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  • 2007/06/02
  • 独禁政策研究提言
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独占禁止法の基本問題に関する意見の説明

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1. 事前聴聞手続の導入
 (1)重大な行政処分(排除措置命令及び課徴金納付命令)をする場合に、被処分者の手続上の権利保護(防御権)を行政処分の前に図る必要があるが、現行の事前意見提出制度(49条5項)は防御権として不十分であり、これを事前聴聞手続に変更する必要がある。
 (2)米国の場合は、「何人も、生命、自由、又は財産は、適正手続(due process oflaw)によらなければ、奪われない」という憲法5条の手続保障規定により、重大な行政処分についてはすべて事前聴聞手続が義務づけられている。 EUの競争法の執行手続においても被処分者の手続上の防御権として事前聴聞手続は義務づけられ、90年代に裁判所の判例で「武器平等の原則」により委員会資料の完全開示が義務づけられ、2003年に新しい法律が制定された(理事会規則03年1号27条)。
 (3)事前聴聞手続においては、聴聞主宰官の独立性、弁護士の立会権、審査官手持ち資料の全面的な開示(閲覧謄写)などが整備される必要がある(米国及びEUの法制ではこの点が完全に整備されている)。 独占禁止法の場合には、違反行為について処分する場合、違反行為の事実認定が重要であり、その事実認定では、暗黙の了解における合意の認定など極めて微妙な事実認定の証拠が必要なので、米国及びEUにおいては審査官手持ち資料のすべてを事前聴聞手続の冒頭で資料目録をつけて閲覧の機会を与えている。 そして、このことが争点整理と証拠調べの迅速化に役立ち、事前聴聞手続は原則として1年程度で終了する。
 (4)平成17(05)年改正前には、関係行政機関が行政処分前に意見調整をする規定が置かれていた(旧60条・61条)。 電気事業、電力事業、金融事業、運輸事業などでは安全その他の見地から多くの特別規制法があり、公正取引委員会の処分前に主務官庁との意見調整が必要である。 この行政調整は、処分後では無意味である。
 (5)事前手続導入の方法としては、現行の意見具申手続(法49条3項)の改正の方法と現在の事後審判制度(52条)を改正前の事前審判制度(旧49条)に戻す方法があり、いずれの方法でも良いが、その内容には上記(3)が必要である。
 (6)上記事前導入手続の導入は、経済のグローバル化に伴う独占禁止法の欧米諸国との法制の調和(ハーモナイゼーション)のためにも是非必要である。
 (上記の問題については、伊従寛、独禁法の事前聴聞手続に関する米国、欧州連合、及び日本の比較研究、国際商事法務35巻6号、2007年6月15日号参照)

2.軽微な案件に対する略式手続の導入
 (1)現行法はすべての独占禁止法違反行為に対して公正取引委員会の一方的な事実認定と法令の適用による正式処分(排除措置命令及び課徴金納付命令)だけであるが、行政処分の中核は措置を採ることであり、相手方が措置内容に同意する場合には、事案の性格によって、事実認定と法令の適用を承認させることなく、簡易な略式手続により措置を採れる制度を設けることが、行政処分の迅速化・効率化と行政負担の軽減の見地からも、また被処分者の行政への協力と負担の軽減の見地からも必要である。 これは、行政の選択肢を増やし、その効率性・民主化に貢献し、被処分者にも便宜である。
 (2)米国及びEUの独占禁止法違反事件処理手続では、略式手続として同意命令制度が認められ、多くの事件がこの制度の下で処理されている。 わが国の平成17(05)年改正前の勧告手続(旧48条)も略式手続であり、殆どの違反事件はこの勧告手続で処理されていた。 わが国の刑事手続においても略式手続が認められている。

3. 不服審判制度の問題
 (1)排除措置命令及び課徴金納付命令という正式行政処分が行われた場合に、現行法は不服審判制度を設けているが(法49条6項)、公正取引委員会が正式に最終決定をした行政処分に対して、同じ公正取引委員会の事務局職員がその行政処分の不服審理をするという制度は、その審理の中立性・公正性について疑問があり、被処分者の防御権として不十分であり、適切ではない。
 (2)正式の行政処分に不服のある者は、処分庁から独立した中立的な第三者である裁判所に出訴して、公平・中立的な審理を受ける機会をもつことは、国民の基本的な権利(憲法31条・32条)である。
 (3)行政処分の不服審理について、裁判所への出訴と公正取引委員会の不服審判制度の請求との選択制を採ることも考えうるが、独占禁止法違反行為の中核である「不当な取引制限」(カルテル・入札談合等)は、複数の事業者が処分対象になり、この事業者がばらばらに別の手続を選択した場合には審理は混乱するおそれがあって選択制は不適切であり、不服審判制度は廃止すべきである。
 (4)不服審判制度の方が公正取引委員会の専門性を活かせるという意見があるが、正式処分後は処分の合法性・適法性を中立的な第三者機関で審理することが適切であり、公正取引委員会の専門性は実態に即した事前聴聞制度とそれを前提にした審査活動において発揮できる性格のものである。

4.課徴金と刑事罰
 (1)課徴金と刑事罰の在り方については、課徴金の高額化と制裁的性格の強化により、二重制裁の問題性がより大きくなってきている。
法人の同一行為に対して制裁的性格の高額課徴金と刑事罰を併課することは、実質的に二重制裁であり、同一企業の同一の行為に対し同時期に性格の異なる2つの機関が別々の手続により、二重に高額な同一性格の金銭制裁を課すことは、被処分者の負担を必要以上に課すものであり、憲法違反のおそれがある上、違反事件処理手続として適切ではなく、企業に必要以上の過重な負担を課す。
 違反行為に対する制裁金が国際的に高額化し、それが要請されかつ我が国で刑事罰金の高額化が望めない状況の下においては、課徴金を制裁制度とし課徴金が課せられる場合には刑事罰が課されない制度にすべきである。
 課徴金導入時には課徴金は不当利益の剥奪で制裁ではないから、刑事罰との間で二重制裁の問題はないとしていたが、現在では課徴金は高額となり、制裁と説明されているので二重制裁である。 制度的に二重制裁制度を採っている海外法制はない。
 (2)課徴金制度を制裁金制度とする場合、裁量制度を導入し、基本的な裁量基準を法定し、事件の悪質性・重大性等を考慮できる制度にすべきである。
 (3)しかしながら、現在入札談合事件などの独占禁止法違反行為について社会的に強く非難されており、現在の状況の下で法人に対して刑事罰を科さないこととするのは適当ではないので、この問題は将来是正すべき問題とすることが適当である。 しかし、刑事告発を従とする運用方針を明確にすべきである。

5.課徴金対象行為の拡大の問題
 (1)昭和52(1977)年改正による価格カルテルに対する課徴金制度の導入は、石油危機の時に値上げカルテルが横行し、それに対して独占禁止法が積極的に適用されたが、値上げカルテルは、密かに行われ、利益が大きく、補足しにくく、しかもそれに対する排除措置をとっても値上げされた価格はそのままで、価格カルテルがやり得になっており、有効な排除措置がないので、価格カルテルに限って、課徴金を課すということが制度の導入理由であり、この経緯からいえば、価格カルテル以外の行為に対しては、排除措置で対応すべきであり、課徴金の対象とする必要性はない。
 (2)独占禁止法違反の排除措置には、営業の譲渡等「構造的排除措置」も含まれており(7条2項)、排除措置だけでは不十分で違反行為がやり得になることが明白になった場合に課徴金制度の導入を検討すべきである。
 (3)課徴金という制裁的性格の措置は、違反構成要件の明確な場合に限定すべきであり、米国では刑事罰の対象になるのは、「裸の(naked)価格カルテル」(値上げ協定など価格を直接対象とするカルテル)に限定され、他の目的の行為が価格に影響を与える行為については、それは刑罰の対象ではなく排除措置(会社分割などを含む)の対象になるだけである。 OECDなど国際機関などで強く非難されている「ハードコア・カルテル」は、「裸の価格カルテル」である。
 (4)我が国の独占禁止法違反の主要規定には、「競争の実質的制限」又は「公正競争阻害性」という中核要件があるが、その内容は価格カルテル(この場合には「価格に関する競争者間の合意」)以外の行為の場合には、極めて不明確、曖昧であり、制裁を課すのには不適当である。

6.審査手続
 (1)違反事件審査段階の審査対象者の手続上の防御権として、被審査対象者が、審査を受ける前に当該審査目的と審査対象行為が明確に告知されること、弁護士を同伴できること、及び提供した情報は提供の時点において提供者にその写し等により開示されること(これには証言供述者に証言させた場合に供述調書の写しの提供が含まれる)が必要である。 米国及びEUの法制ではこの点が整備されている。 審査対象者が審査対象時点で自己が提供した情報を所有できないことは、違反行為の被疑者の手続上の防御権は著しく妨げられる。
 (2)我が国では、ほとんどすべての違反事件について、審査手続の冒頭において立入検査(47条1項4号)が用いられ、マスコミにそのことが報道され、その後は予断を持った証拠集め(供述聴取)が行われる傾向があるが、本来違反事件の審査は疑いの程度に応じた質問と回答の地道な積み上げにより客観的に行なわれ、立入検査は違反容疑が強く、証拠が隠される等緊急の必要がある場合に限定されるべきである。
 (3)米国の連邦取引委員会は、立入検査権はなく、報告命令、出頭供述命令、資料提出命令により、基本的に関係者に対する質問と回答の積み上げ方式によって、客観的に審査を行っている。

7.不公正な取引方法の問題(消費者・中小企業の保護の問題)
 (1)不公正な取引方法の違反構成要件の中核は、「公正競争を阻害するおそれ」(公正競争阻害性)であって曖昧であるので、この行為に直接制裁措置をとることには反対であるが、一般消費者及び小規模事業者は独占禁止法の目的から考えても同法の主要は保護対象者であるので、以下の対策を検討することが適切である。
 (2)一般消費者の適正な商品選択の保護
 一般消費者保護の適正な商品選択の保護のためには、新商品の氾濫や多様な販売方法の横行の中で消費者の商品選択を歪める「不当顧客誘引行為」[不当表示など](「法2条9項3号:一般指定8項・9項及び景品表示法」の的確な規制が重要であり、また消費者の適正な商品選択は公正競争の基盤であので、その的確な規制が必要であり、そのためには具体的な規制対象行為を一定の手続の下で「特殊指定」をして特定し(2条9項・70条・71条:景品表示法4条1項3号)、この特殊指定違反に対しては課徴金(行政制裁金)の対象とし、違反行為のやり得を防止する必要がある。 特殊指定の手続については、下記FTC法を参考に整備する。
 世界で最も進んだ消費者保護法として、米国の連邦取引委員会法(FTC法)があるが、同法5条の不公正な取引方法の規制規定は抽象的で要件が曖昧なので、FTC法18条b項 [規則制定手続](Rulemaking Procedure)に基づき具体的な規制対象行為を特定する(definewith specificity)取引規制規則(Trade RegulationRule:日本の特殊指定)を制定し、この規則に違反した者には民事制裁金(civilpenalty)を裁判所に請求して課しており(FTC法5条m項)、また消費者損害の保障措置(consumerredress:FTC法19条)をとっており、この民事制裁金等による規制が米国消費者保護法の中心になっている。 規則制定においては、規則案の公表、利害関係者の意見徴収、公聴会開催、議会への届出、利害関係人の司法審査請求権等が定められている。
 (3)小規模事業者の適正な事業活動の機会の確保
 小規模事業者の適正な事業活動の機会の保護のためには、被害が大きい不当廉売及び優越地位の濫用行為(下請法の規制対象行為を含む)を効果的に取締ることが必要であり、そのためには「特殊指定」を活用し、規制対象行為を明確に特定して課徴金(行政制裁金)を課す必要がある。 その場合、上記(2)と同様に特殊指定手続を整備する必要がある。 不当廉売の規制は、まず小売業の場合を対象にすべきであり、その場合には昭和48年に公正取引委員会が作成し公表した「特殊指定案」(独占禁止政策30年史、376頁以下)が参考になる。
不当廉売規制は競争市場における小規模事業者の保護のために重要であるが、そもそも市場経済ではそれぞれの企業が採算を考えた価格で誠実に競争するのが原則であり、競争者の顧客を奪うため、一部の商品や特定の期間・特定の地域に限って採算を度外視して廉売する不当廉売が放置されれば、市場経済は成立しなくなるし、健全な社会にとって必要な安全や適正サービスへの配慮が阻害される。 不当廉売に対して制裁金が導入されれば、そのこと自体で不当廉売の抑止効果を持つ。 米国では州公正取引法で不当廉売(コスト割れ販売)に刑事罰を定めている場合が多い。 ドイツでは、1998年の独占禁止法改正で同法の中に不当廉売(コスト割れ販売)禁止規定を導入し(20条4項)、違反に対しては行政制裁金を定めている(81条1項1号)。
 (4)一般消費者及び小規模事業者は、不公正な取引方法により被害を受けた場合に、民事訴訟における差止請求や損害賠償請求の訴権を単独で有効に行使することが事実上困難な場合が多いので、一定の団体訴権制度を検討することは適切な措置であるが、その場合の条件は十分に検討する必要がある。

8.入札制度の改革の問題
 (1)現在入札談合行為が社会的に非難され、入札談合事件が独占禁止法違反事件の過半を占めているが、諸外国の独占禁止法の運用ではこのような状況はなく、また民間企業の入札談合事件も皆無であり、この問題の解決のためには我が国の官公庁の公共調達方法の見直しが不可欠と考えられる。
 (2)規格基準の明確な商品購入の場合には競争入札制度は適しているが、複雑で高額の工事のような場合に、単に総額一本の入札価格で競争させること自体適切とは言い難い。 しかも、最低価格提示者が確実に受注できるとなれば、入札価格は高額工事の取り合いのダンピング合戦となり、誠実な積算を根拠にした公正競争からは乖離し、またダンピング競争を避けるために談合を行う傾向が生じる。
 米国の連邦政府公共調達は、合衆国法典41巻に基づいて行われるが、それを調達額でみると、①価格競争型一般競争入札が行われるのは25%で、それは規格化された物資購入などについてであり、②38%は競争的交渉方式(数社に工事見積書を提出させ、価格・技術力・経営力・施行実績・価格などを総合的な判断により、納入元を決定する競争的見積合せ方式)であり、③残りの37%が中小企業の別枠入札、随意契約等による調達であり、連邦政府には調達政策を担当する特別の機構がある((建設経済研究所、第21次 海外調査(米国)報告書(概要版)、平成17年1月25日; 鈴木一、アメリカ連邦政府工事における調達手続きについて、建設マネジメント技術、2005年2月号)。 複雑な高額の工事については、米国の競争的交渉方式の方が一般競争入札制度より合理的であり、談合も行なわれにくい。 我が国でも、民間会社の調達(物資の購入及び工事の発注)では、競争入札制度は必要な場合以外に使われず、複数の事業者に対する競争的見積合わせが用いられ、かつ発注業務の監督が社内的に整備されているため、独占禁止法違反の談合事件は1件もない。 官公庁の公共調達方法の根本的見直しこそが必要である。
 (3)入札談合問題で非難されている主要な問題点は、官公庁と業者の癒着の問題であるが、それを避けるためには、発注官庁内に第三者的な専門的・中立的な委員会を設置し、そこが調達の監視と監督ないし受注元の決定を行う等の措置を検討する必要がある。 官公庁の調達方法を変えなければ、この問題は解決しない。 指名競争入札制度を一般競争入札制度に変えても問題は変わらない。
 (4)競争入札制度が採られそこで発注者側が談合の指示ないし示唆を与えた場合には、その談合は官公庁の職員が行ったものであるから、官製談合防止法を厳しく適用し、問題の根源を排除する以外に対策はないと考えられる。

9.技術ライセンス協定指針の改定の問題
 (1)現在の競争は技術により強く彩られ、競争の実態は実質的に技術競争である。 そこで、知的財産権と独占禁止法の運用の問題が極めて重要になってきており、日本、米国、EUなどで技術ライセンス協定に関する独占禁止法の指針が出されているが、日本の指針が米国及びEUの指針と大きく乖離していることは極めて問題である。
 (2)米国の95年の技術ライセンス協定指針は、知的財産権とそのライセンス協定が技術革新を刺激し、新製品の生産と販売を拡大し、ダイナミックな競争を促進する機能を持ち、独占禁止法と同様に経済効率を高め、消費者の利益の向上に貢献するとの基本認識を明記している。 そして、この基本認識に基づいて、ライセンス協定の制限条項について独占禁止法の適用を検討する場合に、価格協定や市場分割協定などに悪用する場合は別として、知的財産権とライセンス協定の競争促進効果を制限条項の類型別に具体的に指摘しつつ、それと競争制限効果の両者を比較考量して、独占禁止法の適用を一般の商行為における適用よりも緩やかにすることを明らかにした指針である。 EUの04年の技術ライセンス協定指針(委員会通達)も、基本的に米国の上記指針と同様である。
 これに対して、日本の平成11(99)年のライセンス契約指針は、ライセンス協定の制限状況を列挙し、それを検討する場合に制限条項のもつ競争制限効果の有無と程度の観点からのみ検討し、競争促進効果を評価していないので、独占禁止法の適用が一般の場合より厳しくなる適用指針となっている。
 (米国とEUの上記指針は、公取委のHPのリンクの最後のUN及びEUのHPから入手できる)
 (3)この平成11(99)年の指針の考え方は、平成19(07)年4月に公表された指針改正案でも基本的に変わっていない。 この指針及び指針改正案は、知的財産権とそのライセンス協定の振興にマイナス効果を与え、技術競争の促進に反するとともに、現在技術の交流のグローバル化が急速に進行しているので、この国際的な技術交流に支障を起こす要因になりかねない。 日本のこの指針を米国及びEUの指針と調和するように抜本的に指針を見直すべきである。

10.垂直的協定の規制問題
 (1)独占禁止法で競争制限協定を検討する場合に競争者間の水平的協定(横の協定)と取引先との間の垂直的協定(縦の協定)とに分けて検討するのが普通であり、独占禁止法は一般に横の協定に厳しく縦の協定に緩やかであるとされている。
 米国では、1977年のシルベニア事件最高裁判決で縦の協定のうち販売地域制限など非価格制限協定については従来の「当然違法の原則」の適用が「合理の原則」の適用に変更され、弊害がある場合だけ規制することとなって規制が緩やかになり、上限再販価格協定の場合も1997年のステート石油事件最高裁判決で「当然違法の原則」から「合理の原則」の適用に変換された。 現在、下限再販協定に関するブライトン事件(Leegin CreativeLeather Products v. PSKS,Inc)が最高裁で審議されているが、この事件の本年3月の最高裁法廷で司法省は下限再販協定についても「当然違法の原則」ではなく「合理の原則」が適用されるべきであると主張している。 その理由は、消費者の商品選択では、単に価格のみではなく、安全性やサービスなど価格以外の条件がますます重視されているときに、下限再販協定の「当然違法の原則」の下ではメーカーは安全問題や適正サービスの確保を配慮することが困難に生り、目先の安売りによって妨害されており、メーカー間競争が激化している状況下では、下限再販協定は弊害が明らかな場合にだけ規制することが適切であって、下限再販協定についても、上限再販協定に関する1997年のステート石油事件最高裁判決と同様に、「当然違法の原則」から「合理の原則」に変更することが適切である、としている。 また、別の最高裁判決(1919年のコルゲート判決:1984年のモンサント判決など)により、メーカーは標準価格を設定しそれを一方的に小売業者に遵守するよう要請し、小売業者がそれを自主的に遵守することは違法な合意には該当しないし、また標準価格を遵守しない廉売業者に出荷しないこともメーカーの「取引先選択の自由」の問題であって適法である、という原則(コルゲート原則)が確立している。
 EUにおいては、1997年のグリーン・ペーパー(COM(96)721final)で縦の協定の抜本的規制緩和方針が公表され、2000年に縦の協定の大幅規制緩和の委員会通達(OJ 2000C29/1)が出されている。 また、メーカーの小売業者に対する標準小売価格の遵守要請とそれに対する小売業者の遵守は、強制がない限り違法ではないとの判決があり(2003年のフォルクスワーゲン判決)、この点は米国の場合とほぼ同様である。
 (2)我が国の場合にメーカーが標準価格の遵守を要請し、それに応じて小売業者がその価格を遵守することの合法性が明確にされていない。 縦の協定における制限条項の合法性が明確にならないと、メーカーは商品の安全性や適切なサービス提供についての有効な規制策・長期的な販売政策を採ることに支障が生じるので、縦の協定を厳しく制限している平成3(01)年の流通指針の見直しが行われる必要がある。

11.日・米・欧の独占禁止法執行手続のハーモナイゼーションの必要性
 現在経済のグローバル化は急速に進行し、資本、商品、技術等の国際取引が活発化してきており、市場経済の基本法である独占禁止法については、制裁金の引上げやリニエンシーの導入だけではなく、その執行手続のハーモナイゼーションが急務となっている。 この点で以上の手続規定、特に違反事件処理手続(事前聴聞手続)のハーモナイゼーションの必要性は高い。

 

 

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