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  • 2007/06/20
  • 独禁政策研究提言
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独占禁止法の基本問題に関する意見

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1.事前聴聞手続の導入
 公取委の排除措置は営業の一部譲渡など構造的措置を含み、課徴金は数十億円に及ぶ場合もあり、また事実認定が重要であるので、公取委の一方的な判断で処分するのではなく、事前聴聞手続が必要不可欠である。 事前聴聞手続では、米国及びEUのように、手続の冒頭において審査官手持ち資料の完全開示(閲覧謄写)が必要である。 また、処分前に関係官庁との意見調整の機会を置く必要である(旧法60条・61条)。 改正前の事前審判手続は基本的に事前聴聞手続であった。

2.軽微な案件に対する略式手続の導入
 軽微な案件等については、相手方が措置に応諾する場合には、事実認定と法律適用の承認を求めずに、略式手続を迅速に採れるようにすべきである。 米国法及びEU法では略式手続として同意命令が設けられ、多くの事件はこれにより解決している。 我が国の刑事手続でも略式手続が採用されている。 改正前の公取委の勧告手続は、略式手続であり、殆どの事件は勧告手続で処理されていた。

3.不服審判制度の問題
 正式処分をした行政庁が不服審理を行なうことは、審理の公正性・適法性の点からみて不適正であり、処分行政庁に対する不信感を抱かせる結果となる。 正式処分に対する不服の審理は、中立的な第三者の裁判所で行なうことが適切である。 不服審判制度と裁判所への出訴との選択制の考えがあるが、独占禁止法の重要規制対象であるカルテル・談合は複数の事業者の事件であり、同一事件が異なる機関で同時に審理されるのは適切ではない。

4.課徴金と刑事罰
 法人に対する制裁金として、課徴金は刑事罰金より高額にすることが可能であり、現に数倍以上に上る場合があり、二重制裁を避けるようにするためには、刑事罰を止めて課徴金一本することが制度的に適切である。 欧米でも制度的に二重制裁制度をとっているところはない。 しかし、現在違反に対する制裁がまだ低いとされている状況の下で、直ちに刑事告発を中止することは適当でない。 ただし、刑事告発が従たる例外的措置であることは明確にすべきである。

5.課徴金対象行為の拡大の問題
 価格協定に課徴金を導入した理由は、値上げカルテルなどで排除措置をとっても値上げされた価格は下がらず、排除措置が不十分でやり得になっていたからである。 私的独占などには営業の一部譲渡など構造的排除措置がとれるので、課徴金制度を適用する必要はない。 また、価格協定以外の事案では、「競争の実質的制限」、「公正競争阻害性」など要件が不明確な場合が多く、制裁の対象にするには不適当である。 米国では、「裸の(naked)協定」以外には刑事罰を科さず、排除措置だけで対処している。

6.審査手続
 違反事件の審査対象者は、米国法及びEU法の場合のように、審査の際に弁護士同伴が許容され、また審査時点において審査官に提供した資料・証言の写しを所有し、違反事件に対する防御活動の準備ができるようにすべきである。 また、審査活動は、基本的に被疑事実に関する質問と回答の積み上げにより客観的な真実の調査を行なうべきで、立入検査は必要最小限度にすべきである。 米国の連邦取引委員会には立入検査権限がなく、報告命令、出頭供述命令、資料提出命令で審査が行われている。

7.不公正な取引方法の問題(消費者・小規模事業者の保護の問題)
 不公正取引方法の実質的な要件は、「公正競争阻害性」で不明確であり、不明確な要件の下で課徴金を課すことは不適法である。 しかし、消費者の適切な商品選択を保護するための不当顧客誘引行為(「一般指定」8項・9項)の規制は重要であり、それを効率的に規制するために、「特殊指定」(2条9項:71条・72条)を活用し、手続を整備の上、規制対象行為を具体的に特定して、課徴金の対象とすることを検討する必要がある。 最も進歩的な消費者保護規制を行なっている米国連邦取引委員会は、このような「特殊指定」(取引規制規則)を活用して行政制裁金制度を活発に運用している。
 小規模事業者の事業機会を確保するため、「特殊指定」を活用し同様の方法により、不当廉売、優越的地位の濫用行為(下請法の問題も含む)の規制について、課徴金の導入を検討することが適切である。

8.入札制度の改革の問題
 独占禁止法違反事件で入札談合事件が日本の場合は過半を占めているが、欧米諸国では入札談合事件はまれであり殆どは価格協定事件である。 日本でも民間企業発注工事の入札談合事件は皆無である。 これは官公庁の公共調達制度である入札制度の欠陥によると考えられる。 複雑で高額の建設工事の発注について、総額一本の競争入札で調達すること自体が不合理である。 米国では連邦政府調達物資のうち競争入札で調達するのは25%程度で、後は競争的交渉方式といわれる競争的見積合せ方式である。 官公庁の物資調達方式を根本的に見直す必要がある。 官民癒着の問題は別途検討すべき問題である。

9.技術ライセンス協定指針の改定の問題
 技術ライセンス協定の指針が、日本、米国、EU等で出されているが、米国・EUの指針はライセンス協定が基本的に競争促進的であるとしているのに対し、日本の指針はライセンス協定の制限条項を競争阻害効果の見地を中心に検討しており、両者の間に基本的な格差がある。 これは現在公表されている改正指針原案でも同様であり、ライセンス協定の制限条項の検討の視点にライセンス協定の競争促進的評価を加えるべきである。 現在の競争は技術を中心としており、知的財産権とそのライセンス協定の尊重がダイナミックな競争促進のために必要である。

10.垂直的協定の規制問題
 独占禁止法の対象になる協定は、競争者間の水平的協定(横の協定)と取引先との間の垂直的協定(縦の協定)とに分けられるが、縦の協定には競争促進的側面が強いとして、それに対する法適用は、米国では70年代末から緩和され、EUでは90年代末から大幅な見直しが行われ、緩和されてきている。 米国では、現在連邦最高裁で下限再販協定事件が審議されているが、司法省はその法廷において、下限再販協定は消費者の商品選択における安全性や適切なサービスを維持するために必要な場合があるので、従来の「当然違法の原則」を「合理の原則」に変更すべきであるとの意見を提出している。 日本の場合、91年の流通指針は縦の協定に対して否定的な面が強いので見直すべきである。

11.日・米・欧の独占禁止法執行手続のハーモナイゼーションの必要性
 経済のグローバル化が急速に進展している現状において、日・米・欧も独占禁止法について、制裁金の強化やリニエンシーの導入だけでなく、その手続規定のハーモナイゼーションは喫緊の必要性を持っており、早急にその実現を図るべきである。

 

 

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