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公正取引委員会が募集していた「流通・取引慣行ガイドライン」の一部改正(案)に、当協会会長 伊従寛が意見書を提出しました

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公正取引委員会事務総局 経済取引局取引部取引企画課 御中

「流通取引慣行ガイドライン」の一部改正(案)に対する意見
2015年3月6日
競争法研究協会
                                会長 伊従 寛

Ⅰ 表記問題検討の基本的視点:

1. 垂直的制限行為と企業活動

(1)垂直的制限行為の性格

「垂直的制限行為(協定)」は、企業(メーカー)にとって、自己の供給する商品(特に商標品)を最終需要者である一般消費者に販売促進するに当って、複雑な経済実態に対応しつつ流通業者との協力関係を構築し当該商品を一般消費者に商品情報を提供しつつ需要を開拓するための手段であり、基本的に需要の開拓・競争力の強化を目的としたマーケティングの基本的な手段である。垂直的制限協定の態様は、商品の種類とその市場の状況によって多様であるが、構造的なものとして販売地域制(テリトリ制)・専売制などがあり、特定商品銘柄別のものとして標準価格制(希望小売価格制)がある。販売地域制は、メーカーが多種類の同種ブランド商品の販売について特定地域の需要開拓を効率的にするため流通業者の販売地域を流通業者ごとに指定する販売方法である。専売制は、メーカーが多種類の同一ブランド商品を特定流通業者に専売し他の競合ブランド商品を原則として取り扱わせずその販売努力を特定ブランド商品に集中させ効率的な需要開拓をする制度であるが、これは同種類の同一ブランド商品が相当量になる場合に用いられる。自動車(乗用車)業界ではこの販売地域制と専売制の両者が用いられている。希望小売価格制は、メーカーが多種類のブランド商品について個別銘柄ごとに商品の小売価格を設定・表示して、その商品の品質・機能・付随サービスなどを包含した商品価値の情報を消費者に端的に提供する制度である。

垂直的制限行為(協定)は、いずれも個別メーカーが自己のブランド商品の需要開拓を効率的にすることを目的としたマーケティング手段であり、その制限の内容はブランド内の不統一の調整であり、その調整行為により当該ブランド商品の消費者需要の効率的拡大と他のブランド商品との競争に打ち勝つことを目的としているので、基本的に消費者利益指向型の販売方法であり、また競争促進効果をもっている。

この垂直的制限行為は、この目的及び効果の点から見て、ブランド間競争の制限を目的とした水平的制限協定と根本的に異なる。そもそも、垂直的制限行為は個別メーカーが流通業者と協力を緊密にしてそのメーカーの個別ブランド商品の販売促進を効率的に行って消費者利益の増進を図ることを目的としていると同時に、競争者に対抗する競争手段であるのに対して、水平的制限行為は複数の競争者間で価格等の競争を制限して、ブランド間競争を排除することを目的又は効果としてもつもので、値上げ協定のように「裸の価格協定」は明白な「水平的制限協定」であり、競争促進効果はない。この行為は基本的に反競争的であり、反消費者利益の行為である。両者は同様に「制限行為」と呼ばれているが、その制限の目的・性格は全く異なっている。前者は、ブランド内の競争を制限するものの、ブランド間競争の強化・促進を目的・効果を持つものであり、これに対して後者はブランド間競争の制限を目的・効果として持つのである。このことは、垂直的価格制限行為(協定)と水平的価格制限行為(協定)についても同様である。

(2)垂直的価格制限行為の競争促進効果――水平的制限行為との差異

垂直的価格制限行為は、再販売価格協定と標準小売価格制(希望小売価格制)とに分かれる。再販売価格協定は、特定の個別ブランド商品の再販売価格について、メーカーと流通業者の間において販売契約又は契約と同等の強制力(実質的に合意の場合である)でその再販売価格の遵守が組織的に拘束・強制されている協定(契約その他の共同行為)のことである。これに対して、標準小売価格制はメーカーが標準小売価格を設定し、この小売価格を流通業者に通知し、その遵守を一方的に要請する行為で、メーカーと流通業者の間には具体的な合意が存在せず、この遵守は契約その他により拘束・強制されていない要請・説得に止まる行為である。この問題を検討する場合にメーカーがブランド商品について小売価格を設定する経済的な理由を検討することが重要である。

現在は情報技術の核心及び経済のグローバル化によって、市場はボーダレスになり、潜在的競争者の新規参入も活発であり、ブランド間競争が極めて激しくなっており、以上のような垂直的制限行為によるブランド間競争の弊害の可能性は著しく少なくなり、反対に適切な垂直的制限が実施されなければ、有効な競争は行えない状況になってきている。
メーカーは品質・機能が高度であるブランド商品を販売する場合に、その商品の品質を向上するために素材・デザイン・容器・包装に至るまで細心の努力を傾け、宣伝広告によりその高品質を消費者に知らせて販売促進を図るが、これらの商品の複雑で高度な品質についてどのようにその商品の品質・機能などを説明しても消費者は判断することが難しく、それを端的に表現しているのは当該ブランド商品に表示された小売価格であり、消費者はこの価格に表現された価値を参考に当該商品の品質・性能等商品価値について他の同種又は類似の競争商品と比較して商品選択を行うのであり、この表示価格は商品選択の重要な商品情報である。メーカー側では既存の同種又は類似の商品との競争の中で新商品の価格設定をするので、それが既存商品より割高であればその商品は売れず、その商品に製造販売に要した費用は無駄になり、信用も低下し、経営上の打撃を受ける。したがって、メーカーは新製品を販売する場合に、既存の同種又は類似の商品と品質・機能を勘案し比較して実質的に高い価格を設定することは通常ありえない。このような意味で、ブランド商品の表示価格は消費者にとって必要な商品情報を得る重要な手段であり、またそれはメーカーにとっては消費者向けマーケティングの枢要な手段であって、消費者利益促進効果をもっている。また、メーカーの設定した適正な小売価格はメーカーと流通業者が当該ブランド商品に関する販売協力体制(販売組織)の形成に必要な相互信頼関係を構築する上で重要な機能を持っており、それは当該ブランド商品の販売組織の整備・強化のために必要不可欠であり、したがって垂直的価格制限行為は水平的制限協定とは性格が全く異なる、両者が同様に反競争効果を持つと考えるのは基本的に誤りである。垂直的価格制限行為は実質的には消費者志向型であり競争促進型の機能を持っている。とくに標準小売価格制は強い強制力がないので市場価格の影響を受けやすく、その消費者志向型及び競争促進型の機能が強く、消費者及び競争にとってマイナス効果を持つものではない。賢明な消費者は、メーカー設定の小売価格と販売業者が販売の便宜のために設定した価格との差異を認識し、メーカー設定価格を信頼して商品選択を行うのである。

(3)垂直的制限行為の濫用の可能性

垂直的制限行為は、垂直的価格制限行為を含めて、特定ブランド内競争を調整して他のブランドとの競争を効率的に促進するものであり、基本的にブランド間競争を促進しその競争を制限するものではない。しかし、市場力を持つ有力メーカーを中心に特定市場の殆どの企業が強固な垂直的制限行為を行っている場合には垂直的制限行為(価格制限・販売地域制限など)を悪用して特定ブランド商品間のメーカー段か又は流通段階の競争を制限する競争者間の協定を行う可能性がある。しかし、この場合にはその流通業者間の協定又はメーカー間の協定は価格カルテル・市場分割協定(水平的制限協定)として「不当な取引制限」(法3条)により規制すれば十分であり、垂直的制限行為はその違法な水平的カルテルの立証のための間接的な状況証拠として利用することができる。また、市場力が極めて強くメーカーが強力な販売組織を構築している場合に、その市場支配的なメーカーがその地位を利用して他の競争者の事業活動を排除する可能性もありうるが、この場合には「私的独占」に該当するので、その規定(法3条)で規制することができる。また、現在の経済実態は、情報技術革新と経済の急激なグローバル化の進展の下で市場のボーダレス化が進行し、消費財市場における競争は極めて激しいので、以上のような濫用が起こる可能性は1960年代に較べると極めて少なくなってきている。

2. 米国及びEU独占禁止法の垂直的制限行為の規制

(1) 米国独占禁止法

1890年のシャーマン法は17世紀に英国から継受したコモンローにおける「独占・取引制限違法原則」を制定法で確認し、その執行機関として連邦司法省とする法律であり、独占禁止法(反トラスト法)と称されている。垂直的制限協定は、水平的制限協定と同様に「取引制限協定」としてシャーマン法1条で規制対象となりブランド間競争を制限する契約又は契約と同視できる合意が規制対象とされている。

「垂直的制限協定」は、シャーマン法上合法との判例が当初出されていたが、1911年のドクター・マイルズ最高裁判決は、医薬品の販売契約の再販売価格拘束条件について、それがシャーマン法1条の「取引制限協定」に該当するとして「当然違法の原則」(per se illegal)を適用した。ドクター・マイルズ最高裁判決の再販契約に対する「当然違法の原則」の法律上の根拠は「所有権移転説」であった。この所有権譲渡説は、商品をメーカーが販売業者に譲渡(販売)した後はその商品の所有権はメーカーから販売業者に移転し、メーカーはその商品の所有権を喪失し、販売業者が所有権を獲得しているので、所有権を喪失したメーカーが所有権を獲得した販売業者に対してその商品の販売方法(再販売価格・販売地域など)を拘束する場合には、それは根拠のない拘束であり、相手方販売業者の自由な所有権行使の拘束となり、それ自体で競争制限となり違法であるとの考えである。上記最高裁判決の多数説はこの考えはコモンローの原則となっていることを根拠として「当然違法の原則」を適用した。この多数意見に対して、著名な法律学者でコモンローの専門家であるオリバー・ホームズ判事は、「コモンローにこのような原則はなく、ある商品の販売価格が適正か否かは裁判官より企業経営者の方が良く知っており、このような問題に裁判官が関与して違法とすることは適切ではない」との少数意見を付して反対している。また、1914年のクレイトン法・連邦取引委員会の制定に大きな貢献をし、後に最高裁判事となった著名な独占禁止政策推進者であるルイス・ブランダイスなどもこのドクター・マイルズ判決の「当然違法の原則」は競争秩序を混乱に陥れるとして公然と批判していた。このような状況の下で、州法で再販契約を合法化する動きが活発となり、その後再販を合法化する法律を制定した州は50州中40州となり、1937年にはミラー・タイディングス法が制定され、州法で合法化された再販契約は連邦法でも合法であるとされ、再販契約は殆ど無条件でシャーマン法の適用除外となった。また、1952年のマクガイア法は、合法な再販契約の再販価格を乱すアウトサイダーの廉売に対しては再販契約の当事者は廉売が合法な契約の破棄をもたらす不正競争として廉売業者の廉売の差止権を認めることとし、再販価格の遵守を正当化した。しかし、1960年になるとスーパーの発展が著しく、スーパーは廉売を活用し、それに消費者団体の支持が加わって、再販協定やその他の垂直的制限協定に対する批判が強くなり、1967年のシュヴィン最高裁判決は自転車販売における販売地域制限協定について「所有権譲渡説」に基づき「当然違法の原則」を適用した。また、1970年にはミラー・タイディング法などの適用除外法が廃止されている。

しかし、1977年のテレビ販売に関するシルベニア最高裁判決は、メーカーのテリトリー制に対して、この制度の下でメーカーは自己の市場シェア2%を5%に増やしており、ブランド内競争の制限がブランド間競争を促進し、経済実態からみてブランド間競争は制限されていないことが立証されており、この垂直的非価格制限協定はシャーマン法に違反しないとし、垂直的非価格制限協定に対する「当然違法の原則」の適用を廃止し、「合理の原則」(rule of reason)の適用に判例変更したが、その際にドクター・マイルズ判決以降「垂直的制限協定」禁止の法的根拠になっていた所有権譲渡説を詳細に検討し、コモンローにはこのような原則はなかったとした。米国ではこの判決以後「所有権譲渡説」を採用する判例はないし、学者もこの考えを採るものは殆どいない。

1981年に成立したレーガン共和党政権は、独占禁止法について経済実態に即して運用することを主張するシカゴ学派の考え方を採用し、複数の競争者間の水平的価格カルテルには「原則違法の原則」を適用し厳しく刑事制裁を科すが、合併規制・再販売価格協定などについては「合理の原則」を適用して経済実態に即して一定の関連市場において「ブランド間競争の制限」が証拠により実証される場合にのみ規制する方針を明確に宣言した。この方針の下で裁判所の判例も徐々に影響を受け経済実態に即して規制の是非を判断するように変化してきた。1984年の除草剤に関するモンサント最高裁判決及び1988年の電卓に関するシャープ最高裁判決は再販協定が違法になるためには当事者間の合意が具体的かつ明白に立証されなければならないとし、1984年の病院の麻酔師利用に関するジェファーソン・パリシュ高裁判決は、拘束条件付契約(抱合わせ契約)は市場シェアが30%以下の場合には「当然違法の原則」ではなく、「合理の原則」が適用され特定市場における競争制限を立証する必要があるとした。そして、2007年のリージン判決は、再販売価格協定について1911年のドクター・マイルズ判決の「当然違法の原則」を否定して「合理の原則」の適用に判例変更したが、この判決では判例変更の理由として、ドクター・マイルズ判決の法理的根拠となっていた「所有権譲渡説」は400年前の不動産取引に関する1学者の仮説であり、コモンローにはこのような原則は存在しないこと、経済学者の殆どは再販協定に競争促進効果があると認めていること、再販協定以外の垂直的制限協定はすべて「合理の原則」が適用されていること、「当然違法の原則」は「すべての場合又は殆どすべての場合に特定行為の競争制限効果が明確な場合」にのみ適用されるべきであるが、再販協定はそのような行為類型ではないこと、再販協定は1937年から1970年まではほぼ全面的に独占禁止法の適用除外とされていたことなどを理由として挙げている。再販協定はシャーマン法1条のほか連邦取引委員会法5条の「不公正な取引方法」として規制対象となるが、同法5条はシャーマン法で規制対象となる行為類型についてはシャーマン法と同様の要件で規制されるとし、この場合にいわゆる萌芽理論(違反行為を違反前の萌芽の「おそれ」の段階で規制できるという理論)は否定されている(1983年のガソリン添加剤控訴審判決・2008年のランバス控訴審判決等)。

「標準小売価格制」は、基本的にメーカーが流通業者に一方的に標準小売価格を通知しその遵守を求める者であり、当事者間に遵守の合意が成立していないため、そもそもシャーマン法1条の契約その他の合意(共同行為)には該当せず、メーカーは自己が製造・販売する商品について、その取引先を自由に選択しその取引先に対して販売条件を設定する自由「取引先選択の自由」をもっており、標準小売価格の遵守の要請・説得は基本的に合法である(1919年のコルゲート最高裁判決)。したがって、標準小売価格遵守の要請・説得などは合法とされている。また、シャーマン法1条は契約その他の共同行為であり、合意があることが要件になっているので合意に至らない流通業者の黙従(acquiescence)あってもそれは合意でないとされている。したがって、相手方である流通業者がメーカーの一方的な標準小売価格の通知・遵守の要望・説得などがあって相手方である流通業者がそれに黙従して当該価格が斉一になったとしても、標準小売価格制は原則的に合法である。すなわち、メーカーは自己が販売する商品について、営業の自由の観点から「取引先選択の自由」を持ち、 自己の商品を誰に売るか売らないかを選択する自由があり、また特定の販売業者に自己の商品を販売する場合に効率的な販売に役立つ条件を課すことも基本的に自由であるが、契約と同様の強制力を用いて小売価格を斉一にしてブランド間競争を制限する合意があると立証された場合に違法とされているのである。

(2)EUの独占禁止法(競争法)

EUは、条約101条1項で競争制限を目的又は結果を持つ契約その他の共同行為(concerted practice)を禁止し、同条3項で契約・共同行為が合理的で競争を促進し消費者に利益を与える場合を適用除外としている。垂直的制限協定は、水平的制限協定とともにこの条約101条1項で規制され、契約又は契約と同一視される合意が規制対象とされていた。EUはこの条文の運用のため101条3項に基づく垂直的制限協定の一括適用除外のための理事会規則及び委員会規則を制定しており、欧州委員会は判例法の発展や経済実態の変動を考慮して垂直的制限協定に関する詳しいガイドラインを(指針)を設定しているが、指針は通常10年単位で見直されている。

垂直的制限協定については、2000年の一括適用除外理事会規則により、原則として協定当事者の市場シェアが30%以下の殆どの協定(再販売価格協定を除く)を一括適用除外として原則合法とし(セーフハーバー:再販協定はこの対象とならず、個別審査案件となる)、一括適用除外とされない市場シェアが30%以上の垂直的制限協定及び再販協定については、条約101条1項及び3項の適用があり、その審査を受けるが、この場合欧州委員会は垂直的制限協定に関するガイドラインを公表し、一括適用除外されない個別の垂直的制限協定に関する具体的な検討方法を明らかにしている。この指針においては、協定を専売契約制・販売地域制など協定類型別にそれぞれの競争促進効果と競争制限効果を比較検討し、後者が前者を凌駕してブランド間競争が制限されることが経済実態に即して立証される場合に禁止されるとし、その合法の場合や違法の場合の具体例を示している。2010年の垂直的制限協定の新しい指針は、基本的に旧指針と同様であるが、新たに個別の再販売価格協定の検討方法を具体的に規定し、新製品の発売などの場合に再販協定は競争促進効果を持つことを合法の場合の具体例として明記している。

EU法では垂直的制限は契約又は契約と同視される共同行為に該当する場合が規制対象となり、契約又は契約と同一視されない標準小売価格制については、メーカーの要請・説得が契約と同視される強制にならない限り、その要請等により小売価格が斉一になっても違反とはならず(2003年フォルクスワーゲン一般裁判所判決・2008年の司法裁判所判決で支持)、原則として合法である。この場合、メーカーの標準小売価格に対する流通業者の黙従(acquiescence)があって価格が斉一になってもそれは合意ではなく、メーカーと流通業者の間に明確な合意がなければ合法である。
EUの独占禁止法による垂直的制限協定の規制は、基本的に米国法による規制と同様ということができる。

(3)日本の垂直的制限行為の規制

 1)規制法制(現在)

我が国では、現在、垂直的制限行為は、独占禁止法の下で「不公正な取引方法」として規制されている。再販売価格維持行為については、同法2条9項4号で定義規定が置かれ、他の垂直的行為については同条同項6号に基づく「不公正な取引方法」のいわゆる「一般指定」の10項が抱き合わせ条項、11項が排他的条件付き取引、12項が「その他の拘束条件付き取引」の定義をしており、同法19条は「不公正な取引方法」の禁止規定であり、同法20条がこの禁止規定に基づく排除命令を定め、同法20条の5は再販売価格維持行為に対する課徴金聴取命令を規定している。

 2)1992年「流通指針」による規制基準

公正取引委員会の1992年の「流通指針」は、「メーカーがマーケティングの一環として、流通業者の販売価格、取扱い商品、販売地域、取引先等に関与し、影響を及ぼす場合には、流通業者間の競争やメーカー間の競争を阻害するような効果が生じやすい」との基本認識を示し(「流通指針」第題2部1の冒頭文)その認識を前提に、「メーカーがマーケティングの一環として流通業者の販売価格を拘束することは原則として違法となる」とし(「流通指針」第2部第1の12(1)・同第1の2(1))、この場合「再販売価格の拘束」とは「何らかの人為的な手段を用いることによって、当該価格で販売するようにさせていること」としている(同第2部第1の2(2))。メーカーが設定する希望小売価格や建値は、流通業者に対し単なる参考として示されているものである限りは、それ自体では問題となるものではないが、参考価格として単に通知するだけにとどまらず、その価格を守らせるなど、メーカーが流通業者の販売価格を拘束する場合には、原則として違法となる」と規定している(同第1の1(2))。また、垂直的制限のうちの非価格制限行為(販売地域制限・取引先制限・販売方法制限など)については、「一般的に、その行為類型及び個別具体的なケースごとに市場の競争に与える影響が異なり」、「個々のケースに応じて、当該行為を行うメーカーの市場における地位等から、新規参入者など競争者を排除することはないかどうか、当該商品についての価格競争を阻害することとならないかどうかなど、市場の競争に与える影響から違法となるか否かが判断されるもの、及び通常、価格競争を阻害するおそれがあり、当該行為を行うメーカーの市場における地位を問わず、原則として違法と判断されるものがある」とし(同第2の1(2))、上記「市場における地位」にある「有力メーカー」と認められるかどうかは、「当該市場におけるシェアが10%以上、又はその順位上位3位内にあることが一応の目安なる」としている(同第2の2(注4))。

3)「流通指針」の問題点

「流通指針」の上記記述では、「垂直的制限行為」とくにそのうちの「再販協定」と「希望小売価格制」についてその「競争促進効果」を評価せず「競争制限効果」を強く評価して、この行為について「原則禁止」の違法性判断基準を設定していることは、消費財産業における前述の「垂直的制限行為」の経済的実態から著しく乖離している。メーカーの「垂直的制限行為」が現実の消費財産業において消費者に対する販売促進手段として行われている経済実態からすれば、この経済実態から乖離した「違法性判断基準」が消費財産業における自由な企業活動を制限し、競争を実質的に抑圧するものといえる。この点から見ると、規制改革会議が「流通指針」における「垂直的制限行為」の「違法性判断基準」を是正すべき「不当な規制」として指摘したことは正当である。「流通指針」は公正取引委員会の違反事件の運用基準であるばかりでなく、メーカーが社内で独占禁止法遵守のためのコンプライアンス基準を設定する時の重要な参考になるので、その企業活動に対する独占禁止法上影響力は極めて広範である。企業が法令遵守基準をする設定するときには弁護士に相談するが、弁護士はこの「流通指針」を基準にリスク回避の意見を述べるので、この指針は企業活動を極めて強く規制する結果をもたらしている。

4)標準小売価格規制に関する問題

再販売価格協定と類似の垂直的制限行為として標準小売価格制(推奨小売価格制・希望小売価格制)がある。再販協定が契約又は契約と同程度の強制力を持った行為であるのに対して、標準小売価格制は標準価格メ―カーが設定し、その遵守をメーカーが販売業者に遵守するよう説得し指導するメーカーの一方的な要請・推奨・指導行為である。標準小売価格制については、米国法もEU法も再販協定とは区別して「当然違法の原則」を適用したことはなく、両方とも垂直的制限協定については参加者間の合意が必要としているとして単なるメーカーの一方的行為は問題としていない。メーカーの「取引先選択の自由」の問題として「合理の原則」が適用され、競争促進効果と競争制限効果の両者が比較衡量され、後者が前者を凌駕し、ブランド間競争の制限が立証される場合に規制される。そして、標準小売価格制の下で小売価格が自主的に遵守され小売価格が斉一になったとしても合法である(EUの2003年のフォルクスワーゲン判決)。米国では、メーカーの要請・指導によって小売業者がその価格を自主的に遵守してもそれは合法であり(前記コルゲート判決・1984年のモンサント最高裁判決等)、またメーカー・販売業者間の合意が具体的な再販売価格についての明確な合意なければ違法にはならない(1984年モンサント最高裁判決・1988年のシャープ最高裁判決)。米国及びEUではメーカーはこの標準小売価格制が利用されている。

我が国の垂直的制限行為の規制では、両者は「再販売価格維持行為」として規制され、再販売価格協定と標準小売価格制の区別が不明確であり、通常独禁法違反とされる再販売価格維持行為は、メーカーが標準小売価格を設定しその遵守を要請・説得したことを再販売価格協定事件として規制している。「流通指針」における違法性基準である「何らかの人為的手段によって、当該価格で販売するようにさせている場合」(「指針」題2部第1の2②)には要請・説得が含まれると解されている。企業が垂直的制限行為について、コンプライアンスのため弁護士に相談すると弁護士は「流通指針」のこの条項に基づいて要請・説得などは違反のおそがあるとアドバイスするのが通常である。標準小売価格については、米国法及びEU法のように、参加者間に合意がなく、その遵守の推奨・要請・説得などのメーカーの一方的な行為が合法であることを明記する必要がある。

 5)「流通指針」の違法性判断基準の問題点

独占禁止法の「不公正な取引方法」の公正取引委員会の基本的な違法性判断基準は、「公正競争阻害のおそれ」であるが、この基準自体に問題がある。「公正競争阻害のおそれ」という要件は、独占禁止法上「不公正な取引方法」の指定要件であり、指定された「不公正な取引方法」ではいずれも「不当に」又は「正当な理由がないのに」という要件が規定されており、この要件は独禁法第1条の目的規定から解釈される必要がある。今村成和教授は、この要件は「公正競争秩序を侵害するおそれが客観的に認め得る」場合と解され(独占禁止法(新版)99頁)、また「拘束条件は、主たる取引条件に付随する従たる条件であるのを特徴とする。通例、継続取引における契約の内容をなすもので、競争秩序に悪影響を及ぼすときに、不当な拘束条件となる」と述べ、「拘束条件」自体は通常の経済行為であり、その不当性(「不当に」・「正当な理由がないのに」)は法第1条の目的から判断されるとしている(独占禁止法入門[4版]146頁)。「流通指針」等で垂直的制限協定を不当拘束条件付取引と総称していることから、「拘束」自体が不当であるかのように解されていると考えられるが、今村教授が指摘するように、「拘束」自体は通常の経済行為である。企業の事業活動の基盤である契約自体が企業間で相互に契約内容を遵守する拘束行為であり、その拘束は経済活動の極めて通常な行為であって、この相互拘束である契約に基づいて企業はリスクを相互に分担して事業活動を行い、競争もこの契約を基盤にして行われているのである。拘束自体に悪性はなく、悪性は「不当な拘束」であり、この「不当な」は独占禁止法の目的から前述のように解すべきである。
再販売価格維持協定は、昭和28年改正前は旧第4条1項により「共同行為」として規制されていたが(昭和25年バター再販売価格協定事件審決等)、この場合同条2項では「一定の取引分野における競争に対する当該共同行為の影響が問題とする程度に至らない場合には、これを適用しない」と明記されており、特定市場におけるブランド間競争の制限を規制基準としていたのであって、拘束の程度は何ら問題ではなく、違法性基準は第3条の「不当な取引制限」と同種の要件である。
以上の点から考えて、垂直的制限行為の違法性判断基準として「公正な競争を阻害するおそれ」という規制機関に裁量権を供与するような抽象的な基準に基づいて、特定市場の「ブランド間競争の制限」の立証が行なわれない垂直的制限行為まで規制することは適切ではない。

 6)米国法及びEU法との比較

以上の我が国の「流通指針」における垂直的制限行為の規制は、前述の米国法及びEU法の規制に較べて以上に厳しい規制となっている。米国法及びEU法では、規制対象となるのは契約又は契約と同等の強制力を持つ合意(concerted practice:共同行為)であり、垂直的制限行為の違法性判断基準は「ブランド間競争の制限」であり、ブランド内競争制限効果はこのことを検討するための考慮事項の一つに過ぎず、それ自体を規制対象とすることはない。米国及びEUの垂直的制限行為の規制は、いずれも特定市場におけるブランド間競争制限効果の立証を必要としており、その根拠規定はいずれも競争者間の価格協定の規制と同一条文で規制されており(米国はシャーマン法1条・EUは条約101条)、垂直的制限協定の競争促進効果と競争制限効果の両者が比較検討され、後者が前者を凌駕することが立証された場合に規制される。
以上の点は標準小売価格制において特に乖離が大きく、米国法及びEU法では、メーカーの一方的な標準小売価格の設定・通知は規制対象外であり、その小売価格の遵守の要請・説得も契約と同様の合意にならない限りは合法である。我が国の場合には小売価格の遵守の要請・説得等は「何らかの人為的手段を用いることによって、当該価格で販売するようにさせている場合」に該当する人為的手段と解され、規制の対象となり、その場合も「ブランド間競争の制限」に至らなくとも規制されている。

3.「流通指針」による弊害の例

「流通指針」による再販売価格維持行為の厳しい規制の経済実態的な弊害を見るためには、標準小売価格制が適切に維持されている我が国の自動車業の場合と標準小売価格制が崩壊した家電業界を比較検討することが良いと考えられる。

1) 我が国の自動車産業は、この欧米の垂直的制限協定の規制制度、特にEUの自動車産業における垂直的制限協定の一括適用除外規則を参考にして専売制・テリトリー制などをメーカー・ディーラー間の販売契約で定め、標準小売価格を推奨する方法が用いられ、標準価格は各社の車種ごとに基本的に斉一になっている。EUの独占禁止法では、高度に技術的で安全性が要請される自動車については、1980年代から一般の垂直的制限協定よりもより明確な一括適用除外が認められている(現在は2010年のEU自動車一括適用除外規則・指針)。この規則・指針の下でEUの自動車メーカーは選択的販売制度・専売制・販売地域制などの適用除外となる垂直的制限行為をメーカー・ディーラー間の契約書で定め、その契約とは別にメーカーは標準小売価格をディーラーに指示しその遵守を要請することとしていた。この制度の下で特定ブランドの自動車の小売価格が斉一になってもそれは明確な強制がない限り合法であることは判例により確認されている(2003年のフォルクスワーゲン一般裁判所判決)。米国でもほぼ同様の状況にあり、自動車メーカーは特定の時期には標準価格を変更し又は一定の値引きを許容し、需要開拓や競争の対応している。
我が国の自動車産業は、このEU及び米国の垂直的制限協定の規制を良く習得しそれを参考にして垂直的制限行為を実施し、標準小売価格制度が適切に運営されていた。この標準小売価格の表示・広告面での適正化の活動は、自動車公正取引協議会(1970年に景品表示法により公取委の認可の下で設立)が適正に運営して来ている。この制度の下で、一般消費者は複数の競争事業者の車種別の標準価格・品質・機能・サービス等を十分な広告により比較検討して自動車の選択ができたし、自動車産業の競争は国内及び海外で活発に行われ、消費者はこの競争の利益を享受している。消費者は新たに特定銘柄の新車が出ると、その標準小売価格を参考にして機能・デザイン・乗り心地などあらゆる点を詳細に点検し、他の競争車種とも詳しく比較して選択する。この小売価格は安定しており値引きは極めて限定されているので、消費者は買い控えることなく競って早く購入しようとし、メーカーも新車については新聞・テレビ・チラシ・販売店の職員の説明などあらゆる媒体を動員して強力に広告して新車の機能をアピールして新車の情報は消費者に十分に提供され、消費者の商品選択の参考にされるのである。標準小売価格は、この消費者の商品選択に当って中核的な基準となっている。自動車メーカーは流通業者と一体となってこの需要開拓に効率的に対応しその販売組織はメーカー別に強靭に育成されているが、そこではメーカーの設定した標準小売価格が流通業者において十分尊重され、その維持の必要性も認識され、標準小売価格化は重要なメーカーと流通業者との協力手段であり、消費者からも信頼されており、それは競争の強力な手段となっている。このような安定した標準小売価格制の下で自動車産業の激しい競争が維持促進されており、この競争の下で我が国の自動車産業は国内及び海外で競争的に発展している。

2) これに対して、我が国の家電産業の事情は全く異なっている。これには若干複雑な背景事情がある。政府は、1990年の日米構造問題協議の結論にしたがって、「政府規制の緩和」と「独占禁止法の執行力強化」の方針を明らかにした。公取委は、カルテル規制を強め、またカルテル等の適用除外制の見直し方針を明らかにし、その方針の一環として91年7月に「流通指針」を設定したが、それとは別に独占禁止法の適用除外の見直しを進め、これには再販協定の適用除外の解消も含まれていた。1992年4月、1973年の再販協定の適用除外制度の商標品の指定品目の大幅縮小に際に暫定的に残っていた指定品目の全廃を決定し、同時に著作物再販の適用除外の検討方針を明らかにし、94年9月に公正取引委員会の「政府規制等と競争政策等に関する研究会」の下に「再販問題小委員会」が設定されて上記著作物再販制の検討を具体的に始めた。同小委員会は95年7月著作物再販制度の全廃を提言した。この中間報告書に対しては関係業界から強い反対が起こり、その後その見直しの検討が行われ、98年に最終報告書の公表の後、2001年3月公正取引委員会の最終見解が公表された。その結論は、競争政策の見地からは著作物再販制度は全廃すべきものであるが、この制度は「文化の振興・普及」と関連する面があるので廃止に反対する意見も多く、当面同制度を存置することとし、現行制度の下で可能な限り運用の弾力化等を勧めるとし非再販商品の発行、各種割引制度の導入等が求められ、「公正取引員会としては、今後とも著作物再販制度も廃止について国民的合意が得られるよう努力を傾注する」とした。この方針の下で,著作物産業界以外の一般消費財産業における再販規制も強化されることとなった。
 当時、家電業界では、二重価格表示(標準小売価格と廉売価格とを併記して廉売を強調する表示)が横行していた。この二重価格表示について、メーカーが解消努力をしないと景品表示法の「不当表示」に該当するおそれがあり、メーカーが長期間二重価格表示が行われその乖離が15%以上のものが全体の3分の1以上あるいは20%以上のものが全体の2分の1以上となった場合には希望小売価格を引き下げるなどの措置を取らなければ、不当な価格表示になる恐れがあるとの基準を公取委が示す(46通達・1971)という対策を「家電公正取引協議会」で講じてきたが、、この「不当表示」防止対策が今度は再販協定に該当するおそれがあるという問題が生じたのである。これは「流通指針」における「メーカーの示した価格で販売しない場合に何らかの人為的手段を用いることによって、当該価格で販売するようにさせている場合」(指針第2部第1の2(2)②)が「再販売価格の拘束」に該当するおそれがあるとの指摘がされ公取委は2000年に46通達を廃止した。
家電業界は、このような状況の下に、2000年代に入り、標準小売価格制を廃止してオープン価格制に移行する動きが急速に進んだ。また、これより以前携帯電話の希望小売価格制が採られてそれを大幅に値引きされているのを是正する行為が再販売価格維持行為として独禁法違反事件として規制されている(1999年12月の携帯電話事件審決)。
以上の「流通指針」の基づく独禁法の運用の下で、家電業界等では2000年代には標準小売価格制を廃止し、オープン価格制を採らざるを得ない状況になり、殆どの家電製品・電子製品についてオープン価格制に移行し、標準小売価格制は事実上なくなった。オープン価格制の下ではメーカーの販売促進努力は卸段階・量販店段階にまで集結し、その後の一般消費者段階への販売促進活動は卸業者・家電量販店が行うことになった。それより重要なことは、量販店等の一般消費者向け需要開拓は、「おとり廉売」(特定銘柄、とくに品質・機能で著名な銘柄商品について故意にコストを割った値段で販売し、その廉売によって客引きし、この店は安いという印象を買い手に持たせ、他の商品を買わせるための販売方法)を含めて廉売競争に集中し、また「他の店で安い価格があればその価格と同じにします」という廉売方法もとられ(本来小売店は、取り扱う製品の品質・機能等を吟味して適切な利益を上乗せして採算のある価格を設定し、その価格を相当期間は維持して販売するのが通常である)、商品別の品質・機能・サービス競争などは軽視され、消費者も低価格中心の商品選択になる傾向が生じた。このような状況の下で、メーカーの一般消費者向け広告・情報提供活動は弱体になり、メーカーの開発商品は、量販店が消費者に販売しやすいような廉売用の商品になりがちであり、ひいてはメーカーは製品に関する消費者からの自社製品に関する情報不足になり、このような傾向はメーカーの製品開発や技術改良にもマイナスの影響を与える。さらに、標準小売価格制は、ブランド商品の販売組織の形成に重要な措置であるが、この標準小売価格制の廃止は、メーカーの消費者に至るまでの強靭な販売組織の形成を困難にすることとなり、このためメーカーは国内で廉売競争に曝されるだけでなく、外国の競争者と国際競争上不利にたたされることになる。

2012年に起きた家電メーカーの経営悪化は、テレビの地デジ化による需要の反動もあるがそれだけでなく、このようなオープン価格制移行による家電製品価格の崩壊が重要の要因となり、家電メーカーの国際競争力弱体化の実態が急に出現したと考えられる。以前に自動車業界と並んで日本産業の花形産業であり、国際競争においてもリーディングであったエレクトロニックス業界は、現在自動車業界と対照的に不振な状況に陥っているが、その重要な要因にはエレクトロニックス業界が標準小売価格制を廃止してオープン価格制に移行したことがあると考えられる。

技術的に高度で品質・効能が重要で実質的な商品内容の把握が困難なブランド品の場合、メーカーの設定した標準小売価格に基づいて消費者はその商品の品質・機能・サービス等を検討して商品を選択し購入するのでこれに対応して商品開発・技術開発が行われる、この意味から標準小売価格制度は消費者志向的であり、また広告宣伝とも有機的に結合して競争促進的である。メーカーは、強力な競争品が存在するので不当に高い価格を設定することは通常はありえず、また標準小売価格は契約等で強制できず大型小売店の廉売等に曝されて通常市場価格から若干乖離するのが通常であり、メーカーは市場価格から乖離した標準小売価格を設定することはできない。この点から考えて、標準小売価格制は現実の経済実態からみて極めて競争促進的で消費者利益に資する制度であり、競争制限的な弊害の少ないものである。

以上の廉売において、家電量販店の「おとり廉売」(特定著名銘柄の家電製品をコスト割れで赤目玉商品として積極的に廉売して客寄せを行い、その店の製品が安いとの印象を与えつつ他の銘柄商品も販売する方法で欧米諸国では不正競争とされ、米国では州法で規制されている。)などの廉売行為が行われ、また「他店に安い価格があればその線まで安くします」などの不正廉売が横行しているが、本来小売店は消費者の見地から品質・機能等を点検し採算性を考えて価格設定を行うべきで、その価格は一定期間は維持されるのが原則である。家電量販店は、メーカーの標準小売価格を自己の「不当な二重価格表示」の道具として利用するばかりで、その標準小売価格を当該銘柄の指導価格として全く尊重しない政策をとっていたのであり、この点を是正する必要があり、最終的には家電メーカー段階の壊滅的な打撃により自己も壊滅的な混乱に陥ったのである。家電量販店においてもまずメーカーの標準小売価格の尊重が行われ、その上に立って廉売が行われるべきであり、「おとり廉売」などは自らこれを排除することが望ましい(売れ残り商品などの見切り販売などはそのことを明記させて廉売する必要がある)。

4.規制改革会議の第2次答申における垂直的制限行為の規制の問題点指摘

平成26年6月の規制改革会議の第2次答申が独占禁止法による垂直的制限行為の規制の在り方(「流通指針の違法性判断基準」を不当な政府規制の排除の観点から問題のある基準として指摘したことは、上述の1から4までに述べたことからみて適切である。同答申は、経済実態からみれば、垂直的制限行為には競争促進効果と競争制限効果の両者が混在し、競争制限効果が競争促進効果を凌駕することが立証されずに同行為を規制することは、競争促進行為を抑圧するもので緩和の対象となる政府規制であるとしている。公正取引員会は、政府規制緩和政策について1978年のOECD競争政策委員会の政府規制緩和勧告に基づいて積極的に推進してきたところである。規制改革会議の上記答申が公取委の「流通指針」に基づく垂直的制限行為の規制の運用指針が是正勧告の対象としたことは、その規制が競争制限に当ると考えられたのであり、極めて重要である。「流通指針」の垂直的制限行為の規制について経済実態に即した観点から見直すことが必要である。流通実態に深くかかわる行為について、抽象的な「公正競争の阻害のおそれ」という基準を概念的論理により解釈して指針とすることは危険であり、経済実態に即して行為を詳しく分析して指針を設定する必要がある。上記第2次答申は、公取委が「競争制限のおそれ」の見地から規制することはもちろん、その指針等で「競争制限のおそれ」という抽象的な概念ではなく、垂直的制限行為の競争促進効果と競争制限効果を経済実態に即して具体的弊害を把握・立証して規制するようにして、具体的な競争制限効果を排除しつつその競争促進効果を持つ垂直的制限行為を企業がより活発に自由に行えるようにすることを求めているといえよう。垂直的制限行為の競争促進効果を抑圧する規制が排除されるべき政府規制であり、この側面の独占禁止法の運用の改善、「流通指針」の改定を求めたのである。政府規制の緩和と独占禁止法の目的は、競争政策の推進という点で同一の視点に立っていることに注目する必要がる。公正取引委員会は「流通指針」を改定するばかりでなく、その運用においても「垂直的制限行為」については競争制限効果の実害を証拠により立証してその弊害是正を行う必要があり、それに基づかない規制は競争を抑圧する効果を持つものであり、形を変えた政府規制である。

5.今回の「流通指針」の見直しの評価

今回の「流通指針」見直しの方向は、上記規制改革会議の第2次答申に基づくものであり、上記垂直的制限行為の規制緩和の方向の措置として評価できるが、今回の案では未だ不十分であることは上述の問題点検討から明らかであり、以下その具体的な意見を述べる。

Ⅱ 「流通指針」の別添「改正案により明確化する事項に対する意見

1.「第2 垂直的制限行為に係る適法・違法性の判断基準

(1)第2の1前文

前文の「独占禁止法は、・・・」以下の文章を「独占禁止法は、公正競争秩序に対する侵害行為の排除を目的としているので(法第1条)、垂直的制限行為の競争促進的効果と競争制限効果を比較検討し後者が前者を凌駕して当該特定市場におけるブランド間競争が制限されることが証拠により立証できる場合に禁止するものとする。垂直的制限行為のブランド内競争の制限効果は、それ自体としては規制基準と関係がなく、その効果がブランド間競争制限に対してどのような効果を持つかで判断され、ブランド内競争の制限効果自体は独占禁止法の基準にはならない。また、ブランド間競争の制限については潜在競争者の競争圧力も考慮する。」に変える。上記基準は、米国法及びEU法の基準と実質的に同様のものであり、経済のグローバル化の急激な進展が行われている現在の経済実態に即した基準である。
修正理由: 原案では基準は曖昧であり、規制機関の裁量が大きく、垂直的制限行為のブランド間競争の促進効果を抑圧するおそれがあり、規制基準を同行為の「ブランド間競争を制限する場合」に限定する必要がある。通常、垂直的制限行為はブランド内競争の制限を伴うが、そのブランド内制限が通常はブランド間競争を促進するのであり、規制基準はあくまで「ブランド間競争の制限」である。ブランド内制限自体は独占禁止法の問題ではなく、ブランド間競争に対する影響が問題なのであり、この点が今回の基準改正の最重要問題である。

(2)第2の1の①~⑤

上記基準の考慮事項であって基準でないことを明確にし、それがブランド間競争に与えることを考慮要因とする。

(3)第2の2

ここでは垂直的制限効果がブランド間競争の促進になる例を記載すべきである。

(4)第2の3

非価格制限行為は効果的な需要拡大を目的としているので、まずそのブランド間競争の促進効果の事例を掲げ、その後その制限効果の出る場合を記載することが適当であろう。

(5)第2の4

垂直的制限行為はブランド内競争の制限であり、そのブランド内競争の制限がブランド間競争を促進するか否かが問題であるので、ブランド内競争の制限自体を問題にするような記載は止めるべきである。
2.第4
5行目の「競争促進効果・・・」を「通常、ブランド間競争を促進することを目的としており、商品を取り扱う…」に変える。

3.第5
   全文を削除し次の文章を入れる。
「正当な理由がないのに」とは独占禁止法1条の目的からみて「競争秩序への侵害」であり、「ブランド間競争の制限」であって、このことは米国及びEUの独占禁止法でも当然の原則であるので、現在の「再販売価格の規制」における要件としてはこの第5の説明は不適切であり、上記のように改善する必要がある。なお、この点は、「一般指定」の10項~12項までの広義の「拘束条件付取引」の場合も同様であり、「垂直的制限行為」のすべてに適用される。

Ⅲ 「流通指針」に関するその他の意見

(1)独占禁止法第1条の目的から考えれば、垂直的制限行為はブランド内競争を制限するが、ブランド内競争の制限自体独占禁止法の対象外の問題であり、その制限が特定市場(一定の取引分野)の競争(ブランド間競争)を制限するか否を基準に規制が行われるのであるから、経済実態として競争促進効果を内在する垂直的制限行為の規制基準は、「公正競争秩序に対する悪影響」(特定市場におけるブランド間競争の制限)をもたらす場合に限定することが必要であり、この基準を超えて規制が拡大することは、法第1条の目的から逸脱した競争を抑圧する過剰規制となり、悪しき政府規制となって規制緩和の対象になることに十分留意する必要がある。

(2)上記(1)の基準の問題と関係するが、垂直的制限行為の規制に当っては、ブランド内競争制限を内在する垂直的制限行為がブランド間競争に対して競争促進的効果と競争制限的効果の両者があるので、両者の比較衡量してブランド間競争が制限が生じるか否かが重要である。したがって、その場合経済実態に即した証拠によって上記事実認定が行われる必要があり、この事実認定の手続においては事前聴聞制度により対象企業がこの事実認定を争う機会が十分保障される必要がある。米国法の予備EU法の場合には担当行政機関において公正な準司法的審理手続が十分整備されている。

(3)「流通指針第2部の第二の3の(注6)の有力なメーカーの基準の市場シェア10%基準はEUの30%市場シェア基準と較べて極めて低く、これは垂直的制限行為の競争促進効果を十分認識していないことから生じているのであり、改善する必要がある。

(4)その他基本的な問題として次の点を指摘しておきたい。

  1) 上記(1)で述べたことと関連するが、垂直的制限行為はブランド内競争の制限を内在している。垂直的制限行為は、再販協定も販売地域制限協定も含めて、同一メーカーのブランド内の流通段階の競争を調整し制限してブランド商品の販売を組織化し効率化しブランド商品の競争力を強化するものである。それはメーカー・流通業者間で販売効率を調整して一般消費者の需要に適応させブランド間競争を強化することを目的とした手段であり、それは基本的にブランド間競争を促進するものである。垂直的制限行為も対象商品の市場シェアが高い場合には、この制限が悪用されてブランド間競争が制限される場合がありうるが、この例外的な場合については当該行為が競争促進効果よりも制限的効果が大きいことを立証して規制する必要がある。垂直的制限行為のこの性格に対して、値上げ協定などの水平的価格制限協定は、その目的がブランド間競争を競争者間で行う行為であり、それ自体で競争制限を目的としており、原則的に禁止すべきものであり、この点で水平的制限協定と垂直的制限行為はその目的・機能が全く異なるのである。ブランド内競争の制限は、それ自体はブランド商品の競争力を強化し、ブランド間競争を促進する効果を持つものであり、例外的にそれが濫用されてブランド間競争の制限のために利用された場合に規制を限定すべきであり、これを超えて規制を行うことは競争を抑圧することになり、それは独占禁止法の目的に反する規制である。この点は垂直的制限行為の規制置いてはもっと基本的な問題であり正確に理解する必要がある。

  2) 公正取引委員会が独占禁止法違反として規制しているいわゆる再販協定事件は、殆どすべてが契約等で強制的に強制している「再販売価格協定」ではなく、「標準小売価格制」である。標準小売価格制の下でメーカーがその遵守を卸売業者・小売業者に要請し、それを流通業者などが自己の販売活動に干渉したと不満を公正取引委員会に持ち込めば、極めて容易に違法な再販売価格維持行為として立入検査の対象となり新聞に独禁法違反として大きく報道され、全ての消費財メーカーはこのことを恐れて、標準小売価格制を行わないか、行ってもその遵守の要請ができないので、標準小売価格制はその機能を発揮することはできない。
問題は、公正取引委員会が「流通指針」に基づいて「価格に影響をもたらす人為的行為」に該当するとして「標準小売価格制」の遵守行為を違法な再販売価格協定に含まれる行為として規制対象としていることである。米国法及びEU法では、「再販売価格協定」と「標準小売価格制」とを明確に区別し、「標準小売価格制」は当初から一貫して原則的に合法な制度とし(米国の場合「合理の原則」の適用・EUの場合条約101条3項に原則的に該当する行為[流通指針の一括適用除外行為]の適用)、「標準小売価格制」の下での小売価格遵守の要請・説得等は合法であり、その結果小売価格が斉一になっても違法ではないとい解釈・適用が行われており、我が国の場合にも両者を明確に区別して「標準小売価格制」の規制基準を規定する必要がある。この点で標準小売価格制においては、メーカーは自己が設定した標準小売価格を流通業者に通知するだけでなく、標準小売価格を尊重・遵守するよう推奨・要請・説得などを行うことが基本的に合法であり、契約又はそれと同等とみられる強制を行った場合にのみ再販協定として規制を検討するよう両者を明確に区別する必要がある。米国法もEU法も両者の区別は明確であり、通常の要請・説得などは当事者間の合意ではないとして規制対象にならない。標準小売価格維持を厳しく規制する背景にはメーカーの設定した標準小売価格が不当であるとの認識があると考えられるが、厳しい競争市場でメーカーの設定した標準小売価格は通常適正であり、その小売価格を不当価格視することは適切ではない。

3) 独占禁止法2条9項4号の「再販売価格維持行為」の定義規定では「相手方に対し当該商品の販売価格の自由な決定を拘束すること」を要件ないし理由として規定している。この要件ないし理由は、米国におけるいわゆる「所有権譲渡説」に由来するものと考えられる。「所有権移転説」は米国の1911年のドクター・マイルズ最高裁判決が再販売価格協定に対して「当然違法の原則」(per se illegal)を設定した法的根拠であり、同判決はこの「所有権譲渡説」がコモンローの原則として存続していたとしていたが、1977年のシルベニア判決はこの原則を詳細に調べてこのようなコモンローの原則はないとして「テリトリー制」に対する「当然違法の原則」を「合理の原則」に変更したのであり、この時以降この原則を再販協定など垂直的制限協定の違法性の根拠として使用する判例も学者も米国では皆無である。さらに2007年のリージン最高裁判決でもこの説は400年前の不動産取引に関する単なる1学説に過ぎないと指摘している。したがって、我が国の独禁法が米国では判例により否定されている「所有権譲渡説」の考え方を再販売価格制限協定の違法性の要件として規定していることは不適正である。「相手方に対し当該商品の販売価格の自由な決定を拘束すること」自体は独占禁止法の規制対象ではないし、この考え方は「メーカーの取引先選択の自由」の考え方と矛盾する側面もあり、規制の要件ないし理由として適切ではないので、適当な時機を見て見直すことが必要である。

4) 現在は、情報技術の進展、経済のグローバル化等によって、国際的な競争が激烈に行われており、主要製品のマーケットシェア・順位等はめまぐるしく変動し、競争が活発に行われていることを示している。このような状況の下で国際的な価格カルテルなどが重要な独占禁止法の規制対象となり、垂直的制限はこの国際競争に有効に対応し効果的な有効競争を促進する機能を持つ場合が多い。したがって、この垂直的制限行為の規制に当っては競争制限の弊害を十分に立証して規制することと規制基準を国際的に調和したものにすることが重要である。

5) 再販売価格協定・標準小売価格制を含む垂直的制限行為について、競争促進効果と競争制限効果を比較検討して後者が前者を凌駕した場合に違法とするとした場合に重要なことは、この弊害効果が証拠により立証されることが保障される必要があることである。そのためには公正取引委員会がその処分決定を正式にする前に、その事実認定や結論に対する対象企業の反対意見及び反証が十分に検討される被処分者の防御権の保障が手続上十分に整備される必要がある。米国法及びEU法では、審査における被処分者の防御権及び処分前の準司法的な聴聞手続が整備され、最近の執行手続では法運用は施行機関の強制的審査権限の一方的適用を回避し、手続当事者間の「対話と討議」による協調的な手続に変化している。この手続問題に対する当研究協会の見解は、2014年11月11日の意見書及び2015年1月28日付の意見書で明らかにしている。公正な証拠に基づく実証的な事実認定を行うようにすることが、長期的にみて公正取引委員会の権威を高めることになると考えられる。
  6) 米国では1960年代の独占禁止法の運用は、圧倒的な経済力と強力な政策を背景に、極めて概念的によく整理された分かりやすい規制基準を整備して厳格な法運用が行われ、世界の独占禁止法の制定・運用に重要な影響を与えた。しかし、その後50年以上たった現在では、世界の経済情勢も著しく変わり、米国の独占禁止法の運用は伝統的な判例法に沿って現実の経済実態に即応した柔軟な規制に変化し、法執行手続も企業側の意見を尊重した「対話と討議」を基調とする協調的な審査・審理方法に変化してきている。実体に即して規制する必要性が強い合併規制・垂直的制限協定の規制の法執行手続等においてこの変化はとくに顕著であり、EUの独占禁止法も同法が判例法であることを公然と主張し、米国判例法の影響を強く受けて変化してきている。我が国でも、これら諸国の運用経験を十分に考慮して、独占禁止法の国際的ハーモナイゼーションに留意することがグローバル経済の進展の中で極めて重要な課題になっていると考えられる。
7) 垂直的制限協定の属すると考えられる技術ライセンス協定、フランチャイズ協定に関する指針についても、米国法及びEU法から著しく乖離しており、その見直しが必要であることを指摘しておきたい。

以上

 

 

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