようにみえるが,事後的な検証(司法審査を含む)を通して成果が問われるということであろう。公正取引委員会の実務が事後検証可能なものに改善されることが望まれる。



令和2年1月6日栗田会長より年頭のご挨拶

2020年の年頭のご挨拶
競争法研究協会
会長 栗 田 誠
 新年明けましておめでとうございます。年頭に当たり,一言ご挨拶を申し上げます。
 2019年における独占禁止法の動きを振り返りますと,デジタル・プラットフォーマー問題に焦点が当たった年であったといえます。EUにおいて先行した動きがあり,それに追随するという面もありますが,「優越的地位の濫用」規制を重要な手法とするなど,良くも悪くも日本独自の展開がみられます。12月17日に「デジタル・プラットフォーム事業者と個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方」が作成され,また,「企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針」及び「企業結合審査の手続に関する対応方針」が改定されました。間もなく召集される通常国会には「デジタル・プラットフォーマー取引透明化法案(仮称)」が提出される予定であり,その具体的な内容が注目されます。
 こうしたガイドラインの作成・改定における意見募集や政府の「デジタル市場競争会議」等におけるヒアリングにおいても明らかになっているように,政府や公正取引委員会が進めようとしているデジタル市場を巡る競争政策に対しては賛否が大きく分かれています。デジタル市場におけるルール整備や法規制が必要であるとしても,その根拠法や手法を巡っては様々な意見があり,収斂をみていません。あらゆる経済活動を対象とする独占禁止法がデジタル・プラットフォーマー問題に一定の役割を果たし得ることは当然としても,独占禁止法が中心的な手段として適切かつ実効的であるのか。特に,優越的地位の濫用の規定が競争法規制としての正統性をどこまで持ち得るのか。また,いわば上からのルール形成として出来上がる具体的な規律がイノベーションを阻害することとならないのか。
 EUやその加盟国における動きをみると,個別具体的な事例の蓄積や実態把握の取組が先行しています。それに対して,我が国における取組は海外の動きに触発された急ごしらえのようにもみえ,実態把握や理論的検討が後追いになっている印象を拭えません。デジタル競争市場の特性を考えると,走りながら考えることにならざるを得ないとしても,一時的な熱狂に踊らされたり,成功者を叩くことに堕したりするようなことがあってはなりません。2019年7月の「『競争とデジタル経済』に関するG7競争当局の共通理解」に示されている,①イノベーション及び成長に関するデジタル経済の恩恵, ②既存の競争法制の柔軟性及び妥当性,③競争唱導活動及び競争評価の重要性,④国際協力の必要性という基本的な考え方に沿って取り組んでいくことが求められています。

 2019年におけるもう一つの大きな出来事として,課徴金制度及び課徴金減免制度の改善を主たる内容とする独占禁止法改正が実現したことが挙げられます。この改正は,事業者による調査協力を促進し,適切な課徴金を課すことができるようにすることを目的としており,ハードコア・カルテルに対する規制がより実効的なものとなることが期待されます。2020年秋に予定されている改正法の円滑な施行に向けて,公正取引委員会はその準備に万全を期す必要がありますし,事業者側(法曹を含む)においても改正への対応が求められています。特に,公正取引委員会規則により整備することとされている弁護士・依頼者間秘匿特権への対応について,制度面・運用面の工夫が不可欠です。
 2019年改正が実効的なサンクション制度の構築に向けた大きな一歩であることはいうまでもありませんが,同時に,2017年4月に公表された「独占禁止法研究会報告書」の提言内容の多くが見送られていることも指摘しておかなければなりません。加えて,私的独占や不公正な取引方法の一部の類型に係る義務的課徴金制度が法執行に歪みをもたらしていることが指摘されているにもかかわらず,改善に向けた検討自体が先送りされていることには懸念を覚えます。ハードコア・カルテル以外の違反行為類型に対する法適用を回避するという方針が事実上採用されているともみられる中で,ハードコア・カルテルに対する課徴金・課徴金減免制度だけが複雑化していくことには疑問もあります。
 ここ数年,ハードコア・カルテル規制の低迷が指摘されてきましたが,2019年には巨額の課徴金の納付を命ずる事案が複数みられたことも特筆されます。また,11月には医薬品納入を巡る入札談合事案に対する犯則調査が開始されており,ハードコア・カルテル規制が公正取引委員会の最優先課題であることをあらためて印象付けるものといえます。反面,規制産業における排除行為,知的財産権の濫用的行使等に対する規制が依然として停滞している状況に変わりはありません。あらゆる経済取引を対象とする独占禁止法が多様な行為類型,新規の行為態様にも果敢に取り組むことを期待したいと思います。

 古くからの問題も新たな課題も山積しています。競争法研究協会では,本年も多様なテーマについて多彩な講師をお迎えし,活動してまいります。本年も競争法研究協会にご支援いただきますようお願い申し上げ,年頭のご挨拶といたします。

令和元年11月6日栗田会長から「参考文献と情報検索」について

会長・栗田誠からの「独占禁止法・競争政策に関する参考文献と情報検索」
(ロースクールの学生向け配布資料より)

【はじめに】
○「経済憲法」と呼ばれることもある独占禁止法ですが,平成に入ってから違反に対する措置や手続を中心に頻繁に改正されていますので,最新の文献を参照することが必要です。
・平成25年12月に行われた独占禁止法改正(平成27年4月施行)により,公正取引委員会における違反事件処理手続が大きく変更され,審判手続は廃止されました(ただし,経過措置により,当分の間,2つの手続が併存します。)。
・TPP協定(環太平洋ハートナーシップに関する包括的かつ先進的な協定)の締結に伴うTPP整備法により独占禁止法が改正され,「確約手続」が導入されました(平成30年12月30日に施行され,その適用第1号事件が令和元年10月25日に出ました)。
・令和元年改正により,課徴金制度及び課徴金減免制度が大幅に改正されており,令和2年秋には施行される予定です。今後,改正内容の解説やその内容を取り入れた概説書等が相次いで刊行されることが見込まれます。
○以下では,文献と情報入手先を簡単な解説付きで紹介しますが(2019年10月末時点),独占禁止法を深く学ぶ上で特にお薦めの文献をゴシックにしました。なお,一部,雑誌連載の論文を含んでいます。

1 参考文献
【啓蒙的入門書】
○最初に,新書を中心とした啓蒙的入門書を挙げておきます。
・[1]は,独占禁止法・公正取引委員会の歴史を含め,現状と課題を理解する上で有用であり,かつ,最新です。
・[2]は,独占禁止法をコンパクトに解説したロングセラーです。
・[3][4]は,企業法務全般に関する読みやすい啓蒙書であり,独占禁止法に関する章があります。
 [1]村上政博『独占禁止法 新版―国際標準の競争法へ』(岩波新書・2017年)
 [2]厚谷襄児『独占禁止法入門〔第7版〕』(日本経済新聞社・日経文庫・2012年)
 [3]畑中鐡丸『鐡丸先生の こんな法務じゃ会社がつぶれる』(第一法規・2010年);同『鐵丸先生の生兵法務は大怪我のもと!』(第一法規・2012年)
 [4] 西村あさひ法律事務所編『ビジネスパーソンのための企業法務の教科書』(文春新書・2012年),同『会社を危機から守る25の鉄則』(文春新書・2014年)
○公正取引委員会の現職委員長がデジタル経済における競争政策・独占禁止法を説く書籍が刊行されました。今話題のGAFAに代表されるデジタル・プラットフォーマーを巡る問題を考える上で必読です。
[5]杉本和行『デジタル時代の競争政策』(日本経済新聞出版社・2019年)

【入門的概説書】
○次の3冊のうちのどれかをまず読むことが適切であろうと思います。全くの初学者には [5]が最適かもしれません。
・[6]は,「これまでに書かれた独禁法の教科書の中で最も基礎的な入門書」であるとされていますが,なぜ一定の行為が禁止されるべきかについての経済的な説明を重視した,水準の高い(構成もユニークな)独占禁止法の入門書です。
・[7]は,独占禁止法の条文に沿って,事例の紹介を含めて概観するテキストです。条文を出発点とする点で,法科大学院の学生には向いているかもしれません。
・[8]は,独占禁止法の基本的な考え方が理解しやすいコンパクトな好著です。実体規定全体を鳥瞰する記述(「違反要件総論」)が充実しています。
 [6]川濵昇ほか『ベーシック経済法-独占禁止法入門[第4版]』(有斐閣アルマ・2014年)
 [7]土田和博・栗田誠・武田邦宣・東條吉純『条文から学ぶ独占禁止法[第2版]』(有斐閣・2019年)
 [8]白石忠志『独禁法講義〔第8版〕』(有斐閣・2018年)
○次の2冊も優れた概説書ですが,[6]~[8]に比べてやや大部です。[9]は,コンパクトながら,標準的な構成であり,また,規制,知的財産,国際取引との関係についても詳細です。また,[10]は,学部生向けとされていますが,内容的には高度で,練習問題が付されていることも特徴です。
[9]岸井大太郎ほか『経済法-独占禁止法と競争政策[第8版補訂]』(有斐閣アルマ・2019年)
  [10]泉水文雄・土佐和生・宮井雅明・林秀弥『リーガルクエスト 経済法[第2版]』(有斐閣・2015年)
○法学教室の連載を基にした次の単著は,「入門」と銘打ってはいるものの,判例・審決だけでなく,公正取引委員会の公表事例や各種ガイドラインにも言及し,先端的な課題も盛り込んだ内容になっています。元々,法科大学院における授業を基礎としており,内容は高度です。
 [11]泉水文雄『経済法入門』(有斐閣・2018年)
○研究者による最近の入門書として,ほかに次があります。
 [12]宮井雅明編著『経済法への誘い』(八千代出版・2016年)
 [13]鈴木加人ほか共著『TXT経済法』(法律文化社・2016年)
○実務家が執筆した入門書として,最近,次が刊行されました。[14]は,公正取引委員会職員が公正取引委員会の運用実務を解説した入門書であり,[24]の基礎編ともいえます。[15]も,公正取引委員会職員(元弁護士)による実務家向けの入門書です。
 [14]菅久修一編著『はじめて学ぶ独占禁止法[第2版]』(商事法務・2019年)
 [15]酒井紀子『独占禁止法入門 基礎知識の修得から実務での活用まで』(民事法研究会・2016年)

【判例集】
○独占禁止法違反事件の排除措置命令・審決・判決については,[16]が最新であり,必携です。関係事件の概要をつかんでください。なお,最新事例については,『重要判例解説』等で補ってください。
 [16]金井貴嗣・泉水文雄・武田邦宣編『経済法判例・審決百選[第2版]』(有斐閣・2017年)
*もちろん,排除措置命令・審決・判例のオリジナルを読んでみることも重要です。公正取引委員会のサイト(後掲)で随時,新しい排除措置命令等が公表されるほか,毎年度『公正取引委員会審決集』(後掲)が編纂されています。
○ジュリスト増刊の「実務に効く」が出ています。判決や公正取引委員会の排除措置命令・審決だけでなく,警告事案や相談事例等を含めて,独占禁止法上の違反行為類型とは異なる分類により,実務的な解説を加えており,実務家には必須のものと思われます。法科大学院学生向けとは必ずしも言えませんが,応用的な学習や将来の実務を見据えた学習をしたい受講者に薦めます。
 [17]泉水文雄・長澤哲也編『実務に効く公正取引審決判例精選』(有斐閣・2014年)

【体系書】
○法科大学院の教科書的な体系書として,次のものが挙げられます。
・[18]は,「司法試験選択科目『経済法』のスタンダード・テキスト」と銘打った体系書です。なお,姉妹編として演習書[43]も参照。
・[19]は,最も詳しい独占禁止法の最新の体系書です。細部にまでこだわり,運用面も詳しく,コンメンタール的な要素もある実務に使える大著(本文755頁)です。
・経済法の中心をなす独占禁止法の体系書としては,[20]が標準的です。共著者(日本経済法学会の理事長経験者)の考え方ではなく,現在の通説とされる見解や判例を丹念に紹介した労作です。
・[21]は,実体法について米国反トラスト法を,手続法についてEU法をモデルとし,ケースブック的な要素を取り入れて,判決及び審判審決を中心に解説した最新版です。
 [18]金井貴嗣・川濵昇・泉水文雄編著『独占禁止法[第6版]』(弘文堂・2018年)
 [19]白石忠志『独占禁止法〔第3版〕』(有斐閣・2016年)
 [20]根岸哲・舟田正之『独占禁止法概説[第5版]』(有斐閣・2015年)
 [21]村上政博『独占禁止法[第8版]』(弘文堂・2017年)

【その他の概説書】
○独占禁止法の概説書として,上記以外に次のようなものがあります。
・[23]は,公正取引委員会勤務経験のある大学教員の共著であり,事例の紹介に重点を置いた解説書です。
・[24]は,「現在の公正取引委員会と裁判所での独占禁止法の実際の運用と考え方」に絞って,公正取引委員会の職員(元職員を含む。)が解説しており,実務家から有用と評価されています。
・[25]は,具体的な事例やガイドライン等を詳細に解説することにより,テキストと判例百選を合体させたような最新の概説書です。
・[26]は,公正取引委員会委員を経験した元検察官が法曹向けに執筆した標準的な概説書であり,実務的かつ最新です(流通・取引慣行ガイドラインの改正を織り込んでいます)。
 [22]久保成史・田中裕明『独占禁止法講義〔第3版〕』(中央経済社・2014年)
[23]波光巌・栗田誠編『解説独占禁止法』(青林書院・2015年)
 [24]菅久修一編著『独占禁止法〔第3版〕』(商事法務・2018年)
 [25]鈴木孝之・河谷清文『事例で学ぶ独占禁止法』(有斐閣・2017年)
 [26]幕田英雄『公取委実務から考える独占禁止法』(商事法務・2017年)

【エンフォースメント】
○独占禁止法は,エンフォースメント(法実現の仕組み)において先進的な面を持っています。
・[27]は,独占禁止法の手続・エンフォースメント全般について,民事救済,刑事制裁を含めて幅広く扱った画期的なものであり,詳しく学ぶには有益ですが,古くなりました。
・[28]は,弁護士の立場から,平成17年改正後の手続に関する実務上の課題に重点を置いて詳細に解説したものであり,実務には不可欠ですが,早期の改訂が待たれます。
・[29]は,平成25年改正後の審査・意見聴取手続・抗告訴訟をはじめとする独占禁止法の手続を実務家向けに詳細に解説したものです。
・[30]は,公正取引委員会の審査実務に批判的な実務家がその実態や改善策を詳細に解説した実務書です。
 [27]丹宗暁信・岸井大太郎編『独占禁止手続法』(有斐閣・2002年)
 [28]白石忠志監修・西村ときわ法律事務所/長島・大野・常松法律事務所編『独占禁止法の争訟実務―違反被疑事件への対応』(商事法務・2006年)
 [29]村上政博・栗田誠・矢吹公敏・向宣明編『独占禁止法の手続と実務』(中央経済社・2015年)
 [30]榊原美紀ほか『詳説 独占禁止法審査手続』(弘文堂・2016年)
 [31]森・濱田松本法律事務所編『独禁法訴訟』(中央経済社・2017年)
[32]向宣明・中野雄介・宇都宮秀樹編集代表『独占禁止法と損害賠償・差止請求』(中央経済社・2018年)
・なお,個別には挙げませんが,独占禁止法の改正の度に,公正取引委員会の立案担当者による解説が商事法務から刊行されており,改正の背景や経緯,改正内容,立案担当者の解釈を知る上で有用です。

【研究的実務書】
○実務家が執筆している解説書で,理論的にも有用なものを挙げてみます。
・[33]は,公正取引委員会の審判官(執筆時。元弁護士)が審判における主張・立証について,不当な取引制限と私的独占を中心に詳細に論じた実務的研究書です。
・[34]は,カルテル規制に限定して,平成21年改正を含めて実体面と手続面を詳細に解説した実務書です。同じ著者(元公正取引委員会事務総長)による[35]は企業結合,[36]は渉外的要素を有する独占禁止法事案,[37]は私的独占に関する詳細な実務書です。
・[38]は,検察官出身の元公正取引委員会委員による独占禁止法の分析であり,刑事的執行の記述が詳細です。
・[39][42]は,公正取引委員会の担当者による企業結合ガイドラインと流通・取引慣行ガイドラインの解説書です。
・[40]は,公正取引委員会職員が企業法務・法曹関係者向けに独占禁止法の重要な論点を解説したものであり(商事法務連載),冒頭に事例を設けて,詳細な解説と解答が示されています。
・[41]は,実務上極めて重要な優越的地位の濫用及び下請法に関する詳細な研究的実務書です。
 [33]酒井紀子『独占禁止法の審判手続と主張立証』(民事法研究会・2007年)
 [34]上杉秋則『カルテル規制の理論と実務』(商事法務・2009年)
 [35]上杉秋則・伊藤多嘉彦・山田香織『独禁法によるM&A規制の理論と実務』(商事法務・2010年)
 [36]上杉秋則『独禁法国際実務ガイドブック―グローバル経済下の基礎知識』(商事法務・2012年)
 [37]上杉秋則『独禁法による独占行為規制の理論と実務』(商事法務・2013年)
 [38]神垣清水『競争政策概論』(立花書房・2012年)
 [39]田辺治・深町正徳編著『企業結合ガイドライン』(商事法務・2014年)
 [40]山崎恒・幕田英雄『論点解説 実務独占禁止法』(商事法務・2017年)
 [41]長澤哲也『優越的地位濫用規制と下請法の解説と分析〔第3版〕』(商事法務・2018年)
  [42]佐久間正哉『流通・取引慣行ガイドライン』(商事法務・2018年))

【ケースブック・演習書等】
○[18]の姉妹編として,判例,審決,警告,事前相談等の重要な事例を取り上げたケースブックが発行されており,自習用に利用できます。
 [43]金井貴嗣・川濵昇・泉水文雄編『ケースブック独占禁止法〔第4版〕』(弘文堂・2019年)
○[44]は,「法学教室」の連載に加筆して編集された『独禁法事例の勘所〔第2版〕』(有斐閣・2010年)のコンセプトを引き継ぎつつ,白石『独占禁止法』要件論に基づき,個別事件を丹念に(古い事件も現代的観点から)分析した一種の事典です。事案の概要を一通り学習してから,深く考えるための副読本として有用です。
[44]白石忠志『独禁法事例集』(有斐閣・2017年)
○これまで資格試験の科目ではなかった経済法(独占禁止法)の演習書が漸く出てきました。
・[45]は,内容的には学部レベルから法科大学院基礎レベルまで混在しています。
・[46]は,実務家が執筆に加わった事例分析による演習書であり,様々な学習上の工夫がみられます。
・[47]は,重要論点を自ら考えるための事例(司法試験問題を含む。)による演習書です。
[45]土田和博・岡田外司博編『演習ノート経済法[第2版]』(法学書院・2014年)
[46]大久保直樹・伊永大輔・滝澤紗矢子編著『ケーススタディ経済法』(有斐閣・2015年)
[47]川濵昇・武田邦宣・和久井理子編著『論点解析 経済法〔第2版〕』(商事法務・2016年)
○[48]は,公正取引委員会勤務経験を有する実務家による実務家向けの解説書(Business Law Journal連載を単行本化したもの)ですが,事例演習的な記述になっており,高度な演習書としての利用が可能です(ただし,水平的制限行為や企業結合は含まれていません)。
 [48]白石忠志監修・池田毅・籔内俊輔・内田清人編著『ビジネスを促進する 独禁法の道標』(レクシスネクシス・ジャパン・2015年)
○司法試験「経済法」の過去問の解説・解答例は,別冊法学セミナー「司法試験の問題と解説」各年 版等のほか,平成27年までの10回分を一人で分析・解説した次が出ています。
 [49]村上政博『独占禁止法における事例分析―司法試験経済法過去問の検討と評価』(中央経済社・2016年)
○予備校本も,一応,挙げておきます。
 [50]伊藤塾『経済法(伊藤真実務法律基礎講座6)』(弘文堂・2013年)
 [51]辰巳法律研究所『司法試験論文対策 これ一冊で経済法』(辰巳法律研究所・2015年)
【法と経済学による事例分析】
○経済学をツールにして違反事件を分析した[52]~[54]は,違反行為の経済的意味合いを考える上で有用です。
[52]岡田羊祐・林秀弥編『独占禁止法の経済学―審判決の事例分析』(東京大学出版会・2009年)
[53]岡田羊祐・川濵昇・林秀弥編『独禁法審判決の法と経済学 事例で読み解く日本の競争政策』(東京大学出版会・2017年)
 [54]小田切宏之『競争政策論 独占禁止法事例とともに学ぶ産業組織論[第2版]』(日本評論社・2017年)

【コンメンタール・講座】
○特定のテーマや独占禁止法の逐条解説を詳しく調べるには,次が便利です(ただし,[55]~[57]は古くなりました。)。
・[58]は,日本経済法学会創立50周年を記念して編集された,各分野の中堅研究者が標準的な立場から特定の課題について詳述した論文集であり,文献の引用も豊富で,深く学ぶには必読です。
・[59]は,研究者が執筆している詳細な注釈書ですが,平成21年改正については補遺として解説されています。
・[60]は,平成25年改正法を逸早く解説した論点中心のコンメンタールであり(平成25年改正が施行前に出版されており,旧法の解説も含んでいる。),多数の実務家が執筆しています。
・[61]は,村上政博教授が実体規定の多くを執筆し,それ以外の部分を4大法律事務所の実務家が執筆している平成25年改正を受けた逐条解説であり,前注も詳しく,実務に有用です。
 [55]経済法学会編『独占禁止法講座 Ⅰ~Ⅶ巻』(商事法務研究会・1974~1989年)
 [56]『現代経済法講座 全10巻』(三省堂・1990~1993年)
 [57]厚谷襄児ほか編『条解独占禁止法』(弘文堂・1997年)
 [58]日本経済法学会編『経済法講座(全3巻)』(三省堂・2002年)
 [59]根岸哲編『注釈独占禁止法』(有斐閣・2009年)
 [60]白石忠志・多田敏明編著『論点体系 独占禁止法』(第一法規・2014年)
 [61]村上政博編集代表『条解独占禁止法』(弘文堂・2014年)

【学会年報】
○年1回秋の学会開催時期に先立って刊行される次の年報は,
研究者には必読です。各年の特集(学会でのシンポジウム
のテーマ)は右のとおりです。
[62]日本経済法学会編『日本経済法学会年報』(有斐閣・各年)


【研究書】
○最近出版された研究書をいくつか挙げておきます。
 [63]厚谷襄児先生古稀記念『競争法の現代的諸相(上)(下)』(信山社・2005年)
 [64]土田和博・須網隆夫編著『政府規制と経済法―規制改革時代の独禁法と事業法』(日本評論社・2006年)
 [65]稗貫俊文『市場・知的財産・競争法』(有斐閣・2007年)
 [66]根岸哲・川濵昇・泉水文雄編『ネットワーク市場における技術と競争のインターフェイス』(有斐閣・2007年)
 [67]川濵昇・泉水文雄ほか『企業結合ガイドラインの解説と分析』(商事法務・2008年)
  [68]滝澤紗矢子『競争機会の確保をめぐる法構造』(有斐閣・2009年)
 [69]舟田正之『不公正な取引方法』(有斐閣・2009年)
 [70]和久井理子『技術標準をめぐる法システム―企業間協力と競争,独禁法と特許法の交錯』(商事法務・2010年)
 [71]林秀弥『企業結合規制―独占禁止法による競争評価の理論』(商事法務・2011年)
 [72]土田和博・岡田外司博編『独占禁止法の国際的執行:グローバル時代の域外適用のあり方』(日本評論社・2012年)
 [73]越知保見『独禁法事件・経済犯罪の立証と手続的保障』(成文堂・2013年)
 [74]村上政博『独占禁止法の新展開』(判例タイムズ社・2011年)
[75]村上政博『国際標準の競争法へ―独占禁止法の最前線』(弘文堂・2013年)
 [76]石川正先生古稀記念『経済社会と法の役割』(商事法務・2013年)
 [77]根岸哲先生古稀祝賀『競争法の理論と課題―独占禁止法・知的財産法の最前線』(有斐閣・2013年)
 [78]舟田正之編『電力改革と独占禁止法・競争政策』(有斐閣・2014年)
 [79]平林英勝『独占禁止法の歴史(上)(下)』(信山社・2012年/2016年)
 [80]滝川敏明『実務 知的財産権と独禁法・海外競争法』(法律文化社・2017年)
 [81]舟田正之先生古稀記念『経済法の現代的課題』(有斐閣・2017年)
 [82]舟田正之・土田和博編著『独占禁止法とフェアコノミー―公正な経済を支える経済法秩序のあり方』(日本評論社・2017年)
[83]岸井大太郎『公的規制と独占禁止法――公益事業の経済法研究』(商事法務・2017年)
[84]早川雄一郎『競争者排除型行為規制の目的と構造』(商事法務・2018年)
[85]長尾愛女『フランス競争法における濫用規制 その構造と展開』(日本評論社・2018年)
[86]上杉秋則・山田香織編著『独禁法のフロンティア―我が国が抱える実務上の課題』(商事法務・2019年)
[87]村上政博『独占禁止法の新たな地平―国際標準の競争法制へ』(弘文堂・2019年)
[88]岩本諭『競争法における「脆弱な消費者」の法理』(成文堂・2019年)
【外国競争法】
○外国競争法(特に米国反トラスト法,EU競争法)は,日本法の解釈運用や改正に当たっても頻繁に参照されます。ただし,競争法分野では,新しい事案・判決が日々出ており,最新事情を知るには一次資料に当たるほかありません。なお,公正取引委員会のサイトに各国競争当局等のサイトへのリンクがあります。
○ [89]は,日米欧を比較しており,また,[90]は,絶版になっていた名著の改訂版であり,日本法の記述も追加されました。
 [89]滝川敏明『日米EUの独禁法と競争政策〔第4版〕』(青林書院・2010年)
 [90]松下満雄・渡邉泰秀編『アメリカ独占禁止法[第2版]』(東京大学出版会・2012年)
 [91]村上政博『EC競争法[EC独占禁止法][第2版]』(弘文堂・2001年)
○欧米競争法に関する実務家による解説が相次いで出版されました。[96]は,若手実務家による米国・EUの事例研究です。
 [92]井上朗『EU競争法の手続と実務』(民事法研究会・2009年)
 [93]渡邊肇『米国反トラスト法執行の実務と対策』(商事法務・2009年)
 [94]経営法友会・法務ガイドブック等作成委員会編『欧米競争法ガイドブック』(商事法務・2009年)
 [95]宮川裕光『米国・EU・中国 競争法比較ガイドブック』(中央経済社・2010年)
 [96]白石忠志・中野雄介編『判例 米国・EU競争法』(商事法務・2011年)
  [97]笠原宏『EU競争法』(信山社・2016年)
 [98]植村幸也『米国反トラスト法実務講座』(公正取引協会・2017年)
○11年前に施行されたばかりの中国独占禁止法は,当初,企業結合規制を中心に世界中の関心を集めていましたが,近年はカルテルや支配的地位の濫用でも海外企業の積極的な規制を始めており,米国,EUに次ぐ第三の競争法としての地位を固めつつあります。
 [99]中川裕茂編著『法務の疑問に答える中国独禁法Q&A』(レクシスネクシス・ジャパン・2011年)
○主要国・地域の競争法文献は基本的に英語です。手頃な英語文献を2つ挙げておきます。[100]の著者は,最近まで米国第7巡回区控訴裁判所判事でしたが,長年,シカゴ・ロースクールの講師を務める「法の経済分析(Economic Analysis of Laws)」の第一人者です。
 [100] Richard Posner, Antitrust Law, 2nd Ed., University of Chicago Press, 2001.
 [101] Herbert Hovenkamp, The Antitrust Enterprise, Harvard University Press, 2005(その邦訳として,荒井弘毅・大久保直樹・中川晶比兒・馬場文訳『米国競争政策の展望-実務上の問題点と改革の手引き-』(商事法務・2010年)
・なお,英語で日本の独占禁止法を説明する際には,公正取引委員会HPのEnglishページを参照するほか,次が最新です(Amazonで入手できます)。
[102] Masako Wakui, Antimonopoly Law—Competition Law and Policy in Japan, independently published, 2018

【競争政策】
○競争政策の在り方や制度設計を巡る経済学者と法律学者による研究として,少し古くなりましたが,[103]が必読です。政府と企業との相互関係を様々な視点から幅広く論じたものとして,これも少し古くなりましたが,[104]が重要です。
 [103]後藤晃・鈴村興太郎編『日本の競争政策』(東京大学出版会・1999年)
 [104]『岩波講座 現代の法 8 政府と企業』(岩波書店・1997年)
○公正取引委員会委員を退任された後藤晃教授が独占禁止法を経済学者の視点から分かりやすく解説した[105]は,独占禁止法の経済学的基礎を理解する上で最適です。同じ著者による[106]は,イノベーションに焦点を合わせた続編です。
 [105]後藤晃『独占禁止法と日本経済』(NTT出版・2013年)
 [106]後藤晃『イノベーション―活性化のための方策』(東洋経済・2016年)
○イノベーションに関わる競争法問題を理論面・実務面から詳細に解説する[107]は,我が国におけるこの分野の先駆者であり,公正取引委員会委員を務めた著者の最新書です。
 [107]小田切宏之『イノベーション時代の競争政策―研究・特許・プラットフォームの法と経済』(有斐閣・2016年)
[108] 岡田羊祐『イノベーションと技術変化の経済学』(日本評論社・2019年)
【行政法・行政学】
○行政法学の最新理論から独占禁止法の執行を考える上で,[109]が有益です。また,競争政策が推進される(あるいは,制約される)行政過程を理解するには,日本型行政システムの特徴を描いた[110]が,古くなりましたが,現在でも有益です。
 [109]大橋洋一『行政法1-現代行政過程論[第4版]』(有斐閣・2019年)
 [110]新藤宗幸『講義 現代日本の行政』(東京大学出版会・2001年)
○「法の実現」という視角から法の在り方を探る[111]には,独占禁止法のエンフォースメントを考える上での重要な示唆が含まれています。
 [111]『岩波講座 現代法の動態 2 法の実現手法』(岩波書店・2014年)

【ミクロ経済学・産業組織論】
○競争法や規制法の基礎となるミクロ経済学については,次のものが有用です。
 [112]長岡貞男・平尾由紀子『産業組織の経済学 基礎と応用[第2版]』(日本評論社・2013年)
 [113]矢野誠『ミクロ経済学の応用』(岩波書店・2001年)
 [114]八田達夫『ミクロ経済学Ⅰ 市場の失敗と政府の失敗への対策』(東洋経済・2008年)
 [115]小田切宏之『企業経済学[第2版]』(東洋経済・2010年)
[116]井手秀樹・鳥居昭夫・竹中康治『入門・産業組織』(有斐閣・2010年)
○企業の競争行動を巡る経済分析として,次のものが役立ちます。特に[117],[118]は平易ですし,[119],[120]は初学者向けです。[123]は,経営コンサルタントと産業組織論・ゲーム理論研究者の合作です。[124]から[126]は企業行動経済学に関する最新の概説書です。
 [117]伊藤元重『ビジネス・エコノミクス』(日本経済新聞社・2004年)
 [118]伊藤元重『伊藤元重のマーケティング・エコノミクス』(日本経済新聞社・2006年)
 [119]浅羽茂『経営戦略の経済学』(日本評論社・2004年)
 [120]]浅羽茂『企業の経済学』(日経文庫・2008年)
 [121]柳川隆・町野和夫・吉野一郎「ミクロ経済学・入門―ビジネスと政策を読みとく[新版]」(有斐閣アルマ・2015年)
 [122]泉田成美・柳川隆『プラクティカル産業組織論』(有斐閣・2008年)
[123]御立尚資・柳川範之『ビジネスゲームセオリー経営戦略をゲーム理論で考える』(日本評論社・2014年)
[124]丸山雅祥『経営の経済学〔第3版〕』(有斐閣・2017年)
[125]花薗誠『産業組織とビジネスの経済学 企業の行動原理を経済学で考える』(有斐閣・2018年)
[126]大林厚臣『ビジネス経済学』(ダイヤモンド社・2019年)
○[127]は,経済学者と法学者の共同作業により,企業が用いる競争戦略を通して産業組織論・競争政策の内容を解説するテキストです。また,法社会学者による[128]は,意思決定と法に関わる様々なトピックスを取り上げた好著です。
 [127]柳川隆・川濵昇編『競争の戦略と政策』(有斐閣ブックス・2006年)
 [128]飯田高『法と社会科学をつなぐ』(有斐閣・2016年)

2 情報検索
【公正取引委員会の資料等】
○独占禁止法の条文だけを読んでも実際の規制内容は分かりません。公正取引委員会が公表している各種のガイドラインの理解が不可欠です。後記の公正取引委員会のウェブサイトで参照してください。執務用に編集された法令集(ガイドラインも収録されている。)が市販されています。
 ・公正取引委員会事務総局編『独占禁止法関係法令集(平成27年版)』(公正取引協会・2015年)
 ・公正取引委員会事務総局編『独占禁止法関係法令集(令和元年版コンパクト版)』(公正取引協会・2019年)
○公正取引委員会の活動を中心とした競争政策50年の歩みの記録として,次が出版されています。
 ・公正取引委員会事務総局編『独占禁止政策五十年史』(公正取引協会・1997年)
○公正取引委員会のウェブサイトは,次のとおりです。各種のガイドラインや公表資料,外国の競争法の概要(外国競争当局等へのリンクを含む。),審決や関係する判決のデータベースが載っています。特に,公正取引委員会が公表する最新情報や資料を収集する上では不可欠です。
 http://www.jftc.go.jp/
○公正取引委員会の審決・排除措置命令やその活動状況は,次に収録・公表されています。なお,『審決集』には,関連する民事・刑事の判決等も(網羅的ではありませんが)収録されています。
 ・『公正取引委員会審決集』(各年度)
 ・『公正取引委員会年次報告』(各年度)
○審決・排除措置命令や関係判決は,公正取引委員会のウェブサイトの「審決等データベース」で検索できます。LEX/DBの「公正取引委員会審決検索」も便利です。
○公正取引委員会のウェブサイトにある次の資料は,法的措置が採られることが極めて少ない行為類型に関する実務を知る上では不可欠の素材です。公正取引委員会の相談事例は,「経済法」の試験問題の恰好の素材となっています。
 ・「相談事例集」
 ・「企業結合公表事例」
○「公正取引」(月刊,公正取引協会)には,独占禁止法・競争政策に関する専門誌として,公正取引委員会の活動の紹介や関係の論文が掲載されています。特に,違反事件の審決や排除措置命令の担当官による解説は,実務上も研究上も重要な意味を持っています。
○ジュリストが月刊になってからも,独占禁止法関係の特集がしばしばあります(2012年6月号「優越的地位の濫用」,2013年3月号「企業結合規制」,2014年1月号「国際カルテル規制の最前線」,2014年5月号「独占禁止法改正と今後の展望」,2015年4月号「独占禁止法審査手続の論点」,2015年11月号「独禁ガイドラインの最新動向」,2017年7月号「プラットフォームと競争法」,2017年9月号「課徴金制度改革のゆくえ」,2018年9月号「人材獲得競争と法」)。また,毎号「独禁法事例速報」や「経済法判例研究」が掲載されています。
○ジュリスト以外の法律雑誌における最近の独占禁止法特集として,次のものがあります。
 ・「経済法の基礎」法学教室377号(2012年2月)
 ・「特集1 独禁法の最前線」自由と正義66巻12号(2015年12月)
 ・「特集 独占禁止法の現代的課題」法律時報89巻1号(2017年1月)
 ・「特集 事例からつかむ経済法の基礎」法学教室437号(2017年2月)
 ・「小特集 デジタルプラットフォームと独占禁止法」法律時報91巻3号(2019年3月)
○NBL等にも独占禁止法関係の論文や評釈が掲載されることがありますし,「Business Law Journal」や「ビジネス法務」にも,実務的な解説が頻繁に掲載されています。主な連載記事として,次のものがあります。
 ・「企業法務 独禁法事例コレクション」ジュリスト1462号(2014年1月号)~1474号(同年12月号)連載
・「平成25年改正でこう変わる! 独禁法実務の新ポイント」ビジネス法務2014年7月号~12月号連載
・「トラブルを解決する 独禁法の道標2」Business Law Journal 2015年12月号~2017年2月号連載
・「コンプラが充実する 独禁法の道標3」Business Law Journal 2017年3月号~2018年5月号連載
・「掛け算で理解する 独禁法の道標4」Business Law Journal 2018年6月号から連載中)

令和元年10月28日栗田会長のコラム「韓国及び中国の競争法コミュニティの勢い」

(2019.10.25第32回事例研究部会冒頭 会長挨拶)
韓国及び中国の競争法コミュニティの勢い
競争法研究協会
会長 栗 田 誠

1 今回の事例研究部会では,紋谷崇俊弁護士にデータ保護法制についてご講演を賜り,理解を深めます。私からは,先週末(10月19日)に韓国・ソウルの延世大学で開催されました「アジア競争協会(Asia Competition Association: ACA)」の年次会合に参加してまいりましたので,韓国・中国の競争法についていくつか紹介や感想を申し上げることで冒頭のご挨拶といたします。

2 ACAは,今から11年前にソウルで開催された競争法の国際カンファレンスを機に,韓国・中国・日本の研究者・実務家が東アジア地域の競争法の発展と収斂を目指して設立した団体です。日本には独占禁止法弁護士を中心とした「競争法フォーラム」という実務家組織がありますが,競争法フォーラムがACAの団体メンバーになっています。ACAでは,年1回3か国の持ち回りで,大学施設等を利用して年次会合を開催しています。今回,日本からの参加者は10名に達しませんでしたが,韓国からは多くの研究者や実務家が,ACAのメンバーではない方も含めて出席しており,また,中国からは約30名が参加しました。日本からの参加者はかなり固定的ですが,韓国や中国からは新しいメンバー,若い参加者も多く,いずれも大変流暢な英語で,内容的にも大変優れた報告やコメントを発表しています。また,両国とも,女性の参加者が多いことも指摘できます。
  今回主催の韓国サイドでは,韓国公正取引委員会(KFTC)から,この9月に就任されたばかりの委員長(女性)が開会の挨拶をされ,常任委員が法執行状況を報告されるなど,毎回ACAに大変力を入れています。中国で開催されるときも同様で,毎回,競争当局のトップないしは準ずる幹部が出席されています。来年は日本で年次会合を開催する番であり,今後,その準備を進めることになります。

3 韓国では,相変わらずKFTCが活発な法執行活動を行っており,それに対しては行政訴訟も多数提起され,解釈が具体化・明確化されています。特にKFTCは「独占規制及び公正取引法」という基本となる競争法以外に多数の特別法や消費者法を所管していることもあり,全体で毎年3000件以上の様々な事件を処理しており,2018年には排除措置命令277件,課徴金納付命令181件と,日本の公正取引委員会(JFTC)とは正に桁違いの多さです。このため,民事訴訟その他の手段による当事者間の解決を促すための方策が検討されています。
  今回の年次会合での大きな関心はデジタル時代の競争法ということでしたが,韓国では企業結合ガイドラインが改訂済みであり(日本では現在意見募集中),国内売上高だけでなく,当該企業結合の取引額を指標に事前届出の基準を設定するための改正法案も国会に提出済みです。

4 中国では,かつての競争当局が鼎立し法執行を分担する体制から,(旧)国家工商管理総局を母体とする国家市場監督管理総局(SAMR)による一元化した体制に移行しました。また,省や直轄市にはそれぞれの市場監督管理局(AMR)が設けられており,先進的な省・直轄市では競い合って独占禁止法の運用を強化している状況にあります。この9月から新しい3つの暫定規則(独占合意,市場支配的地位濫用,行政独占)が発効して運用態勢が固まってきています。支配的地位濫用規則には,シェアの計算方法,支配的地位認定の考慮事項等に関して,デジタル経済に対応した内容も盛り込まれています。なお,中国独占禁止法の最新動向については,来月の月例研究会において川島富士雄教授からご報告をいただく予定です。

5 実体面について,いくつか議論を紹介しますと,企業結合規制に関しては,企業結合の事前届出を怠ったまま統合手続を進めたり,当事会社間で情報交換をしてしまったりするという,いわゆるガン・ジャンピングが大きな議論となりました。日本では法的措置に至った事例はありませんが,韓国や中国では多数の事例があり,制裁措置が発動されています。
  排除行為その他の単独行為に関しては,私的独占(日本)又は支配的地位濫用(韓国)の他に不公正な取引方法の規定を有する日韓と,そうした規定を持たず支配的地位濫用のみの中国という法制上の違いがあります。ただし,中国には反不正当競争法(日本の不正競争防止法に相当)があり,行政的に執行されており,同法改正の際に「相対的優位の濫用」の禁止規定を設けるべきという議論もありました(採用されず)。また,運用面でも,日本では,不公正な取引方法の法的措置は年に1~2件にすぎませんが,韓国では,審査件数が200件以上に上り,排除措置命令や課徴金納付命令が出る事件が10件以上あるようです。韓国では,審査中の問題行為を迅速に停止させるための「暫定命令」制度も検討されているようです。

6 私は,手続に関するセッションで報告しましたが,3か国とも執行手続に問題を抱えています。韓国では,Qualcomm事件の審査手続を巡って,米国から米韓自由貿易協定の競争章の規定に基づく正式な協議要請を受けています。中国独占禁止法の手続に関しては,以前から米国商業会議所などが厳しい批判を加えてきており,米国競争当局も度々問題を提起してきています。今回,私の報告では,日本の公正取引委員会の手続について,不十分な透明性,特に排除措置命令書に競争効果に関する記述がないこと,法的措置ではなく,自発的改善措置による審査終了,実態調査を基にした改善指導その他の非公式措置に過度に依存していることの問題点を指摘しました。
  競争当局の手続的公正と透明性の確保に関しては,以前にも紹介しましたICNのCAP(競争当局の手続に関する枠組)が発効し,その実施メカニズム(手続問題に関する当局間協議)が注目されます。また,OECDでは,競争法の手続に関する理事会勧告の採択に向けて米国が積極的に動いています。現行独占禁止法の行政的執行手続は日本の普通の行政法の枠組(「行政手続法」や「行政事件訴訟法」)に沿ったものですが,国際標準の競争法執行手続は競争法の特性や機能,違反に対する措置等を反映した特有のものになっていると思います。今後,2013年改正による審判廃止後の現行手続,2015年改正で導入された確約手続,さらに,今後公正取引委員会規則により導入される限定的な弁護士・依頼者間秘匿特権の仕組みなどがあらためて評価されることになると考えています。

7 今回ACAの年次会合に出席して,あらためて韓国や中国の「競争法コミュニティ」の勢いを感じました。韓国の公正取引法は40年弱,中国の独占禁止法は10年余りの歴史であるのに対して,日本の独占禁止法には70年以上の歴史がありますが,先行者の優位性はとうに失われているようです。明日は「日本経済法学会」の年次大会が東洋大学で開催されますが,研究者中心の,欧米の動きにばかり目を向ける時代は終わったと思います。広い視野に立ち,理論と実務を繋ぎ,また,企業のニーズにも応えられるような競争法研究協会でありたいと考えています。

令和元年9月9日栗田会長のコラム「デジタル・プラットフォーマーによる個人情報の取得・利用に係る優越的地位濫用規制」

(2019.9.6 第270回月例研究会 冒頭の栗田会長挨拶)
「デジタル・プラットフォーマーによる個人情報の取得・利用に係る優越的地位濫用規制」

はじめに

 公取委は8月29日,「デジタル・プラットフォーマーと個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方(案)」に対する意見募集を行った。6月21日に閣議決定された「成長戦略フォローアップ」において,「優越的地位の濫用規制をデジタル・プラットフォーム企業による対消費者取引に適用する際の考え方の整理を2019年夏までに行い,執行可能な体制を整備する」とされており,その実施に向けたステップである。以下では,この「考え方」の実体的な内容ではなく,デジタル・プラットフォーマー(以下「DP」という)による個人情報の取得・利用に対して優越的地位濫用規制を適用するという公取委の新たな方針が独占禁止法と他の法令との関係,あるいは公取委と他の行政機関との関係において有する意味合いを考えてみたい。

消費者取引に対する優越的地位濫用規制の適用

 不公正な取引方法の一類型としての優越的地位濫用に関する独占禁止法2条9項5号の規定においては,単に「相手方」,「継続して取引する相手方」ないしは「取引の相手方」の文言が用いられており,優越的地位濫用規制の対象が事業者取引に限定されるものではなく,消費者取引を含むものであることは学説上指摘されてきた。しかし,公取委実務においては,優越的地位濫用ガイドラインでは「取引の相手方」が事業者であることを前提にした記述となっており,また,消費者取引について優越的地位濫用規制が適用されたことは(少なくとも法適用事例としては)なかった。

 今回の「考え方」は,DPによる個人情報の取得・利用という特殊な問題を対象とするものであるが,消費者の特性や事業者との格差を背景にして消費者が取引先事業者に対して定型的に劣位に立ち,不利益を受けやすい類型の取引は様々に存在する(「消費者法」の概説書を参照)。優越的地位濫用規制は,こうした多様な消費者取引に対して幅広く適用できる可能性を秘めている。従来,こうした消費者取引については,「消費者法」による民事的規律(消費者契約法,特定商取引法等),限定的な行政的規律(特定商取引法等),例外的な刑事的規律が行われてきており,近年の発展には著しいものがあるとはいえ,万全ではない。ここに独占禁止法による優越的地位濫用規制というオプションが加わることになり,限定のない一般的な管轄,強力な審査体制と調査権限,そして課徴金賦課という制裁権限を有する公取委が取り組むこと,また,被害者による差止請求の対象になることの意味は大きい。

 ただし,実際に公取委が消費者取引における優越的地位濫用規制に本格的に取り組むこととなるのかは不明である。2009年の消費者庁の創設に伴い,公取委は景品表示法の施行権限を失い,消費者取引課はなくなり,公取委は消費者政策のメイン・プレーヤーではなくなった。今回の問題を契機に,公取委が消費者取引に対する独占禁止法規制に積極的に乗り出し,消費者の支持を得ることができるのか,注目される。

個人情報保護と競争法

 本年2月7日にドイツ連邦カルテル庁がフェイスブックの個人情報の収集・利用が競争制限禁止法上の支配的地位の濫用(搾取的濫用)に当たるとして禁止決定を行ったことは記憶に新しい(フェイスブックは決定を争っており,8月末には裁判所から決定の執行停止を得ている)。この禁止決定に対しては,世界中で様々な見解(厳しい批判を含め)が示されており,日本でも既に多くの論考が発表されている。

 折しも,米国連邦取引委員会(FTC)及びニューヨーク州司法長官が9月4日,グーグル及びその傘下のユーチューブとの間で,ユーチューブによる保護者の同意なしの子供の個人情報の取得とターゲティング広告における利用が「子供のオンライン・プライバシー保護法(Children’s Online Privacy Protection Act)」に基づくFTC規則に違反する疑いについて,是正措置を採るとともに総額1.7億ドルの民事制裁金を支払うことで和解した。
 米国でも,グーグルやフェイスブック等のDPに対する反トラスト調査が連邦競争当局(司法省,FTC),州司法当局,連邦議会の所管委員会等で行われているが,個人情報の問題についてはFTCが専ら消費者保護規制権限を用いて取り組んでいる。FTCは様々な消費者保護法(法律に基づくFTC規則を含む)を所管し,そうした法令違反はFTC法5条違反(不公正な又は欺瞞的な行為)とみなされ,FTCはFTC法に定められた権限を活用して広範な消費者問題に取り組むことができる。そのための最強の手段が連邦地方裁判所に違反行為の差止とともに必要な救済措置(不法利益の剥奪など)を請求する方法であり,前述のユーチューブに対する措置もこの権限による。

 公取委は個人情報の問題に対して独占禁止法の究極の一般条項ともいえる優越的地位濫用規制を発動しようとしているが,いくら「考え方」を公表したからといって,DPにとって予測可能性が低いことは否めない(現下の「マイナビ」問題に「考え方」を当てはめた場合にどのような結論になるのであろうか)。また,独占禁止法の執行手続は大変重いものであり,迅速性に欠けることになりがちである。優越的地位濫用の違反が不公正な取引方法の中では唯一1回目から課徴金という重大な措置につながることも,公取委とDPの双方にとって重荷となりかねない(もっとも,消費者にとって表面的には「フリー(無料)」の取引に関して実際に課徴金を賦課するためには,課徴金の計算基礎となる取引額の算定方法等について特例を定めるか,制度を抜本的に見直す必要があろう)。その意味で,「成長戦略実行計画」に明記されたように,政府が「デジタル・プラットフォーマー取引透明化法」(仮称)を2020年通常国会に提出しようとしていることは適切である。そして何よりも,この方針は霞が関の力学にも叶うものであろう。独占禁止法がDP規制の中心的機能を担うことになると,同法の運用が公取委の専権であるだけに,他省庁にとっては心穏やかではなかろう。独占禁止法の特別法である下請法が公取委と経済産業省等との共管になっていることと同様,想定されるDP取引透明化法も関係省庁の共管となり,権限と責任を分担・分有することとなり,丸く収まるのであろう。

既存の法令によっては対応できない新たな問題に対する独占禁止法の役割

 他の法令による実効的な規制が行われていない新たな問題が生じた場合に,適用対象に限定がなく,禁止行為類型も概括的・抽象的に定められている独占禁止法による取組が可能であることがあり得る。いくつか例を挙げると,1970年代に米国から輸入されたマルチ商法について,公取委は不当な利益による顧客誘引に当たるとして排除勧告を行った(ホリディ・マジック事件・勧告審決昭和50・6・13)。その後, 1976年に訪問販売法(現在の特定商取引法)が制定され,「連鎖販売取引」として規制されている。また,バブル崩壊後の株価下落の過程で生じた証券会社による損失補填については,当時の証券取引法では禁止されておらず,公取委は主要証券会社に対して不当な利益による顧客誘引に当たるとして排除勧告を行った(野村證券他事件・勧告審決平成3・12・2)。その後,証券取引法(現在の金融商品取引法)が改正されて,損失補填が明示的に禁止された。平成17年の三井住友銀行事件(勧告審決平成17・12・26)では,同行が中小融資先に金利スワップの購入を余儀なくさせたことが優越的地位濫用に当たるとされたものであるが,その後,銀行法が改正され,こうした行為が禁止されている。

 こうした個別法令が有効に機能している限り,独占禁止法が乗り出す必要は通常ないが,規制の枠外の行為,新たな行為に問題があると判断される場合に,迅速に関係法令を整備して対応することが常にできるとは限らない。独占禁止法の一般性・汎用性を活かした法適用が必要かつ有効であり,今回のDPによる個人情報の取得・利用に対する優越的地位濫用規制は新たな一例ともいえる。

 ところで,DPによる個人情報の取得・利用に係る「考え方」の公表が,それにとどまらず,具体的な違反事件審査につながるのかは不透明である。公取委のガイドラインの中には,作成・公表されたものの,その後に関係する違反事件が全く起きていないものもある(ガイドラインが有効に機能して問題行動が一切見られなかったと善解することは適切ではない。もしそうであるならば,問題ないはずの行動まで過剰に抑止されるというフォールス・ポジティブが生じていると考えられる)。

 他方,公取委は,令和2年度の概算要求においてDP関連の機構・定員要求を出している。公取委としても,実際の違反事件を手掛けたいと考えているであろう。しかし,公取委としても新規の類型に対する法適用には慎重にならざるを得ないし,調査対象のDPとしても違反認定を受けることは避けたいであろう(優越的地位濫用の事案ではないが,アマゾン・ジャパン事件〔平成29・6・1公表〕,エアビーアンドビー事件〔平成30・10・10公表〕等のDP関連事件でも自発的改善措置により審査打切りとされている)。そうなると自ずと「確約手続」の利用ということになってくる。確約の第1号事件が出てくるのもそう遠くないかもしれない。

おわりに

 2013年の就任以来,デジタル分野に対する独占禁止法の適用を唱道してこられた杉本和行公取委委員長が最近,『デジタル時代の競争政策』を上梓された。公取委の幹部がスピーチや論文等による対外発信を積極的に行うことは極めて重要である。フリーランス,スポーツ選手・芸能人等の人材分野といった新機軸だけではなく,史上最高額の課徴金が課されたアスファルト合材価格カルテル事件のような在来型の事案も含め,公取委の動きから目が離せない。

 なお,近時の公取委による独占禁止法の行政的エンフォースメントの現状と評価については,栗田誠「独禁法の行政的エンフォースメントの再評価」上杉秋則・山田香織編著『独禁法のフロンティア―我が国が抱える実務上の課題』(商事法務・2019年)第1章所収を参照していただければ幸いである。

令和元年7月29日新会長・栗田 誠の会長就任挨拶

競争法研究協会の会長に就任するに当たって

栗田 誠
 
  本年4月より競争法研究協会会長に就任いたしました。前任の矢部丈太郎会長や伊従寛名誉会長に比べて甚だ軽量級ではありますが,誠心誠意務めさせていただきますので,何卒ご指導ご鞭撻のほどお願い申し上げます。

 私も伊従名誉会長や矢部前会長と同様,公正取引委員会に勤務しておりましたが(1977年~2001年),比較的早くに学界に転じ,千葉大学を経て,昨年4月より白鴎大学法学部において教育・研究に携わっております。
 大学に移って間もなくの頃から,伊従会長(当時)からのお誘いにより,度々月例研究会等において様々なテーマについて発表する機会をいただき,大変勉強になりました。また,2000年代初めに外部資金も獲得しつつ実施されていた東アジアの競争政策プロジェクトに参画させていただいたことが私を東アジア競争法研究に導いてくれました。さらに,独占禁止法の手続に関する研究会や電力事業と独占禁止法についての集中的な勉強会にも参加させていただき,研鑽を深めることができました。このように競争法研究協会は,私にとってまたとない独占禁止法・競争法研究の場であり続けてきました。
 
 この度,思いもかけず,伊従名誉会長や鈴木啓右業務執行統轄理事からご推挙をいただき,会長職をお引き受けすることとなりました。これまでのように自身の研究の場としてではなく,会員向けのサービス提供はもとより,産業界や当局向けの啓発・提言といった活動に取り組むこととなります。何分にも不慣れなためにご迷惑をおかけすることもあるかと思いますが,事務局の支援を得て,会務の着実な運営に努めてまいりますので,重ねてご支援をお願いする次第です。

 さて,我が国の独占禁止法・競争政策の運営をみますと,一方で,入札談合・価格カルテルといった,いわば旧来型の違反事件が後を絶たない中で,ICT,プラットフォーム,データといったキーワードに示されるような,新たな課題が次々と出てきており,個人情報保護の問題も含め,プラットフォーマーに対する関心・懸念が高まっています。また,国際カルテルや国際合併,あるいはいわゆるGAFAを巡る違反事件といったグローバルな競争法問題が脚光を浴びる一方で,地域銀行の経営統合や地域交通企業の共同経営など地域経済に関わる課題も指摘されております。こうした諸課題に公正取引委員会は的確に対応できているでしょうか。独占禁止法は実効的なエンフォースメントの仕組みを実装しているでしょうか。また,公正な手続や透明性は確保されているといえるでしょうか。規制される企業の側においても,コンプライアンスの備えは万全でしょうか。
  アメリカでも,19世紀末に制定された反トラスト法が20世紀をまたいで21世紀の経済社会に適応できるのかという疑問が示されることがあります。また,EU競争法の積極的な単独行為規制は単に成功した企業を叩いているにすぎないのではないかと批判されることもあります。さらに,競争法が世界に普及する中で,法域ごとに異なる競争法規制が円滑な国際的企業活動を損なうおそれが指摘されています。GAFAに対する競争法規制の必要性や可能性についても,法域により,あるいは論者により大きく見解が異なっています。国によっては競争法をも産業政策の一手段として活用しようとするかのような動きもみられます。通商分野に目を向けると,WTOを中核として形成されてきた開放的な国際経済法体制を揺るがすような事態が次々と生じています。
  こうした独占禁止法・競争政策を巡る国内的・国際的課題が山積する中で,民間の立場から中立的・専門的に取り組むことには極めて大きな意義があると考えており,本会もその一翼を担う所存です。皆様方の引き続きのご支援・ご参加を心からお願いして,会長就任のご挨拶といたします。

令和元年7月12日独占禁止法は法か政策か

独占禁止法は法か政策か

競争法研究協会 会長   栗 田 誠

1 初めて競争政策研究部会に出席します。今回は,上杉秋則先生にGAFAを巡る独禁法問題についてお話しを伺います。いわゆるデジタル・プラットフォーマーを巡る問題については,公正取引委員会が経済産業省や総務省と共に「検討会」を設け,また,政府全体としても「未来投資会議」というトップレベルの会合で議論がなされ,「成長戦略」の重要な柱として様々な施策が展開されようとしています。そうした包括的な取組の一環として,独占禁止法による規制も位置付けられているといえます。見方によっては,独占禁止法がデジタル・プラットフォーマー問題に対する政府の取組の一手段として位置付けられ,活用されているともいえるわけです。

2 独占禁止法は本来的に「政策志向」の法であるといえます。独占禁止法を学び始めると,「これで法といえるのか,政策にすぎないのではないか」と戸惑うことがあります。例えば,電気通信,エネルギー等の規制産業における支配的事業者に対する規制が典型です。これらの規制業種では,事業規制法が支配的事業者に対する様々な特別規制を設けていることがあり,独占禁止法規制と重なる面があります。また,規制当局においても,競争促進を重視した政策を標榜する動きがみられます。一つの行為について,事業法と独占禁止法の両方が適用され得るのであり,規制当局と競争当局(公正取引委員会)の判断が矛盾・抵触することも起こり得ますし,規制される側からは,過重な二重規制であるという不満も出てきます。少し内容的には異なりますが,近時の地域銀行の経営統合や乗合バスの共同経営を巡る独占禁止法の特例を設ける提案も同じようなインプリケーションを含んでいます。
  もう一例を挙げると,近年における優越的地位濫用規制にも独占禁止法の政策的側面が強く現れていると思います。「競争法」としての独占禁止法における優越的地位濫用規制の位置付けについて,私はやや懐疑的であり,「経済法」の一環としての立法が望ましいと考えています。また,例えば,デジタル・プラットフォーマーによる取引先事業者に対する取引条件の一方的改変も,ユーザーからの個人情報の吸上げも,何でも優越的地位濫用の観点から取り組もうとしている現状(打ち出の小槌としての優越的地位濫用規制)には疑問を感じています。優越的地位濫用規制がその時々の取引関係を巡る課題に柔軟に対応してきたことは紛れもない事実であり,政治的にも強い支持があることは明らかです。こうした中で,非公式な措置による決着も含めて優越的地位濫用規制をどのように活用していくのか(あるいは,適切な自制を働かせるのか),それとも,別途の方策を考えるのかが問われていると思います。

3 優越的地位濫用規制は,大変間口が広く,打ち出の小槌のような面がありますが,同時に,違反が認定されると,1回目の違反から取引額を計算基礎とする課徴金の対象になるわけで,大変厳しい規制でもあります。公正取引委員会において,従来であれば拘束条件付取引といった行為類型の問題として考えられてきたような事案が優越的地位濫用の事案として取り上げるように変わってきていないか,注視する必要があると考えています。例えば,立入検査の際の告知書に優越的地位濫用も併せて記載されていないか,また,当初は優越的地位濫用が入っていなくても途中からその適用も検討されるようになった場合にどのように事業者に告知されるのか,といった手続的な課題もあります。事業者側としては,1回目の違反から課徴金がかかる違反として認定されるおそれがあるということは相当なプレッシャーになるのではないか。そうすると,昨年暮れに導入された確約手続による決着が現実的な選択肢となってきます。要するに,公正取引委員会と事業者との一種のバーゲニングにおいて公正取引委員会が過度に有利な立場に立つこととなるおそれがあると思います。
 先週,韓国では,アップルが韓国の公正取引委員会に携帯電話会社とのiPhone取引を巡る公正取引法違反事件について「同意議決」の申立てを行ったと報じられています。アップルとしては,何ら問題があるとは認識していないが,課徴金を課されるおそれ等を考慮した末の苦渋の判断であると考えられます。同様の問題について日本の公正取引委員会は昨年7月に,アップルが契約の一部を改正することから問題は解消されるとして審査を打ち切っていますが,関係法条として拘束条件付取引が挙げられていました。言うまでもなく,拘束条件付取引であれば課徴金の対象ではなく,公正取引委員会の交渉ポジションは弱いといえるのかもしれません。

令和元年6月3日近時の競争法を巡る動き~手続を中心に

近時の競争法を巡る動き~手続を中心に

競争法研究協会 会長   栗 田 誠

1 今回初めて事例研究部会に出席します。今回は,多田敏明弁護士に優越的地位濫用に係る審判審決について解説と問題提起をしていただき,議論を深めます。私からは日本の独占禁止法,世界の競争法を巡る動きをいくつか紹介して,冒頭のご挨拶といたします。

2 1点目は,課徴金制度・課徴金減免制度の改正を主たる内容とする独占禁止法改正法案です。先月30日に衆議院を通過して,参議院に回付されました。衆議院では全会一致でした(経済産業委員会における付帯決議は共産党のみ反対)。通常国会の会期末まで限られていますが,今国会で成立するのかどうか注目したいと思います。【6月19日成立,同月26日公布】

3 2点目は,独占禁止法改正とも関係してくるのですが,ICNのCAP,「競争当局の手続に関する枠組」について取り上げてみます。ICNでは,競争当局による競争法執行における手続的公正の確保に大きな重点を置いていますが,先月コロンビアのカタルヘナで開催されたICN年次総会に向けて,米国当局が主導して,手続に関する基本原則とその履行確保に関する新たな枠組ができました。これに参加するかどうかは各国競争当局の判断に委ねられており,拘束力のあるものではありませんが,参加するには基本原則に適合しているか否かの自己診断を示す必要があります。自国競争法の手続が基本原則に適合していない部分があるとしても参加できるのですが,その自己評価は半年後には公表されることになっています。
  公正取引委員会は,ICNの運営委員会のメンバーでもあり,当然この枠組への参加を通知していると思いますが(既に62の当局が参加を通知済み),特に弁護士・依頼者間秘匿特権の問題については現行手続ではこの基本原則に適合していないおそれがあると考えられます。
  公正取引委員会事務総長の定例会見(5月15日)でもICN年次総会について説明があったようですが,手続枠組に関しては全く言及されていません。今次年次総会の中心的な議題はこの手続枠組であり,閉会に際してのプレスリリースでも大きく取り上げられており,米国やカナダはこの枠組への参加に関するプレスリリースも出しています。公正取引委員会はICNの活動に積極的に貢献していると常々強調していますが,手続問題に関しては腰が引けている印象が否めません。
  独占禁止法改正法案の国会提出に際して,公正取引委員会は公正取引委員会規則による秘匿特権の制度化に踏み切ったわけですが,改正法案が今国会で成立しても施行は1年半後になります。公正取引委員会自身が独占禁止法の手続についてどのように自己評価しているのか,日本の独占禁止法の手続が国際標準を満たしているのかが早晩明らかになるものと思います。なお,4月末にはABAの反トラスト法部会がベスト・プラクティスの実施状況に関する報告書を公表しており,これも参照に値します。
  競争法研究協会では,独占禁止法の手続問題にも強い関心を持ち,意見書を公表するなどの活動を行ってまいりましたが,今後も注視していきたいと考えています。

4 3点目も手続に関わりますが,先月27日に公正取引委員会と中国国家市場監督管理総局との間で当局間の協力に関する覚書が締結されました。中国の競争当局の一元化に伴い,従来の中国商務部や国家発展改革委員会との覚書に代わるものであり,目新しいものではありませんが,個別事件に係る執行協力がどの程度行われているのか,実際の運用が気になるところです。

平成27年1月7日平成27年年頭所感

  年頭所感

 競争法研究協会 会長  伊従 寛


 新年あけましておめでとうございます。

 ご存知のとおり、2013年12月に通った独禁法の改正案に基づいて今、独禁法の執行手続きの規則を公取委では検討しています。おそらく近いうちにパブコメされると思いますが、どうなっているかということを簡単にお話ししておきたいと思います。

 アメリカでは独禁法が実施されたのが1900年前後です。ルーズベルトのニューディール政策の第二期の頃です。そのところに日本の独禁法が出来ました。1950年代・60年代で、随分強化され、合併規制が始まって十数年間で約1千件の合併が規制されました。
それから当然違法の原則は価格協定だけでも再販、テリトリー制などで非常に発展して、鮮明に独禁法の流れができたのです。

 その後半世紀経って、アメリカの独禁法は随分変わっています。
一つは70年代に最高裁の判例で、合併についてはシェア基準だけでは規制できない、ほかの要因をちゃんと考えないとだめだという判決でした。そして77年にシルベニア判決で、当然違法を合理の原則に変えてしまったのです。ブランド間競争では競争制限効果と促進効果の両方見なければいけない。だから当然これでやるのはおかしいという論理に立った。
 80年にレーガン政権のとき、価格協定以外は全部合理の原則でやったところができて、それで違反かどうかは経済自治体に則してやるというかたちになった。これは上院、下院民主党でしたから、レーガン政権とブッシュ政権の12年間に、執行部と議会は対立した形になっていて、その間、判例のほうは緩やかなかたちで合理の原則をどんどん拡大していきました。

 その後民主党政権になって、民主党は判例を尊重して経済自治体に則すということでした。現在のアメリカ独禁法の規制というのは、クリントン政権のときに合併規制をして、技術ライセンスにしても80年以前はアンチパテントになり、特許は非常に危険だといわれていたのが、レーガン政権はプロパテントになりました。
考え方だけではなく、実際に95年のガイドラインにそれが反映されて、そこで60年代の規制が大きく変わりました。
それと同時に、じつは手続きも変わったのです。アメリカの場合刑事事件は別にして、立ち入り検査はありません。ですから強制権限に基づいて報告命令とか資料提出命令でやるわけです。疑いがあれば、どの程度の疑いかということも相手方に知らせなければいけない。相手方がそれが適当な強制権限かどうかを納得できなければ、裁判所で争うわけです。ですから結局違反の被疑事実をはっきり説明しないといけない。

 結局、随分手続きが変わって、2009年にオバマ政権の時、局長がアメリカの手続きについて説明していますけれども、アメリカではもう強制権限でやる以外ない。強制権限は要するに調査のための一つの土台みたいなものですが、それををそのまま出すのではなくて、相手との対話でやる。それはダイアログとディスカッションなのです。相手はいつでも疑いについて審査の各段階で来ているし、どういう疑いがあるかがわかっている。病院へ行って、レントゲンの写真なんかを全部見せるみたいなものです。ですから調査するのだったら協力しようという形になっています。情報交換はいつでもやります、意見交換もいつでもやりますということです。
 
 今は独禁法を強制権限を使ってやるのではなくて、相手との協調によってやっています。このようなスピーチを2009年に国際法曹協会の会合でしています。

EUの手続きはアメリカと同じように、日本ではまだはっきりしていない事前聴聞制をとって、防御権も認めて、審査官の資料も全部開示しています。それでも文句が出ている。制裁金が高くなったということもある。10億ぐらいが500億、1,000億ぐらいです。ことに単独行為の問題について、EUの執行手続きは不公正だということになっている。そのときにこのスピーチが影響して、結局EUは2011年10月に、FTCと同じように相手方と十分に意見交換、情報交換の会合を持って、相手方に納得してもらって調査をやるというかたちに変えているわけです。

 要するにこの50年間で、独禁法の執行手続きが随分変わっているのです。日本はそういうことをあまり知らないで、2005年の改正で反対に事前聴聞手続きをなくしているわけです。これから外国企業も日本に入って来て、手続きが米国、EUと日本が違うわけですから、国際的に協調をして独禁法をやることはできないし、作業部会もいろいろと困ると思います。こうしたことはあまり知られていません。
 今、手続き規則が検討されていますが、こういったことをよく考えながら、作業部会でもこれはいいチャンスですから、十分意見を言ったほうが宜しいと思います。

平成26年8月1日最近の月例研究会での会長挨拶の言葉

2014.7.11 第219回月例研究会 伊従会長挨拶の言葉


 本日はお忙しい所お集まり頂きまして有難うございます。お手元に、「独占禁止法審査手続に関する論点整理への意見」という資料をお配りしました。今年2月から内閣府で独禁法懇談会が開かれていて、色々な論点整理がなされているのですが、それらの論点整理に関してパブリックコメントが募集されていました。既に経団連ほか各関係から意見が出されていますが本日(7月11日)当協会を代表して私が提出を致した資料です。

 昨年末の改正独禁法で、付則で独禁法違反の審査の段階で企業の防御権、弁護が十分かどうかを検討しなさいということで、国会の付帯決議ではそれを前向きに検討するということでした。

 今は経済が非常に複雑になっています。市場に独禁法を適用するのですが独禁法は「競争を制限したか否か」を判断する、大変抽象的な法律なのですが、企業・市場の実態を正確に把握して規制されなくては困る。企業の方は、法律の専門家としての弁護士に相談しながら、必要な時は立ち会ってもらって対応する、そうした手続が保障される必要がある。


 独禁法47条に審査手続が規定されていて、任意ではなくて強制的な審査権が書かれています。その中の資料提出命令や報告命令、これらは期間の余裕があるから企業としても落ち着いて考えられます。
困るのは立入検査と供述調書。これは任意ということになってはいるけれども実際には公取に呼ばれ、出頭を断ることはできません。供述調書を作る場所も指定されて、そこは密室です。必ずしも任意ではない。


誘導尋問は禁止されているはずですが供述調書を取るためには前もって審査官のところで準備されていて、そうした質問に応じて答えるという形で作成されています。審査官の筋書きが入っているということも考えられます。
供述調書は、法廷で争った場合に証拠として使われる場合があります。嘘をつくと罰則がかかる宣誓証言がついていても、例えば審査の早い時期に本人が喋って押印しているとなると、こちらの方が優先されて、違反だと認定されている。
そういうことで、取り調べ方について非常に問題があると、意見書ではそれらのことを指摘しています。最初から弁護士がついて、企業の立場からの意見も反映して、つまり多角的に両面を見て実態を正確に把握して、実態に則した独禁法の運用をして頂きたい、という趣旨の意見です。


 アメリカでは今、独禁法運用は非常に厳しい。政策的なことに関しても日本はアメリカの真似をして課徴金などを上げていっている。そうであれば手続面でも同じにしてほしい、ということです。


実体規定の方に皆さんは関心があると思いますが、独禁法はむしろ手続の方が重要で、今度の改正は、独禁法にとっては非常に重要です。アメリカでは独禁法は判例法で、裁判所で決まっていく。アメリカでの60年代ガイドラインでは、合併については25%超えれば認められないという規制を、約20年間、1000件近く続けていたのですが、現在では判例によって変わってきました。例えばボーイングとダグラスの場合など大型合併の場合で、100%でも認められましたがこれは法律改正ではなくて判例で変わった。判例法が優れているのは手続面です。


独禁法はアメリカが世界的にみても先例で、他の国もアメリカの運用を見習って具体的な規制を行なっています。ですから手続問題は大変重要なのです。今回のパブリックコメント募集は、この機会に勉強するという意味でも良い機会と思います。

平成26年6月20日最近の月例研究会での会長挨拶より

 本日はTPPについてのお話です。TPPは難しい問題で、非常に影響が大きい。なかなか決着しないのも、それだけ困難な問題を抱えていることを物語っています。
 グローバル化が進むことで、二点注意しなければならないことがあります。ひとつは東アジア市場という成長率が高い新興国に欧米が入って、益々国際競争が激しくなるということです。国際競争というのは外国法の競争であることには間違いないのですが、自由化した場合に日本がその市場に含まれてしまうのです。いろいろ企業の活動に影響が大きいと思います。
 それからもう一つは、外国独禁法というと日本では米国とEUの2つだけだったのですが、東アジアとの関係が非常に密接になってきて、皆さん方の企業でも東アジアに進出したりと、関係が深いと思います。そこでの独禁法です。日本の独禁法は終戦直後に出来たのですが、韓国では1980年に制定されて、日本の影響を受けている。ただ90年代から韓国は大分変ってきています。他の国も2000年代から随分積極的運用をしています。動きを知っておかなくてはならないと思います。

(2014.5.14 第217回月例研究会 伊従会長挨拶の言葉)

平成26年4月11日第215回 月例研究会((H26.3.12)にて

本日は皆さんお忙しい所お集まり頂き、有難うございました。
 昨年5月に出されていた、独占禁止法の改正法案が12月に成立しました。
  経緯をちょっとお話しますと、2005年の法改正で、アメリカの事前聴聞制度をモデルにしたような事前審判制度、要するに処分前に、不服があったら争える規程を削除しました。独禁法の執行手続を強化するという非常に強い要望があり、それに沿った形で課徴金を5倍にして、算定率も10%に、さらに再度の違反者には割増、それからリニエンシー制度という、情報を最初に提供した場合には課徴金を減免するということにしました。その時に附帯決議が付きまして、その規程については問題があるから見直そうと、内閣府に独禁法懇談会が出来て、2年間審議されました。会議は30数回されて議事録も全部残っています。
 2007年に報告書が出されて、独禁法の場合には準司法的な事前聴聞手続が必要だという提案をしたのですが、公取委はすぐに、事後審判制度を維持するという見解を発表しました。2009年に経団連が、被処分者がまた審判をされるというのはおかしいから、見直し案として、すぐに裁判所に行くべきで事後審判制度はやめてほしい、そしてもう一つは事前手続の充実をせよ、という要望を出しました。

 2010年の法案は審判の廃止ということを非常に強く言いました。公取は訴追機関ということで執行力を強化すべしと。これには独禁法の非常に多くの学者が消費者団体も反対していました。そして2013年の法案では、事前手続に関してちょっと曖昧になって、国会では11月に、衆議院と参議院で一日のうちに審議を終え、いずれも可決しました。

 衆議院経済産業委員会での内容を見ますと、ちょっとびっくりしました。公取と稲田大臣が答えているのですが、審判については「審判廃止」とは言わない。経済界から、審判官と審査官が一緒になってやっていることについて、不公正性という懸念を抱かれているので、その懸念を払底するためにやめる、こういう言い方をしていました。それともう一つ、杉本公取委員長の説明は、公取は今まで審判、を証拠に基づいて厳正中立的にやってきたので良いのである、ということです。ですから内容を見ると、事前聴聞手続はよいのだと、やめるのは、外部からの誤解があるので払底するためにやめる、こういうことでした。

 それで、今度の新しい意見聴取手続は、手続管理官がきちんと、証拠もとってやりますということで、期間もこれまでの2年以上かかっていたものから、短くすると。実質的には前と変わりないものだと思います。ただし、手続管理官は、委員会に対する報告だけで、自分の意見がどこまで言えるのかわからない。想定すべきだという意識があって、想定するにあたり証拠があるから、証拠の評価を入れるべきであると。結論を出さない、日程を入れるかはっきりしない、委員会は十分に手続管理官の報告書を斟酌しなければならないが、斟酌すべき内容が曖昧だということです。

 それから国会での附帯決議で、これは公取の答弁と改正問題担当・稲田大臣の対応を受けたものですが、事前手続を充実させる。手続管理官の中立性を確保させ、明確・確実な形にせよということです。
 また、付則で、審査手続の中で被処分者の弁護権を拡充するということで、弁護士の立会権、コピーの取得権などです。これについて見直しをしようと、内閣府に審議会が今月(3月)末に出来るようです。今後一年以内ということです。産業界にとって大事なことは、一方的に考えを言っていられない。争うことができるかどうか、事前聴聞手続ができるかが非常に重要です。アメリカでもEUでも、憲法のところで、軛処分される場合には必ず事前に争うチャンスを与えろと言っています。それは日本では守られていない。手続がきちんとしていないと、行政官庁の裁量の範囲内で、考えを押し付けられるだけになってしまう。内閣府の言っている「準司法的手続な聴聞手続」:準司法的というのは証拠に基づいて、ですから、証拠に基づかないものは処分できないと、こうはっきりさせなくてはならないのです。こうした重要なところで、これから一年間の審議会で色々チャンスがあると思いますから、企業の方でもいろいろお考えになると良いと思います。

平成26年1月1日平成26年年頭所感

あけましておめでとうございます。
 

 独禁法ができたのは1947年ですから、今年でもう60年以上になります。今、改正案では手続の問題が、結局以前話しましたように、出来てみたら手続が違う手続なので、アメリカやEUの手続とも違う形になっています。それをそのまま恒常化しようという改正案ですから、非常に問題だと思います。手続ばかりではなく、日本の場合、法律自体、実体規定についてもあまり突っ込んでやっていない。アメリカの表面的なまねだけをしたという面が強いです。不当な取引制限、カルテル、中心になるのは価格協定の問題です。競争者間の協定の問題です。アメリカでは価格協定についても、法律ではなくて判例法で立証の方法として、具体的に競争制限を立証する必要がなく、価格協定の合意があればそれだけで立証できます。当然違法の原則に乗っているのですね。要するに、競争の実質的制限まで入って経済実態を分析して違法かどうかを決めるのを合理の原則といって、通常は合理の原則でやるけれども、価格協定だけは一番やりやすくて、弊害も多いということで、当然違法の原則(per se illegal)という制度があります。日本は、アメリカでできた判例法の証拠法上の原則をそのまま取り入れて、原則禁止にしました。
では、この話の続きは、月例研究会でお話をしたいと思います。
会員の皆様の独禁法研究へのご理解を一層深められますよう期待いたします。

 

平成25年11月6日平成25年10月9日 第211回 月例研究会にて

 最近、独禁法関係で1番重要な問題は、今年の5月に公取委が独禁法の改正法案を出したことです。この法案の内容は、今から3年前になりますが、2010年3月に出した法案とほぼ同じ内容です。どのような内容かといいますと、2005年の独禁法改正以前には、独禁法の事前審判手続、つまり、処分をする前に被処分者が争った場合は、処分前に事前審判において被処分者の意見を十分に聞くという手続があったわけですが、独禁法の執行力強化の観点から2005年の法改正により、その事前審判制度を廃止して、処分をした後に被処分者の意見を聞くという事後審判制度に変えています。憲法第31条は、何人も適正手続によらなければその生命財産を又は自由を奪われないと規定し、行政手続き法は重要な危害を毀損する場合には事前聴聞を規定しており、この改正点は国会の審議でも問題になり、改正法の附則13条で政府は2年以内にこの点の見直しをする条項か付けられました。そして、内閣府に独占禁止法基本問題懇談会が設置されました。この懇談会の報告書が2007年6月に出ました。その報告書は、「独禁法違反事件のように事業者の活動に重大な不利益を与える措置を採る場合には、被処分者に対し事後審判方式ではなく、準司法的な事前審査型審判方式を採ることが適切であるので、一定の時期が経過した後、事前審査型審判方式を採用する必要がある」という提案を行いました。公取委はこの提案を事実上拒否して、2010年に出したのは、事後審判手続を廃止する法案であり、そこでは行政処分の前には2005年改正後の現行法の「意見陳述手続」と実質的に変わらない「意見聴取手続」を採るだけであり、内閣府懇談会の提案した準司法的な事前審査型審判方式は採用されず,証拠による中立的な事実認定の制度は排除されていました。この法案に対しては50名を超える独禁法学者が内閣府懇談会の提案した事前審査型審査方式を無視するものとして反対し、全国消費者団体連絡会も同様の理由で反対しています。この法案は、その後国会では実質的に審議されることなく、2012年11月の衆議院解散により廃案になったのですが、本年5月24日に公取委は再度この法案を国会に提出しています。それから、「公正取引情報」に出ていたのですが、米国通商代表部(USTR)の本年度の不公正貿易報告書には日本の独禁法改正で事前聴聞手続が削除され、憲法の適正手続(デュープロセス・オブ・ロー)の原則に違反する疑いがあるとしています。適正手続は民主主義の基本に関する原則であるので、この批判は十分に考慮する必要があると思います。この情報については,外務省に問い合わせましたが、確かな情報です。独禁法の基本手続きが米国・欧州連合と対立していると言うことは極めて重大なことだといえると思います。日本の企業としてはこの独禁法の手続が米国・欧州連合と異なり被処分者に不利にされていることに十分留意する必要があると考えます。

 米国では以前から独禁法の執行手続を非常に重視し、処分をする前にはっきりと事前聴聞制度をとって、裁判手続と同じように、審査官の集めた資料については、原則的にすべての資料を被処分者に閲覧させて、それを証拠として利用することができるという手続を採って、準司法的な手続になっています。欧州連合も以前から事前聴聞権を基本権として被処分者に認めていましたが、ご存じのとおり欧州連合では独禁法違反の制裁金が90年代から著しく高額になり、産業界がそれに対して非常に反発して、「手続を公正にしてほしい」と主張し、結局2011年10月に違反事件審査手続に関する「ベストプラクティス」という通達を欧州委員会が出しましたが、その手続の内容は米国の連邦取引委員会の手続とほぼ同じになっています。審査官は法律で強制調査権を与えられていますが、審査においてはできるかぎり相手方の了解を取って審査するようにし、相手方に違反事実を自白させることは禁止され(自己負罪拒否権)、供述に際しては弁護士同伴が許容され(弁護士同伴権)、供述調書のコピーは入手でき、審査中に上級審査官や審査局長と面会し質疑を交わすことが保障され、和解手続(同意命令手続)の機会が与えられ,処分案を争う場合には処分前に事前聴聞権が与えられて証拠に基づく事実認定の権利か与えられ、審査官が収集した資料はすべて閲覧し証拠として利用することができ、審査・聴聞手続の重要な段階で審査官等と質疑応答する機会が与えられ、事前聴聞の主宰者(聴聞官)は審査関係者や上級職員からの独立性が保障されており、審査・聴聞の全課程を等して当事者は対話と協議により審理手続きが進められるとされており、詳細な手続き規則が公表されています。問題は、市場経済の関係事業者は対立と強調の中で事業活動と競争を行っており、その行動の認定は極めて複雑であり、審査官が一方的に資料を評価し事実認定を一方的に行うことは適切でなく、市場の経済実態に即して事実認定を行う必要があるからであるので、相手方に対して最大限の弁護権を当てています。市場経済の場合には、関係事業者というのは、ある面からみると、よくカルテルなどで同業者がみんな集まって協調して値を上げることばかり考えるとうことですが、反対の側面から見ると、同業者はみんなライバルで敵対しています。ですから、対立と協調と両方あって、資料の見方や評価の仕方というのは非常に難しいわけです。それを審査官の一方的な視点で見るのは問題であり、被処分者もすべての証拠について閲覧して評価することが認められています。米国でも欧州連合でも関係資料を全部当事者に公開して、それを利用できるという形にして、その証拠でもって客観的・中立的に事実認定をするということになっています。米国の反トラスト局長は手続を公正で透明にすることは被処分者の防御権を守るためだけではなく、複雑な市場経済の秩序を守る独禁法の執行手続をすべての市民に信頼されるためにその公正性の保障が必要であり、そのためには独禁法の行政処分をする前に相手方の意見を十分に聞く必要があると述べており、日本の2005年の執行力強化のために処分前に相手方の意見を聞かないという考えとは逆の考えを述べています。日本の場合、独禁法執行手続において被処分者の意見を聞くという事前審判制度を2005年改正で執行力強化のために否定し事後審判制度にしたのです。このような面でいうと独禁法の手続は非常に重要な問題で、実体規定の改正よりも今度の手続の改正のほうが重要です。今回の改正法案がそのまま通れば、準司法的な独禁法の事前審査型審判方式が長期的に否定されることになり、そのことはわが国の独禁法が米国や欧州連合の独禁法と異なり、市場経済の経済実態に沿った準司法的で民主的な手続と相反する手続で公取委の意のままに執行される独禁法になるからです。ですから、現在国会に提出されている独禁法改正法案の問題については、独禁法の実際の適用を受ける皆様方が是非強い関心をもっていただきたいと思います。

平成25年8月1日平成25年7月23日 第6回競争政策研究会にて

 皆様、お暑いところお集まりいただきましてありがとうございます。今日は隅田先生から、アメリカ、EU、日本の縦の制限協定について比較してお話しいただくわけです。わたしはその前に、縦の制限協定というのは、独禁法でどのような位置を占めているか、ということについて簡単にご説明しておきます。
 お手元に1枚紙の「縦の協定の規制と独占禁止法」というメモがあります。これを簡単にご説明します。日本の独禁法は今、随分条文が長くなっていますが、アメリカもEUも、よく法3条といいますが、独禁法の基本規定は3条ばかりです。規制している内容は3つあるわけです。1番目は、単独行為です。独占的な企業の単独行為です。2番目は、共同行為です。企業同士が共同してやる行為です。3番目は、合併の問題です。独禁法を持っている国は100カ国以上ありますが、それが集まってICNというのがあります。そこでも大体この3つの対応に分けて議論しています。ですから、いろいろ言うけれども、独禁法といった場合に、この3つの行為対応が規制の対象になると言っていいと思います。
(第6回競争政策研究会 会長挨拶より抜粋)

平成25年4月18日第206回 月例研究会にて

 皆様、お忙しいところをお集まりいただきましてありがとうございます。
 新聞でご存じのとおり、先月公取委の委員長に杉本さんが就任されました。去年の9月以来かなり長い間、3人の委員で異常な状態が続いていたのですが、3月になりまして新しい委員会ができたということです。新委員長は、就任のときに、前委員長の後を継いで同じように独禁法を冷静に運用していくといわれています。新聞でご存じだと思いますが、今、政治的には消費税の増額の問題が重要で、それに伴って、公取委は、消費税が適正にとれるように独禁法でバックアップすることでいろいろ措置を考え、それが法案になって出ていましたが、当面はその問題が一番重要で、公取委のほうも忙しかったのではないかと思います。
 委員長は、今ご紹介しましたように、前委員長の10年間の実績を踏まえてその路線を続けていくと言っておりますが、そうなるかどうかについては、わたしは若干疑問を持っております。といいますのは、今の独禁法の運用というのは、国際的なアメリカ・EUを中心にした独禁法の運用ルールが、経済のグローバル化に対応してかなり変わってきています。日本と格差が出ているのではないかという感じを受けています。どのような点かといいますと、いくつかの面で出ていますが、1つは国際カルテルです。グローバル化に伴ってグローバルな競争が大きな流れになって、それを阻害する国際カルテルに対して、アメリカ・EUでは90年代半ばから非常に厳しく取り締まっています。日本の企業がそれに含まれていて、アメリカ・EUで随分取り上げられています。今アメリカでは特に国際カルテルの対策として、外国企業の独禁法違反に対して会社だけではなくて個人も。日本も個人をやっておりますが、個人に対する刑罰が執行猶予付で実際に実刑が科された例はないのですが、アメリカではどんどんこれを実刑化していて、それが非常に多くなっています。
 先日新聞にも出ましたけれども、自動車の部品問題で日本の企業の幹部が随分収監されております。日本ではなかなかそういうことをしないのですが、刑期が従来は2~3カ月であったのが、今は3年、4年とどんどん厳しくしております。日本も合併については反対にグローバルな競争に対応するために、随分前からシェア基準から実際の経済的な分析に変わってきています。これも日本がシェア基準から離れだしたのは2000年ぐらいです。ですから、これも随分遅れていて、また、手続も経済分析になるとどのような調査をするかというと、手続についても膨大な資料が必要です。一昨年の新日鉄の合併のときに、欧米並みになって、これも改善されてきているわけです。
 今残っている重要なことは2つあり、1つめは縦の協定です。メーカーと流通・販売業者との関係。各国では、国際競争に対応するために、縦の協定は横の協定と違うという認識が強くなって、ブランド内競争については原則としてはやりません。ブランド間競争を制限する場合にやる、と。それも競争に対する経済的な悪影響を立証してやるというかたちになっています。これがかなり形式的になっています。1991年の流通ガイドラインがかなり遅れているわけです。あのようにやることが、家電業界のように流通対策、販売組織が非常に遅れてしまいました。国際競争で非常に不利になります。このような問題が解決していないのです。
 また2つめは、手続が競争に対応するので、制裁金が高くなったことと関係しますが、EUが手続を2011年10月にアメリカのFTCの手続とほぼ同じ手続に変えています。基本的な考え方というのは、当事者、つまり規制する職員と規制を受ける会社の職員との対話によってやる、というかたちになっています。日本の場合、かなり一方的に手続がとられているし、2005年の改正で事前手続をやめて処分をいきなりやって、文句は後で聞くというかたちになっています。それに関連する改正案も出て、今廃案になっています。それをどうするかという問題が出ています。 
 ですから、このような状態をみると、前委員長のときの路線がとられるかどうかについては、わたしは若干疑問です。この動きというのは、グローバル経済がどんどん進んでいるわけですから、しかも東アジア市場を中心にそれが展開されるというときにどうなるかというのは、皆様方も関心を持たれておくといいのではないかと思います。
 (平成25年4月 月例研究会 談話より抜粋)

 

平成25年1月1日平成25年 年頭所感

あけましておめでとうございます。

下請法の問題の最近の規制の状況について。
 下請法というのは、独禁法の中では昭和28年の改正で入った優越的地位の濫用行為の規制に属するものです。ご承知のとおり、優越的地位の濫用行為については、独禁法の学者の中では意見が分かれていて、積極説というのは正田先生に代表されるものです。正田先生の独禁法の理解というのは、経済的弱者を救済するのが独禁法だ、という見地から優越した地位の濫用についてはほぼ全面的に支持する考えです。それに対して批判的なのは今村成和先生です。独禁法というのは本来競争制限行為を規制するから、競争制限行為との関係上、優越的地位の濫用についてはあいまいである、というので、規制そのものに反対されているわけではないのです。今までもこの2つの考え方というのは共存していて、公取ではやや中間説のような形をとって、競争の制限に直接関係はない、と。中小企業の営業の自由の問題だ、というような形で、やや中間的な見解でやってきています。
独禁法上はそのような問題があるのですが、現実の問題でいいますと、下請法は非常に重要な機能を果たしていると思います。この前の3.11東北の震災の後、世界が注目したのは、1つは、日本の経済はこれで大丈夫なのか、と。その当時聞かされた意見では、アメリカでは6~7割は「日本の経済はこれでだめになる」、あとの2~3割が「日本は明治維新のとき、それから戦後の発展を考えると、また回復するのではないか」というのがあって、世界でも震災後の日本の経済についてはかなり悲観的な見方が多かったわけです。震災の後、出てきたことで非常に重要なのは、日本では自動車や家電等の部品産業が非常に発達している。いわば下請産業が非常に発達していて、今や日本の企業だけではなくて世界の有力な企業の下請企業になって、その基盤を支えている、ということです。そのような面では、下請企業が健全に発展してきているので、これに下請法は大きな影響を与えていると思います。今ここに集まっている方はほとんど大企業の方ですが、大企業が日本の経済をリードしているといいますか、その元になっていますが、企業数でいいますと、98%の企業が中小企業です。大企業は2%ぐらいです。ですから、大企業と中小企業が共存しているわけですけれども、それは競争している立場もあるけれども、ほとんどが直接・間接に下請関係といいますか、大企業の製品をつくる過程において、あるいは販売する過程において、中小企業と協力しているわけです。やはり大企業は経済力が強いですから、無制限にそれを効率的に発揮されたら、中小企業は非常に不安です。
この点が、独禁法上の位置づけというのは非常に難しいから、下請法に関する限り、みていきますと。それ自体、日本の経済に対して影響を与える。大企業が下請法の適用を受けて非常に困る面が多いと思いますが、長い目でみますと、大企業の基盤を強化しているといわなければならないです。
(以上、月例研究会にて会長挨拶より一部抜粋)

 

平成24年9月21日第199回 月例研究会にて

お忙しいところお集まりいただきましてありがとうございます。
このところの東京電力の値上げの問題が新聞等で報道されています。東京電力による値上げが独禁法違反になるのではないかと、どこかの企業が公取委に申告をしたようで、しばらく前ですけれども公取委は。それについての回答を出して、「私的独占」にはならないとしました。「私的独占」というのは、市場支配的な企業が、「他の事業者の事業活動を支配又は排除する」という要件が法律で規定されているので、値上げがこの要件に該当しないことは明らかですから、公取委はこの規定には違反にはしないという見解を出したことは、当然のことだと思います。しかし、公取委はそれに加えて、値上げが「優越した地位の濫用になる場合」には問題になる場合がありうる、ということを付け加えて言っています。私は、これはおかしいと思います。電力の販売については「私的独占」で規制していて、これが適用される規定であり、「優越した地位の濫用行為」の規制は基本的に購入面の規制です。大規模小売店や親事業者が納入業者や下請業者をいじめることを規制する濫用行為の規制規定です。国際的にも「購買力問題」(buying power)として規制議論があります。独禁法の「私的独占」は販売面を中心に規制を考えており、購入の問題というのは独禁法の普通の規定ではなかなか規制できないので、buying powerの問題として検討されています。日本の場合には、昭和28年に優越した地位の濫用規制という規定を「不公正な取引方法」として入れたわけです。主としてその当時の百貨店と問屋の関係や下請関係の問題でした。取引に際して当事者間に契約がなくて、納入業者は契約で保護されず、百貨店の言うとおりになっている。下請企業についてもそうだったわけで、前近代的な取引の問題です。このようなものについて、優越した地位の濫用の問題があったわけですが、販売の面についてこのような規制を言うというのは基本的におかしいのであって、問題があれば「私的独占」の問題です。そもそも電力料金については、電気事業法があって経済産業省が所管しているので、同省が電力料金自体を規制しているわけです。文句を言うほうも、そこに要望を言えばいいことなので、それを公取委に持ってくるというのもおかしい。
また、消費者は電力値上げ問題を消費者庁に持ち込んで消費者庁も電力料金問題を検討している。消費者庁は電力料金の規制問題について規制権限を持っていないのです。電力料金については電気事業法に規定があって、規制しているのは経済産業省です。ですから、消費者は電力料金の値上げについて意見があるなら、経産省に意見や要望をすべきです。本来であったら、電力料金値上げについて消費者や関係業者にいろいろ意見や要望があれば、経産省が公聴会を開くとかパブコメをして、消費者や消費者庁はその場で意見を言うのが法治国家の法律の建前であり、基本的なルールです。こういう基本的なルールが無視されているところに問題があり、長期的にみれば、規制の重複により規制が無責任になり、解決がかえって遅れると思います。消費者庁は、ある問題について消費者の立場から意見があるのだったら担当の規制官庁に意見を言えばいいことで、このような面でいうと、何か基本的な法制上の問題というのが非常に乱れていると思います。
そのような問題が最近かなり出てきていています。消費者庁も安全の問題について、今見てみますと、食品の安全、自動車の安全、航空機の安全、原子力や放射線の安全等についても消費者庁の関与のみならず規制権限や認可権をもっており、消費者に関連のある問題はすべて消費者庁が一元的に規制が必要だという風潮があります。広告では消費者庁認可の食品というのが出ています。このような問題については、政治家にも問題がありますしかし、安全問題はその対象商品ごとに異なっており、食品の安全と自動車の安全、原子力や放射線の安全というのはそれぞれ全く異なり、それぞれの専門機関でなければその安全の確保はできないはずです。米国にも消費者委員会がありますが、先日トヨタの自動車のブレーキの安全問題が大きな問題になった時に、その解決を担当したのは消費者委員会ではなくて、運輸省長官でした。安全について問題が生じたときに、それを正しく解決できるのはその商品の専門機関以外には規制能力はないわけです。安全問題はその商品の所管官庁が責任を持つべきで、消費者庁は所管官庁が十分にその機能を果たしていない疑いがある場合にそれを監視するとか、勧告するとか、二次的な役割の官庁にすべきです。まず、所管の専門機関が規制を行い、そこに何か問題があれば消費者庁が意見を言ったり、勧告をしたり、あるいは国会に意見を提出したり、場合によっては裁判所に提訴するなど二次的な規制をするのが本筋です。いずれにしても消費者庁は二次的な監視機構の問題です。米国をはじめ先進国では基本的にこのような状況になっています。日本ではポピュリズムが強く、消費者の目先の利益を追求する傾向があり、政治家にもその傾向があります。これでは基本的な消費者利益を確保することができないばかりでなく、関係する事業者や産業界も大きなマイナスを受け、問題は複雑になるだけです。消費者庁は自ら規制するのではなく、第一次の規制は専門機関に任せ、消費者庁は、そこに問題があれば担当専門機関に意見をしたり、勧告をしたり、国会に意見を言うとか、裁判で争うとか、監視的な面を担当すべきだと思います。このような基本的なところが今非常に混乱しており、これは消費者のためにもならないし、関係する企業のためにも複雑な問題を負わせることになるので、企業もこのような常識的な問題に対して明確な意見をいう必要があると思います。

 

平成24年4月20日第196回 月例研究会にて

 最近の問題を2~3、お話ししておきます。日本では、価格カルテルに対してはアメリカやEUと同じです。今日のテーマの国際カルテルについてはどこも厳しいです。国際カルテルについては、各国の当局がかなり緊密に協力しているので、どこかの国でやると、要するにそれが日本でも取り締まられることになっています。日本では、今優越した地位の濫用の問題が非常に多くなってきているわけですが、これは私的独占などを含めて単独行為といわれています。単独行為と共同行為。カルテルなどは共同行為ですけれども、個々の企業がやるのは単独行為といわれますね。アメリカは、単独行為については非常に慎重です。といいますのは、企業の単独行為が競争の元になっているから、企業の単独行為をやたらに規制すると競争を抑圧することになるので、弊害がはっきりしている場合でないとだめだということです。裁判所も非常に厳しいです。マイクロソフトの問題なども、地裁でマイクロソフトの抱き合わせの問題について独禁法違反で企業分割となったわけですが、控訴審に行って、これは反競争的効果についての立証が不十分だからというので差し戻しになっているわけです。要するに、裁判所でも、競争が制限されるのか、競争が促進されるのかの区別を厳密にやりますから、非常に難しいです。ですから、優越した地位の濫用の問題は、アメリカは非常に慎重だということです。EUのほうが積極的ですが、一般的にいわれているのは、濫用行為というのは私的独占でやったらまず取り締まることはありません。購買力の内容です。ですから、日本でやっているのも、大規模小売店などが問屋さんに対して返品や買いたたきをするというようなこと。購買力の問題については、ヨーロッパを中心に各国でうるさいです。
ただ、日本では、これはわたし個人の意見になりますけれども、危険なのは優越的地位の濫用を非常に強調して、知的財産権の問題、ライセンス協定の問題や、フランチャイズ協定でも、本部あるいはラインセンサーが何かやると優越した地位の濫用だ、と。これをやると非常に混乱すると思います。日本で優越的地位の濫用を入れたのは、昭和28年の改正ですけれども、この時は百貨店の納入問屋に対する扱いが乱暴だと。百貨店と納入問屋というのは、江戸時代からあったから義理人情の世界で、だいたい契約なんてないわけです。要するに契約で内容を決めないで、売ってください、売ってあげましょう、と。今度は、これは売れなかったから返します、とか。その代わり、後で面倒みましょうね、というようなかたちです。百貨店の間の競争が激しくなると面倒をみないから、弊害が非常に出てきた。昭和28年はちょうどそういうときでした。それに対しては、契約もないからおかしいということで、濫用でやったわけです。ですから、下請法にしても、契約をしないさい、と。契約をしたときには値段がいくらかちゃんと決めなさい、と。決めた値段を買いたたいてはいけない、と。後で勝手に変えてはいけない、ということですね。当たり前のことをしている。ですから、外国の独禁法の学者が来て、それを聞いて、これは外国では裁判所でやることだ、と。なぜここではそんなところまで入ってくるのか、ということで怪訝な顔をしていたわけです。ですから、やはりどこの国でもそのような濫用がある。アメリカでも三越事件と同じようなメイシー事件というのがあって、返品などをやっていて、やったことがありますから、ないわけではないですが、あまりこれをやるのは危険ではないかという問題があります。本来独禁法というのは自由経済ですね。企業に自由に活動させることが重要なので、カルテルなどで競争者が協定して競争をやめるのがいかん、というので、それが単独行為にも来ているわけですけれども、アメリカの場合非常に慎重です。 
もう1つの問題は、合併の規制などは今アメリカでは厳しい。オバマ政権は独禁法強化ということを言って、合併の事件は非常に少なくてほとんどしていなかったのが、この数年間、毎年倍増です。ただ、事例は全国的なものは非常に少ない。地方的な病院の、合併して独占になるとか、私的独占についても同じように地方的な事件。今大企業の分野というのは、グローバル化して競争が激しいわけです。そこで、あまり合併の問題が出てくることはない。ただ、アメリカではそのようなかたちで、地方的な合併ということです。日本では、合併は、90年代は非常に厳しくて25パーセントを超えるとだいたいイチャモンをつけられたのですが、今は年に2件ぐらいです。ですから、非常に緩やかになっています。ただ、合併の審査のときに経済的な分析が多くなって難しいということで、審査も非常に慎重で、審査で困る。資料要求が非常に強い。これは最近アメリカのですけれども、中国の合併についても、規制される例は少ないですけれども、審査が非常に大変だというわけです。似たような問題が出てきたのではないかと思います。
最近の問題につきまして、日本と外国、特にアメリカと比較して、どのような点が似ているか、どのような点が違うかということだけお話ししました。

 

平成24年1月5日平成24年 年頭所感

 皆様、あけましておめでとうございます。

 現在、独禁法を持っている国は、世界で約100ヵ国以上あり、ICN(International Competition Network)が、毎年大会を開催しています。2~3年前には、日本(京都)でも開催されました。
 独禁法が最も整備されているのが、アメリカとEUであり、ヨーロッパは戦後、独禁法が発達したのはドイツです。戦前は、ドイツはカルテルの母国と言われており、これは一面的な見方であって、専門家の間では、ナチスはカルテルの友、自由主義者はカルテルの敵と言われています。リベラリストが中心となった新自由主義の中で独禁法は制定されました。そういうこともあって、独禁法についてはドイツが熱心で、EUの競争当局の担当者は、ドイツ人が多いのです。
 ヨーロッパの独禁法は、各国ありますが、やはりEUの独禁法が一番整備されています。アメリカは、シャーマン法で、競争制限協定・独占行為・モノクライゼーションの禁止で、判例で決まってきます。EUも共通のところがあり、条約の101条が競争制限協定を規制していて、102条が市場支配的事業者の独占行為を規制しています。EUは判例法で、市場経済の変化に応じて、裁判所が具体的な事例をもとに判断するというルールです。1980年頃を境に実体的な事項に則したやり方に変わってきています。判例法は、現実に即して柔軟にやっています。その点は、アメリカもEUも共通しているところです。EUの公用語は英語なので、アメリカの判例がそのまま使われています。EUの企業同士だけでなく、アメリカの企業の争いもEUで扱うこともあり、情報が密接に交換されていますので、EUの独禁法は尊重した方がいいと思います。本当に参考になる独禁法は、アメリカとEUです。それに比べると日本の独禁法は非常に落ちます。実際、日本の公取委が取り上げる事件の90%超が同業者からの申告です。現在は、市場の利害関係が複雑なので、執行力強化ばかりでなく、市場の実態を見て、公正にかつ客観的に判断してルールを作ることが大切です。私は、アメリカの司法局のホームページを参考にしています。
 そういうことで、独禁法を勉強するときには、何が重要かをよく見ないといけないと思います。

 本年もどうぞ宜しくお願い申し上げます。

平成23年9月9日第189回 月例研究会にて

今日の日経新聞に、EUの裁判所が充電器の判決について、「日本の企業の行政制裁金を無効とした」という記事が掲載されていました。EUの裁判所は、最近、行政制裁金を減額していて、行政措置に対しかなりブレーキをかけています。今回の判決は、充電器のカルテルについて、カルテルがなかったというのではなくて、行政制裁金の基準が、日本の古い統計に基づいているため、ヨーロッパの企業と日本の企業とが差別されることになり、差別されたことを理由として制裁金は無効になりました。EUの裁判所は、手続問題について厳格で、手続違反を理由に制裁金が無効とされています。
それとはまた別に、産業界ではEU委員会の行政処分の前の事前手続が不十分だということで前から強い不満が出ていて、EU委員会がそれを検討しています。EUの場合、アメリカのFTCの事前手続がモデルとされ、それに比べて手続が公正でないという不満を産業界が持っています。
 それから、今日の一つの情報ですけれども、アメリカではオバマ大統領が行政機関一般の手続について見直す命令を出したということが報じられていました。行政機関の手続問題というのは、現在重要になってきています。
 アメリカでも裁判所では、例えば3年前のランバス事件判決などでは、立証について非常に厳格です。市場に対する悪影響があったかどうかについての立証ができないということで、ランバス判決ではFTCがした違反事実の認定が証拠不十分ということで、取り消しました。違反事実の立証が非常に難しくなっています。
 日本でも、あまり新聞には出ていませんが、6月に岩手県の談合の問題について、東京高裁が証拠不十分ということで、公正取引委員会の命令を取り消しています。こういう問題がだんだん出てきている時に、公正取引委員会から審判を廃止するという改正案が出ていますが、この改正案は審判手続の廃止を内容とし、手続問題については慎重にやるということの反対の法案で、世界の流れに逆行していると思います。
 

平成23年4月28日最近の月例研究会での会長挨拶より

 EUの独禁法について述べさせていただきます。
 今の独禁法では、アメリカとEUが圧倒的に強いです。世界で100ヵ国以上が、独禁法を持っていますが、整備されているのがアメリカとEUのみです。EUというとヨーロッパという感じなのですが、この10~20年くらい、EUで取り上げられる事件は、アメリカの企業同士の問題が非常に多いです。例えば、インテルやマイクロソフトなどです。

 今、経済はグローバル化していますから、アメリカや日本の企業でもEUで販売しているとEUの独禁法の適用になります。もう一つ重要なのが、EUの公用語は何ヵ国語もあって、翻訳の費用がべらぼうに高いのです。予算の中の相当分が翻訳の費用になっています。その中で記録は他の公用語に訳されますが、実際は英語でやる場合が多いです。1コミッションでも、裁判所でも英語が使われることが多いです。弁護士も外国弁護士はEUでやります。結局、アメリカの判例が使われることが多いです。アメリカの企業同士が、司法省で取り上げてもらえなければ、EUに持ち込んでやるわけです。マイクロソフトの件もそうです。競争者が司法省でうまくいかずにEUのコミッションに持って行って、EUの管轄であるので、取り上げてもらって裁判になりました。アメリカは100年以上に渡っての判例がたくさんあるので、アメリカの判例が使われるのですが、EUの判例が使われる時も、論理などは違っていますが、だんだん調整されて似てきます。EUの独禁法がヨーロッパの独禁法だと思ったら間違いで、アメリカの独禁法と非常に密接になっています。お互いに刺激し合っていて、アメリカの独禁法も成り立っています。

 ですから、独禁法は、圧倒的にこの二つの独禁法が優れていて、アメリカとEU以外は非常に遅れています。日本の独禁法は実体法も手続きももっと調整しないといけないと思います。そうしないと日本の独禁法の将来はないですね。

平成23年1月5日平成23年 年頭所感

明けましておめでとうございます。
 今年の春、通常国会に公取委のほうから審判手続を廃止する法案が出ているのですが、前国会では提案理由の説明だけで、審議に入れなくて、継続審議になり、今度の臨時国会に継続審議のまま出ているわけですが、わたしの聞いているところでは今度の臨時国会では通るのが無理だという状況のようでございます。非常に重要なのですけれども、手続の問題ですからゆっくり審議したほうがわたしはいいと思います。公取委の審判がなくなると、公取委は普通の行政官庁と同じようにどんどん処分をするということになります。わたしが見てみますと、現在でも事前に審判手続がなくなり、事後になって、事実の認定とについて、あまり相手の主張を考えないでやっているというような感じを持っています。これが事後審判もなくなってしまうともっとこの面がおろそかになるのではないかとおそれています。……今、事後審判が非常に増えています。事前審判が、審判が多くて困るというので、課徴金の納付時期を延ばすためにやっているのではないかというので事後にしたのですが、事後にしたら審判が増えてきました。審判手続の問題は、かなり重要な問題なのですけれども、いずれにしても今度の国会はどうも無理なようでございます。
また、一般にあまり知られていないのですけれども、独禁法上非常に重要な判決がアメリカで出ていまして、2007年の電気通信関係のトンブリ判決です。アメリカでは損害賠償など民事手続における、共謀の問題で米国の民事手続では、カルテル関係の問題です。本案審議に入る前に請求について却下できる手続があるのですが、これについて以前の最高裁の判例で1957年のコンレイ判決というのがあり、その時には却下するのは慎重に検討するというものでした。2007年のトンブリ判決は、それを大幅に変えまして、むしろ共謀の事実についての証拠があると十分に考えられなければそれは却下して構わないという判決が出まして、非常に画期的な判決です。正確にいいますと、「関係者間で合意が行われたことを示す真実と見られる十分に具体的な事実が述べられる必要があり、それにより一見して説得的(すぐ分かるということですね)な申立でなければ陪審の審議に入る前に却下して構わない」という判決です。カルテルに対する罰金や損害賠償額が高額になったために、カルテル問題の事件が増えてきました。その場合カルテル、すなわち共同行為ということを安易に訴える傾向がでてきたのです。しかし、共同行為に対するのは単独行為ですが、単独行為というのが競争の元になっているわけです。アメリカは独禁法というのが営業の自由を保護するため、単独行為を保護するために共同行為の共謀を立証するときには十分な証拠がなければそれはやってはいけないということを確認した判決になっております。日本では「合意」ではなくて、「共同の認識」などでやっています。この判決で述べられているのは、競争者間に共通のパーセプションがあってもそれが合意ではないから、合意をはっきり認定しなければ駄目だとしています。アメリカの独禁法にとって重要なのは競争であり、競争というのは個別企業の活動からでてくるので、単独の行為でやっていることについて安易に、共謀だと言って規制してはいけないというわけです。今、非常に制裁金も多くなっていますから、三倍額の損害賠償というのも相当多くなって、どんどん訴訟はが増えています。ですから、この間の濫用を防ぐという意味もあるのですが、そのような判決が出ています。
その判決に基づいて、本来独禁法の共謀の問題なので、いわゆる9.11のテロのときのパキスタンのテロリストを起訴したときに、テロリストのほうが法務長官とFBIの長官が共謀してモスレムで差別をしたということを言いました。その事件にもトンブリ判決の原則を適用しました。このような差別の問題についての共謀、共謀というのは独禁法だけではなくて、アメリカでは普通構わないことでも共謀でやると問題になるということが随分あります。イクバルというのはテロリストの名前ですけれども、イクバル判決で共謀の請求を却下して、これは独禁法だけではなくて民事法を含めた原則だということになっています。これも非常に大きな反響を呼んでいます。
日本では手続の問題はあまり議論されませんが、アメリカでは手続問題が重視されて議論されています。今日の問題とも少し関係があるかと思いますのでご紹介いたしました。

平成22年1月4日平成22年 年頭所感

あけましておめでとうございます。

米国EUでは、以上の様な制裁の厳格化に伴って適正手続の保障(due process of law)の原則により、審査審判手続の適正化を強化して、相手方の防御権の保護を強めているEUは、50年振りに審査審判手続の抜本的な見直しを行い、2003年の理事会規則及び2004年の委員会規則を制定している。
我が国の場合には、2005年の独占禁止法の改正では課徴金の大幅に引き上げたが、同時に執行力強化の観点から勧告手続と事前審判手続を廃止し、事後審判制度に導入し、この点では適正手続の保障の原則を考慮せず、先進国の流れと反対の対策を採っている。
この問題に関して、上記改正法に基づいて設立された内閣府の独占基本問題懇談会(座長・塩野宏教授)は2007年6月に報告書を公表し将来の問題として事後審判制度を事前審判制度に変更するよう提案している。
独占禁止法の適正な運用のためには、課徴金の強化拡大と審査審判手続の適正化の問題は表裏一体の問題であり、速やかにこの手続の適正化問題に対処する必要がある。この点は、独占禁止法の国際的ハーモナイゼーションの見地からも重要である。

平成22年公取同友会総会での挨拶

私は、今回の独占禁止法改正の中で、審判手続廃止の問題を聞いたときはびっくりしました。一昨年からこの問題は出ていましたが、それが現実化するということで非常に驚きました。これには、公正取引委員会の審査審判手続に対する非常に強い企業の不信感というものがあります。それがあって審判の廃止ということが出て来ているわけです。これは、公正取引委員会としては、審判の廃止という形式の問題ではなく、適用を受ける方に不信感があるということを十分知っておかなければいけないと思います。アメリカの場合、あれほど厳しいことをしても、産業界は独禁政策に対して、また、司法省やFTCに対して、信頼が強い。そういう面から言いますとこの問題は非常に重要な問題であり、慎重に考えるべき問題だと思います。私が公正取引委員会に入った頃の独占禁止法とは経済民主化政策ということであり、その内容は二つあり、一つは、 実体規定として、統制経済に対して市場経済を起こすということで、これは現在でも理解されています。もう一つは、手続規定として、処分する前に事前手続として民主的な手続があるということで、この二つから経済民主化政策と言われました。私は、これは非常に重要なことだと思っています。
(最近の公取同友会での伊従会長挨拶より抜粋)

平成21年7月10日第169回 月例研究会にて

お忙しいところ月例研究会にご出席いただきまして、ありがとうございます。新聞報道等で会員の皆様ご存知だと思いますが、独禁法の改正案が衆議院・参議院を通って成立しました。
主な改正点の1つは課徴金を強化していることです。カルテルの首謀者に対しては5割増ということで、10%の5割増、15%まで課徴金をかけるということが1つの目玉になっています。今回5割増にしたために、従来課徴金というのは不当利得の剥奪でした。

平成20年1月22日独占禁止法改正問題に関する意見

1. 排除措置命令・課徴金納付命令前の事前聴聞手続
(1) 問題の所在
 2005年改正独占禁止法は、執行力強化の観点から、違反行為に対して迅速に措置が採れるように、事前審判手続を廃止し、新しい排除措置命令制度及び課徴金納付命令制度を創設した。この制度にあっては、公正取引委員会は排除措置命令をしようとするときに名宛人に、あらかじめ、意見を述べ、及び証拠を提出する機会を付与することとしている( 49 条 3 項)。

平成19年12月4日第153回 月例研究会にて

今日は田村先生に「企業結合」の問題についてガイドラインを中心にお話頂きます。今はあまり新聞では取り上げられていませんが、 2005 年の改正ガイドラインを見直す問題が出ております。今年(平成 19 年) 6 月に、内閣府懇談会が 2 年間の検討の後に問題点を整理した報告書を出しております。今日の講演とも関係があると思いますが、この前の改正で、事前審判を廃止しています。

平成19年6月20日独占禁止法の基本問題に関する意見

1.事前聴聞手続の導入
 公取委の排除措置は営業の一部譲渡など構造的措置を含み、課徴金は数十億円に及ぶ場合もあり、また事実認定が重要であるので、公取委の一方的な判断で処分するのではなく、事前聴聞手続が必要不可欠である。 事前聴聞手続では、米国及びEUのように、手続の冒頭において審査官手持ち資料の完全開示(閲覧謄写)が必要である。 また、処分前に関係官庁との意見調整の機会を置く必要である(旧法60条・61条)。 改正前の事前審判手続は基本的に事前聴聞手続であった。

平成19年6月20日独占禁止法の基本問題に関する意見の説明

1. 事前聴聞手続の導入
(1)重大な行政処分(排除措置命令及び課徴金納付命令)をする場合に、被処分者の手続上の権利保護(防御権)を行政処分の前に図る必要があるが、現行の事前意見提出制度(49条5項)は防御権として不十分であり、これを事前聴聞手続に変更する必要がある。

平成19年3月14日第145回 月例研究会にて

最近、外国の法律事務所が日本にきて、独禁法の問題についても講演会を開くことが多くなってきています。2月にはイギリスの一番大きな法律事務所で、昨年の6月まで公取委の事務総長をしていた上杉さんが顧問として入っておられるフレッシュ・フィールズががヨーロッパを中心に独禁法の講演会を開いています。アメリカにはビンガム・マカッツェ・ムラセという法律事務所があり、戦後日本の企業が対米進出するときに世話になり、大使館や領事館もそこを使ってきており、ムラセという二世の方がいらして、日本の学校も出て日本語も達者な方がいらっしゃるのですが、3月に経団連で法令遵守の問題の対策について話をされ、また別の弁護士の研究会でもアメリカの最近の独禁法のことについてお話なされています。

平成19年2月15日第144回 月例研究会にて

独禁法関係の最近の話題について少しお話します。
  ご存知の通り、新聞記事にも出ましたが、公取委は1月31日付で合併のガイドラインの見直しといいますか、一部修正という形で改正案を発表し、意見募集をしております。昔は日本にはあまり合併問題というのはなかったのですが、最近は非常に多くなって、企業経営の一つのやり方として使われており、そのときに独禁法の問題が出てきます。今度のガイドラインで規制はかなり柔軟になってきておりますが、それでもやはりボーダーラインの問題をどうしたらいいかということで、企業活動とは関係があると思いますので、案をよくみて意見があれば弁護士とも相談して意見を言った方がいいと思います。

平成18年12月13日第143回 月例研究会にて

本日(12月13日)の新聞に液晶の国際カルテルについて、アメリカ、EU、日本、韓国の4カ国で共同して調査をしているという記事がありました。これは新しいやり方です。90年代の半ばから今までに約30件の国際カルテルが取り上げられていますが、国際カルテルは規模が大きいということもあって、ロッシュなどのケースではアメリカでもEUでも500億円の制裁金を課せられています。最近の独禁法の運用では非常に大きな特徴になっていました。それらの国際カルテルにはほとんど日本企業も入っていたのですが、日本では国際カルテルの事件は1件も摘発していません。そういう面でいいますと、公取委がそういうものに参加するというのは非常に新しいやり方といえるかと思います。

平成18年11月8日第142回 月例研究会にて

本日(12月13日)の新聞に液晶の国際カルテルについて、アメリカ、EU、日本、韓国の4カ国で共同して調査をしているという記事がありました。これは新しいやり方です。90年代の半ばから今までに約30件の国際カルテルが取り上げられていますが、国際カルテルは規模が大きいということもあって、ロッシュなどのケースではアメリカでもEUでも500億円の制裁金を課せられています。最近の独禁法の運用では非常に大きな特徴になっていました。それらの国際カルテルにはほとんど日本企業も入っていたのですが、日本では国際カルテルの事件は1件も摘発していません。そういう面でいいますと、公取委がそういうものに参加するというのは非常に新しいやり方といえるかと思います。

平成18年9月19日第140回 月例研究会にて

今日は松下先生に「日本企業の日本における米国企業提訴を禁止する米国判決」という標題でお話をいただきます。90年代は世界経済全体に大きな変動があり、冷戦終結後、東側が市場経済を採用いたしました。また、IT技術を中心にした技術革新も非常に進みました。運輸・通信の料金低下に伴って、グローバル化がどんどん進んでいきました。独禁法についても非常に大きな影響を受けていて、従来とは変わってきているわけですが、今日はその一端を松下先生からお話いただきます。

平成17年10月5日道路公団の談合事件について

新聞等で随分長い間騒がれました道路公団の談合事件についてですが、これは恐らく談合事件としては、今までで最大の事件だと思います。公正取引委員会が45社に対して排除措置をとるということと、公団の関係者、つまり発注者側の方にも、警告などをするという措置が発表されております。これからまだ事件は続くわけですが、私がこれらの事件を見ておりまして、どこかおかしいのではないかという気がいたします。

平成17年5月19日独占禁止法の改正法が成立して

独禁法についての環境は、やや長い目で見た場合に、最近変わってきていると思います。一つは国内でいいますと、90年代以来、規制緩和が進められて、いわゆる規制産業、電力、電気通信事業、運輸、金融といった面に対して政府の直接規制が緩和されて、競争法が適用されるということになり、競争法の国内での適用分野が広くなると同時に、実際に航空の問題についても電力の問題についても、独禁法を適用される事例というものが出てきております。

平成17年5月19日今回見送りとなった独占・寡占規制における不可欠施設の問題について

独禁法の独占・寡占規制における不可欠施設の問題の今後の見通しということですが、この問題は一昨年の平成15年10月の独禁法研究会報告書、これは改正のための報告書だったのですが、そこで出てきました。この中で、独占・寡占対策を今までの考え方とは別に、政府規制が緩和されたということを前提に、大企業、ことに規制産業における大企業を中心にというか、含めて、不可欠施設の問題を中心に独占・寡占対策を考えるという前提で、不可欠施設の問題を出しました。

 

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