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  • 2008/01/22
  • 独禁政策研究提言
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独占禁止法改正問題に関する意見

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現在、独占禁止法改正問題が検討されていますが、この点について以下のように意見を提出します。

1.排除措置命令・課徴金納付命令前の事前聴聞手続
(1) 問題の所在

 2005年改正独占禁止法は、執行力強化の観点から、違反行為に対して迅速に措置が採れるように、事前審判手続を廃止し、新しい排除措置命令制度及び課徴金納付命令制度を創設した。 この制度にあっては、公正取引委員会は排除措置命令をしようとするときに名宛人に、あらかじめ、意見を述べ、及び証拠を提出する機会を付与することとしている( 49 条 3 項)。

 しかし、排除措置命令には事業者の「事業の一部の譲渡」( 7 条 1 項)や「団体の解散」( 8 条の 2)などの強力な措置が含まれる上、価格協定などの場合に同時に出される課徴金納付命令は百億円を超える場合も予想され、また排除処置命令に伴い、刑事訴追や損害賠償請求訴訟、株主代表訴訟などにより企業の存立が危機に瀕する場合に起こりうるのであって、このような相手方に対して重大な不利益を与える行政処分が行政官庁の一方的な審査に基づき、 1 回の意見陳述の機会を与えただけで、一方的に判断し処分される制度は適切とは言い難い。

 一方、行政手続法では不利益処分をする場合には原則として聴聞を行うこととされ(同法 13 条 1項)、被処分者の権利保護が尊重される必要があり、また米国及び欧州連合の独占禁止法の事件処理手続においても事前聴聞手続が確立されていることを考慮すれば、意見陳述権だけでは不十分で、「適法手続の原則」に立った被処分者の権利保護を目的として事前聴聞手続を採用することが必要である。この場合においても、迅速に行政措置がとれるよう事前聴聞期間は原則として 1 年以内に終了することとする。

(2) 聴聞手続の要件
 聴聞手続は、被処分者の権利保護の見地と適正な行政手続の保障を目的とし、被処分者に処分の内容とその根拠(違反被疑事実及び法令の適用)を事前に告知して、手続を開始し、次のことを要件とする。
1) 迅速な手続
 迅速に行政措置がとれるように、聴聞期間は原則として1年以内に終わるようにする。聴聞期間の短期化は、規制行政機関及び被処分者の双方にとって便宜であるばかりでなく、最近の弁護士は仮処分事件やM&A事件などで迅速な手続に慣れている。聴聞手続の短期間化は、手続の主宰者である公正取引委員会の責務であり、有能な聴聞官を整備する必要がある。米国及び欧州連合の聴聞期間も原則として1年である。
 「公正取引委員会は、2005年改正において制度依頼維持されていた事前審判制度を廃止したが、その理由は事前審判が5年から7年と長引き、審判後の行政処分(排除措置・課徴金納付)では効果的でないということであったが、これには一応の理由がある。しかし、審判手続は公正取引委員会又は審判官が主催し、審判手続は相手方の被審人が出席しない場合でも有効に開催できるという規定(旧52条の2)もあり、事前審判の長期化は公正取引委員会が改善すべき問題であったのであり、2007年6月の内閣府独占禁止法懇談会の結論も基本的には行政処分の事前審理手続を提案している。 問題は事前聴聞(審判)手続をいかに効率的に短期間内に実施するかである。米国でも欧州連合でも、事前聴聞手続きについて原則として約1年で終了させる手続をとっており、実際にも原則として1年程度で事前聴聞手続を終了させている。とくに、独占禁止法の規制対象は、「競争の実質的制限」という抽象的な規定の適用問題であり、競争の実態も複雑かつ流動的であるので、その規制手続においては事前聴聞手続で慎重かつ効率的な審理が必要不可欠である。ここで、事前聴聞手続を事前審判手続と呼ぶか否かは、特別の意味を持っていない。

2) 迅速な手続
 聴聞手続の公正性・公平性を保障するために、聴聞手続を主宰する聴聞官は審査に関係した部門(委員会を含む)から完全に独立した者であることを明文の規定で保障し、当該案件について審査官・委員会と一切協議しないものとする必要がある。

3) 被処分者の権利保障
 被処分者は、聴聞手続において弁護士を代理人として十分に主張・立証ができる防御権を保障する。

4) 審査関係資料の閲覧
(ア) 資料閲覧の必要性と範囲
 審査官が強制的権限の行使又はその背景の下で収集した資料は、すべて当該事件の適正な行政処分のために収集したものであるので、被処分者がその資料の閲覧・謄写を請求する場合には、被処分者の権利保護と適正な行政措置の保障のため、審査官が当該事件について収集した資料はすべて聴聞手続の冒頭に聴聞手続に参加した被処分者に閲覧させるものとする。この点は米国・欧州連合においても完全に実施されている。審査関係資料の完全閲覧は、「暗黙の了解」の下における合意の推認など極めてデリケートな事実認定のために必要不可欠であるばかりでなく、聴聞手続における争点整理と立証の迅速化に役立ち、聴聞期間の短期化に貢献する。事業者の秘密等は閲覧の除外とするが、その範囲は裁判所の司法審査を受ける。この関係資料の全面的な閲覧謄写の保障の下における審議を経た場合にのみ、法82条1号の「実質的証拠」の原則が適用されるべきである。
(イ) 第三者への閲覧
 審査関係資料は、公正取引委員会の適正な行政処分を行うために強制的権限を用いて収集された資料であるので、事前聴聞手続に実際に参加していない第三者には、少なくとも行政処分(審決)が確定するまでは閲覧させない。

5) 関係行政機関の意見陳述
 事業法又は規制法をもつ行政機関や公共的団体等は、当該産業に対する独占禁止法の運用により大きな影響を受ける場合があるので、事前聴聞手続において公益上の見地から意見を陳述し、必要な場合には手続に参加できるようにする(独占禁止法旧60条)。このことは行政措置が取られる前に行われる必要があり、行政措置が取られた後では意味がない。

6) 公正取引委員会の専門性
 公正取引委員会が独占禁止法及び独占禁止政策について専門機関といわれる理由は、産業界の競争状態について一般的な経済実態調査を行っていることのほか、最も重要なことは、独占禁止法の違反事件の正式処分において、適切な事前聴聞手続の下で経済・競争の実態に即して相手側及び関係者の意見を十分に聴取し、反論の機会を与えて、最終的に合議体である委員会の下で法律適用が行われることが保障されているところにある。
 この適切な事前聴聞制度の保障を前提に、審査官及び聴聞官は実態に即した専門的な審査及び聴聞を慎重に行うのであり、事前聴聞制度の保障なくして公正取引委員会及び事務局の独占禁止問題に関する専門性はないし、その専門性は育たない。現行の事後審判制度は、基本的に正式処分に対する不服審判であり、基本的に、すでに行われた行政処分に法律的な重大な瑕疵があるか否かが審議されるに過ぎず、実体に即した専門的な審議は行われ難く、この制度の下では、法律的な専門性はともかく、経済と競争の実態に即した法律適用に関する公正取引委員会の専門性は育たない。

(3) 緊急停止命令
 聴聞手続が1年以内に終了することを原則としていても、事案によっては長引く場合もあり、その他排除措置をとることが緊急に必要な場合もあるので、緊急停止命令制度(法70条の13)を活用する。

(4) 略式同意命令制度
 公正取引委員会の排除措置又は課徴金に被処分者が同意する場合には、聴聞前又は聴聞後において略式の同意命令がとれる制度を創設する。この措置は被処分者側にも規制機関側にも便宜な措置で行政効率を高める。米国でも欧州連合でも、この略式命令制度は頻繁に利用されている。2005年改正前の勧告手続(旧48条)は、この略式同意命令手続の一種であり、殆どの事件はこの略式手続で終了していた。

2.特定の不公正な取引方法に対する課徴金制度
(1) 趣旨
 不当表示、不当廉売、優越的地位の濫用などは、社会的に強く非難され弊害も顕著であるのに、排除措置だけでは不十分であってやり得になる傾向が強くなっているので、対象行為を具体的に特定して課徴金の対象にするが、行為を特定する手続は準立法行為になるので慎重にする必要がある。

(2) 不当表示

 消費者に被害を与える不当表示が横行しているが、景品表示法4条1項1号及び2号の不当表示規制の要件を簡素明瞭にすると共に、同条同項3号の指定制度を抜本的に改正し、対象不当表示行為を明確に特定して課徴金を課することにする。米国では、連邦取引委員会法5条で不公正な取引方法を抽象的な規定で禁止し、この違反については排除措置だけで制裁金を課せないが、連邦取引委員会は、同法18条により具体的な取引行為を指定する取引規制規則案を提示し、議会にも送付し、一般からの意見聴取や公聴会を通して規制を制定し、その規制に違反した場合には民事制裁金を裁判所に請求できることとしている(同法5条(m)項)。消費者に対する不当表示は、この規定により行政制裁金が課せられる場合が多い。

(3) 不当廉売及び優越的地位の濫用
 不当廉売・優越的地位の濫用は、中小企業の存立を脅かしているので、独占禁止法の「不公正な取引方法」の関連項目を同法2条9項に基づく「特殊指定制度」を活用し、慎重な意見聴取と公聴会を通して、規制対象行為を明確に特定して課徴金対象とする。
 不当廉売については、米国では州不公正取引規制法において罰則を定めて規制し、ドイツでは1998年の競争制限禁止法(独占禁止法)改正により不当廉売を同法の規制対象とし、行政制裁金を課すことにしている(20条4項)。優越的地位の濫用行為については、下請法の場合には親事業者に損害金を被害者である下請業者に支払わせており、この行為も特定して課徴金の対象とする。

3.私的独占[排除型]に課徴金を導入する問題
 私的独占に対する課徴金の導入は次の理由により疑問である。
(1) 課徴金制度が77年改正で導入されたのは、石油危機による物価狂乱の際に値上げカルテルが横行し、多数の値上げカルテルが摘発され排除措置命令が出されたが、値上げされた価格はそのままで価格カルテルがやり得になっていたこと、価格カルテルが密かに容易に行われてしかも捕捉し難いこと、価格カルテルに対しては調査時点で違反行為は止めており有効な排除措置がないこと、価格カルテルはもっとも悪質な独占禁止法違反と考えられていたことなどがその理由であった。私的独占の場合にはこのようなことはない。米国では罰金が科せられるのは裸の価格カルテルだけで、私的独占に対しては排除措置が取られるだけである。

(2) 私的独占は基本的に単独の企業の行為であるが、「排除行為」という漠然とした要 件で高額の課徴金がかけられるおそれがあれば、単独の企業の自由闊達な事業活動は萎縮し、競争はかえって抑圧される。

(3) 独占禁止法2条5項の「他の事業者の事業活動の排除」という要件は極めて曖昧で、正常な競争における「競争」は相互に相手の事業活動を「排除」する側面を持っているので、正常な競争と排除の区別が困難であり、このような行為に高額の課徴金を課することは不適切である。

(4)私的独占事件は、入札談合や価格協定に比べて極めて少なく、私的独占の概念も未だ明確ではないので、排除措置で当面対処し、排除措置では不十分であることが明らかになってから、課徴金の問題の検討をすればよい。私的独占の場合には、排除措置として「営業の一部譲渡」(7条1項)まで行えるのである。

(5) 現実的な必要性もないのに、重要な問題を観念論で対処すべきではない。

4.課徴金に対して上限を定めること
 2005年改正により課徴金率は、6%から10%に、累犯の場合には15%に引き上げられたが、これにより、場合によっては課徴金額が百億円を超える膨大な額になることもありうる。米国では違反行為に対する罰金額の上限は1億ドル、欧州連合では対象企業の1年間の売上額の10%までに制限されている。課徴金が制裁金的性格を強めてきているので、課徴金に上限を設定する必要がある。

5.正式命令に対する訴訟提起
 公正取引委員会が排除措置命令又は課徴金納付命令を行った場合には、命令の名宛人は裁判所に抗告訴訟を直接行うことができるようにする。現行の事後審判制度は、すでに署名押印した行政処分について同じ委員会が審理するもので、公平・公正な審理の保障はなく、むしろ公平・公正な裁判を受ける国民の権利を侵害する。すでに委員会が正式に認定した事実認定を事後的に同じ委員会の下で争うことは、被処分者にとって決定的に不利であり、争うのであれば公正な第三者機関である裁判所で直接争えるようにすべきである。 事後審判制度は、正式処分に対する不服審判であり、そこではデリケートな事実認定を争うことよりも法律適用に重大な瑕疵があるか否かが審議されるに過ぎない。
行政処分に対して出訴できることは、憲法 32 条「裁判を受ける権利」から当然である。

6.適法な審査手続のための保障
(1)独占禁止法の違反行為は、刑事事件の場合のように違反構成要件が明確ではなく、また対象行為は複雑で流動的な経済取引の中の問題であるので、独占禁止法の違反事件審査においては、次の点が保障されるべきである。とくに、課徴金事件が増えてきている最近では、審査官は 実体的真実主義に基づく客観的な実態の審査(刑訴法 1条参照)を行うより、一定の予断の下で一方的な証拠集めに注力する傾向があるので、次の保障は重要である。

(2) 審査官は十分に準備して誘導尋問を行う傾向が強く、尋問も一人に対して10時間を超える場合が少なくないので、尋問に際しては弁護士を立ち会わせることを認めるべきである。弁護士が尋問を不当に妨害する場合には弁護士は排斥される。

(3) 供述調書を録取した場合には、案の段階で相手方にその写しを手交し、帰宅して検討し修正できるようにすべきである。米国及び欧州連合では実施されている。

(4) 法47条1項3号で留置した書類については、早急に閲覧謄写できるようにし、審査段階での被処分者の防御権を保護すべきである。 同条同項同号による提出資料は、欧米におけるように、コピーで良いことにする必要がある 。

(5) 欧米で認められている弁護士と依頼人との間の情報交換の秘匿保護を保障すべきである。独占禁止法違反事件は経済問題であり、多くの問題について背景事情を含めて弁護士と相談する必要がある。

7.政府調達制度の見直し[入札制度の見直し
 政府の物資調達において、規格・銘柄等の明確な物資購入について入札制度によることは適正であるが、複雑で高度の技術を要する高額工事物件の購入を一片の総額のみの入札価格で決定することは不合理で適正ではない。ダンピング合戦になるか談合になる可能性が高い。米国では連邦政府の調達総額のうち競争入札制渡で行われるのは 25%程度で、その多くは規格の明確な物資の購入であり、技術的に高度な大型工事は積算資料に基づく競争的見積合せの方法によって調達されている。
  入札談合をなくし、適正な政府調達を確保するためには、入札制度の抜本的見直しと官民癒着の監視体制の整備が必要である。

8.違反事件処理手続等の国際的ハーモナイゼーションの必要性
 経済のグローバル化に伴って独占禁止法のハーモナイゼーションが必要になってきており、2005年の独占禁止法違反行為に対する課徴金の大幅引上げ,リーニエンシー制度の導入等も欧米の制度との国際的なハーモナイゼーションの見地から行われたが,事前聴聞制度等についても欧米制度とのハーモナイゼーションを早急にする必要がある。我が国は、独占禁止法制度の欧米とのハーモナイゼーションを進めながら,それをアジアで普及させ、独占禁止法制度の国際的発展、とくに違反事件処理手続の国際的調和を進めることが、これからの日本の大きな責務である。

9.メーカーと販売業者間の協力関係の促進
 消費財についてメーカー間のブランド間競争を促進するためには、メーカーとその販売業者間の協力関係を助長する必要がある。米国では、2007年6月、連邦最高裁が、ほぼ100年続いた再販売価格維持行為(メーカーが小売価格を固定する行為:再販)に対する「当然違法の原則」を「合理の原則」に判例変更し、再販が販売業者間又はメーカー間の価格協定の脱法とならない限り合法として、メーカーと販売業者の協力関係が推進できるようにした。この判例変更は、新しい経済状態が勘案されて行われている。したがって、この新しい状況を考慮して、ダイナミックなメーカー間競争を促進するため、我が国の再販規制に関する「一般規定」12項の見直しと、メーカーと販売業者間の協力関係を厳しく規制している公正取引委員会の1990年流通指針の見直しを行う必要がある。

 

 

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